第30話 討伐作戦

 迷宮深部の牢獄の詰所で、ラヴィーネは僕たちを見回して話し始めた。


「今から、この本に書かれている暴竜『ニーズヘッグ』の記録を話すから、攻略法を検討しましょう。

 ニーズヘッグの大きさは頭から尾の先まで、人の背丈で20人分とあるわ。

 まずエルフの伝承にもあった事実だけど、ニーズヘッグの硬い鱗は、あらゆる物理攻撃も魔法攻撃を通さないってこと。

 私の持っている攻撃魔法ではかすり傷一つ付けられないわ。

 あと攻撃については、その硬い爪と尾っぽに攻撃されたら鎧や盾では防げない。木っ端微塵になるでしょうね。

 あとはブレスね。ニーズヘッグが吐くブレスは、一瞬にして一帯の生き物が草木も含めて腐り落ちるとあるわ。

 暴竜は、そのブレスに耐えれる鱗があるなら狭いところでもお構いなく吹いてくるでしょうね。」


そこまで聞いて、アウグスト卿は言った。

「ラヴィーネで歯が立たないなら俺も役には立てないぜ。弱点はあるのか。」


「そのヒントがこの本には書いてあったの。

 まず一つ目は、ブレスは使うまでに時間がかかること。この荒野を焼き払った際も、1日に何度も使われることは無かった。

 ブレスはニーズヘッグ自身が消耗するらしいわ。

 次に、毒はある程度有効らしいこと。

 ニーズヘッグを眠らせたのは、魔法ではなく毒ね。生贄に多量の遅効性の毒を飲ませて、その生贄を食べさせた。

 それを毎日続けて眠らせたらしいわ。」


それを聞いてエレナがしかめ面した。

「なんて酷いことを...

 その情報は私たちには使えないわね。」


「そうね。現実的ではないわ。

 次に、エレナの神聖魔法はある程度の可能性が期待できるわ。

 短時間だけど防御障壁の魔法で、爪の攻撃を防いだ記録がある。

 ということは他の神聖魔法も有効である可能性はあるわ。

 まあ可能性だけどね。」


その話を聞いてエレナは考えた。

「私の使える神聖魔法は、主に身体能力をあげる支援魔法とあとは治療魔法よ。

 攻撃なんてアンデット相手に聖なる光ホーリーライトが有効なくらいね。」


その言葉にラヴィーネが反応した。

「そう、そのホーリーライトが有効かもしれないの。

 これは私の仮説だけど、ニーズヘッグの力の源は瘴気だと思われるのよ。

 この迷宮にいる魔物は全てアンデットだったわ。

 ニーズヘッグから漏れ出した瘴気が溜まっていると考えられるんじゃないかしら?」


「ということは、ホーリーライトで弱体化できるかもしれないってことね。」


「そういうこと、やってみる価値はあるんじゃない?」


「そうねやってみるわ。」


エレナのやるべきことが固まった。


「私は、この竜の寝室の屋根を打ち抜くわ。」


「はぁ?」

ラヴィーネの発言がアウグスト卿は疑問を持った。


「まあ、屋根が落ちても奴が死ぬことは無いわ。

 1つの理由は、それが我々を隠す目眩しになること。

 2つ目の理由は、長い間囚われていたニーズヘッグは必ず飛び立とうとするはず。

 その時に奴の急所である『逆鱗』が現れるわ。

 本にはニーズヘッグは、たえず喉元を守っていて、そこには逆向きに生えた灰色の鱗が生えているとあるわ。

 何度かの戦闘でそこに攻撃が当たった時には、苦しむ様子が確認されたとあったの。」


「次にアウグ、あなたよ」

ラヴィーネに睨まれてアウグが緊張した。


「アウグは、結界を張ってニーズヘッグが飛び立たないよう固定しなさい。

 これはあなたにしか出来ないわ。」


「でも...」


「姉さんから聞いてあなたのスペックは分かっているわ。

 それでもやるのよ。長い間ここの結界を守ってきたのは伊達じゃない。あなたなら出来るわ。」


「わかった。全力でやろう。」

アウグスト卿は腹を決めた。


「次にリンね。」


「ええ!私ですか?」

この場においては、役立てると思っていなかったリンは慌てていた。


「ええもちろん、しかもここにいる誰よりも危険な任務をあなたにやって貰うわ。

 あなたには、囮になってもらう。本当はフリューが適任だけど、フリューにはやらなければならないことがあるから、この中で2番目に素早いあなたに任せるの。」


 ラヴィーネに真剣な目で見つめられて、リンは唾を飲み込んだ。


「事前にエレナがあなたに強化魔法の重ねがけをする。数分間は通常の数倍の速さで動ける。

 それでフリューが攻撃するまでの間の牽制をしてほしいの。」


 リンは決意をした目で答えた。

「怖いけど...兄さんを守って見せます。

わたしやります!」


「ありがとうリン」

僕はそう言ってリンの頭を撫でた。


「最後はフリューね。

話の流れで分かるわよね。

 ニーズヘッグの喉の逆鱗をその精霊の剣『シャドウブリンガー』で貫きなさい。

 それでニーズヘッグが死ぬかは私にも分からないけどね。」


僕はやるべきことを理解した。


「それでもそれが一番可能性が高いならそれしかないよね。やってみよう!」


 僕らは準備を整えて、暴竜の寝室への扉に手をかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る