第31話 暴竜ニーズヘッグとの死闘
僕は、暴竜『ニーズヘッグ』への寝室への扉に手をかけ、静かに中に入った。
その部屋は蒸し暑く、異臭が立ち込めていた。
そこに明かりは無かったが、僕たちはエレナの支援魔法で暗闇での視力が今強化されていた。
闇の中に巨大な竜がとぐろを巻いていた。
まだ目覚めていないと思われていたが、その金色に輝く目は見開き、確実に僕らを見つめていた
『ほー、人か?...何百年ぶりか...我が言葉を解して驚いていると見えるな』
その言葉は音ではなく脳に直接伝えられた。
どういうこと?
ニーズヘッグが、人の言葉を解するって伝承にはないわよ。
ラヴィーネが、焦って考えをめぐらすと再びニーズヘッグが言った。
『はっはっは、エルフの伝承でも伝わってないだと。それはそうだ。
封印を受けた時にはまだ我は生まれ変わったばかりで、言葉を解するほど成長してなかったからな。』
「頭で考えただけでも伝わるようね。それじゃあ直接話すわ。
あなたは封印されていた中でどうやって言葉を覚えたの」
ラヴィーネの質問にニーズヘッグは答えた。
『ははぁ、時間稼ぎか?、、、良いだろう我も数百年退屈していたところだ。
お前たちエルフは時間を止めていると思い込んでいるが、実際には時間の流れが数百倍に長くなっているだけだ。
数百年の封印は我に数年の時間を与えた。
まあそれでも封印を破るほどの力はないがな。
その間に我が瘴気によって生まれた魔物が人を喰らうことにより知識を吸収した。これで満足か?』
ニーズヘッグの目は楽しそうであった。
『それでは戦いを始めようじゃないか。そのために来たのだろ。』
ニーズヘッグはいきなりブレスを放った。
僕が死を覚悟したとき。僕らに向かっていたブレスは輝く壁に弾かれた。
「はやくなんとかして! あまり耐えられない!!」
エレナが全力で神聖魔法の防御壁を展開していた。
「わかったわ。第二案で行くわよ!」
『ーdèan creaganー』
ラヴィーネが詠唱を唱えると、ニーズヘッグの首の下から鋭く尖った岩が伸びていく。
『ほー、逆鱗への攻撃とは多少は研究してたのだな。』
その対応で、ニーズヘッグのブレスは止まっていた。
「次は耐えるか分からないわ。」
エレナのその言葉に、僕たちは別れた。
今行かなきゃ。
リンは、身体強化が効いた状態でニーズヘッグに向かって走り出した。
「リン無茶よ!」
エレナが叫んだが止まることは無かった。
リンは振るわれた爪に攻撃を交わした。
『ほほお!今回の生贄か?、、、生きがいいな』
爪の攻撃を2撃3撃とかわしたところで、ニーズヘッグの瞳がリンを捉えた。
『見つけたぞ』
ニーズヘッグの鼻息がリンに浴びせられた。
するとリンはその場で倒れ苦しみだした。
『瘴気で弱らせて喰らうのは我の得意としているところよ。』
『ーcuir suas cnap-starraー』
その時、アウグスト卿が張った結界魔法がニーズヘッグを捉えた。
『おお!』
その隙をついて僕は、ニーズヘッグの喉元に潜り込むと、逆鱗に『シャドウブリンガー』を突き立てた。
バキンッ
その音で手元を見ると、『シャドウブリンガー』の刃が砕け散っていた。
『この俗物が!!』
ニーズヘッグは怒りのまま腕を振い僕は壁まで吹き飛ばされた。
僕は痛みうずくまる。
シャドウブリンガーでも傷一つ与えられなかった...
刃の折れた短剣を握り、僕は立ち上がれなかった。
「立ちなさい!フリュー!」
僕はエレナのヒーリングを受け痛みが引いて行くのを感じた。
「精霊の剣『シャドウブリンガー』は、刃なんて飾りよ。自分の力を信じなさい。」
ラヴィーネからの言葉で僕はシャドウブリンガーを見た。
その折れた刃先に実体の見えない何かを感じた。
刃は飾り? まだ使えこなせていないだけ?
前にキルケ様に言われた言葉を思い出す。
僕は、立ち上がって再びニーズヘッグに向かって走り出した。
「待たせたわね!」
『ーmeteor tuiteamー』
ゴゴゴゴーーーー、、、
ラヴィーネの呪文の後、轟音と共に突然天井が崩れ落ちてくる。
『ー
エレナの呪文と共に光が降り注ぎ、ニーズヘッグの鱗を焼いて行く。
『グオオオ』
ニーズヘッグはその痛みに耐えかね逃げようもがくが、
『ーcuir suas cnap-starraー』
アウグスト卿が張った結界魔法がニーズヘッグを捕らえた。
「いまだ!」
僕はニーズヘッグの頭目掛けて駆け寄った。
『やらせはせぬぞ!』
ニーズヘッグが僕に向かって2回目のブレスを吐いた。
僕はシャドウブリンガーを掲げると、そのままニーズヘッグに迫る。
ニーズヘッグが放ったブレスは全てシャドウブリンガーに吸収されていった。
陰を纏いしものその意味について、僕がさっき逆鱗に刃を突き立てた時に一瞬感じたイメージは『力の吸収』だった。
竜を殺すための武器シャドウブリンガーをニーズヘッグの口の中に突っ込むとその吸収したブレスの力を解放し、逆流させた。
手から放たれる力の奔流に飲み込まれて、僕は意識を失った。
その時、僕は何者かに守られているのを感じた....
僕が目を覚ますと目の前には白いゴーストが浮かんでいた。
「僕を守ってくれたのはあなたですね。アルベルト=ローゼンブルク国王陛下。」
『ほっほっほ、助けてくれたのはおまえたちじゃフリュー。
見事ニーズヘッグを討ち取った礼をいうぞ。
これでワシも家族のところにいけるじゃろう』
先ほどの虚な目ではなく王のその姿は鮮明に見えた。
『ありがとう英雄よ!』
アルベルト王はそういうと、微笑みながら消えていった。
王のゴーストが消えた直後、城跡の壁面から無数の白く輝くゴーストがゆらゆら湧き出すように現れ、そして消えていく。
その顔は穏やかであり、不思議と恐ろしさは感じなかった。
「時の封印に囚われていた霊が解放されたのよ。」
そう話すラヴィーネを見て僕は驚いた。
「ラヴィーネ?だよね?」
ラヴィーネの声で語る女性は
「あら、力を使いすぎちゃったから...恥ずかしいわ」
彼女はそう言って照れていた。
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