第28話 迷宮のゴースト
地下一層、封印されていた扉から入ると、リンがしばらく時間をかけて中を観察する。
僕も勇者との旅で、
リンとの逃亡生活の中で、その様子が垣間見れたことから、こと斥候の仕事については僕はリンを信用していた。
しばらくしてリンは振り向いて言った。
「罠はありません。ありませんが...
ここは恐らく地下牢です。左右に扉があります。」
直線にの通路に見えていたが、いざ踏み込んで見ると、ただの通路では無かったらしい、僕らはリンに続いて踏み込んだ。
「確かに、これは牢屋だ。」
アウグスト卿が覗き込みながら言った。
「気をつけてくださいアウグスト様、タチが悪い罠だと覗き穴から毒矢が飛び出てきますよ。」
リンがアウグスト卿を注意すると、「おっと怖い怖い」と言って彼は後退りした。
「とは言ってもここには罠はありませんが...
そういう事もあるから注意してくださいということです。」
と幼いリンに教えられアウグスト卿は頭をかいていた言った。
「すまんすまん、
しかしなんだ、牢の壁には輪っかのついた鎖が垂れ下がってたが、あれは首を繋ぐための物だろ?
これはただの牢じゃないぞ。まるで拷問部屋だ。」
アウグスト卿の疑問にリンも同意する。
「そうなんですよね。私も変だと感じるんです。
ここ迷宮というより、何かの目的に使われていた部屋なんです。
だから罠は無いんですけど。
先ほどの扉は、封印するための扉ではなく、普通に使っていた扉を封印したんだと思います。」
リンの意見にラヴィーネが言った。
「確かにそうね。あの扉に施された封印はそんな感じだったわ。
でも、まあここで考えていても仕方がない、先に進みましょう。」
僕らは地下牢の通路を進むと、その先にはまた木製の扉があった。
リンは慎重に罠を確認し扉を開けた。
リンが中を覗き込むと、すぐに後ろに飛び退いた。そのリンの顔は何かに怯えていた。
魔物か! 僕は短剣を引き抜くと、戦闘体制をとって部屋に飛び込んだ。
しかし、そこには魔物ではなく、椅子に腰掛けた老人がいた。
しかもその老人は体全体が淡く光り、その体は透けている。
「ゴーストよ。」そうエレナが呟いた。
「みんなゆっくり下がって。相手を刺激しないで。」
エレナが落ち着いて指示を出す。
「あなたは私の言葉がわかるかしら?」
エレナの質問に、ゴーストは虚ろな目でエレナを見上げた。
「お、お、何日ぶりの人かな?
今日の仕事か? 忘れておらぬよ。」
その老人のゴーストは、か細い声で話した。
「この人はなんなの?」
僕は小声でエレナに尋ねた。
「このゴーストは残留思念。
この迷宮が封印された時にここで働いていたんだと思うわ。
このお爺さんの感覚的にはまだ数日前の出来事なんでしょうね。」
「大丈夫なの? 僕はゴーストを切ったことは無いけど。」
「大丈夫よ、このゴーストには戦う力はないわ。少し情報を引き出しましょう」
エレナはまた老人に語りかけた。
「お爺さん、あなたはこの地下牢で何の仕事をしていたの?」
「ここが地下牢じゃと? まあそう言っても間違いではないか。」
「地下牢じゃないとするとなんなのよ?」
ラヴィーネが口を挟む。
ゴーストはラヴィーネの方を向くと、急に目つきが変わった。
「おまえエルフじゃな? そんな格好をしてもワシには分かるぞ、そこの男もか?
エルフの臭いがプンプンするわ。
ワシをここに閉じ込めたのはおまえらか?」
ゴーストは立ち上がると、怒りながら空中を漂いはじめた。
アウグスト卿は、ゴーストの剣幕に後ずさった。
カチィ!
アウグスト卿が何かを踏む音がした後、その足元が光り始めた。
「なんだこれは?」
「ほほおー、踏みおったか?」
そう言ってゴーストは喜んでいた。
「危ない!」
その光景を見ていたリンは咄嗟にその小さい体でアウグスト卿を突き飛ばす。
「あっ...」
リンは光に包まれると消えていった。
僕らは慌てて戦闘体制をとったが、、、
「みんな動かないで!!」
エレナがみんなを制止させる。
「お爺さん、封印したのはこの人達じゃないわ。ここはお爺さんが封印されてから数百年経ってるの。」
エレナの言葉に、ゴーストは虚な目をしながら元の椅子に座る。
そして、ゴーストは震える手でテーブルにあったコーヒーカップの取手をつまもうとした。
が、、、その指はカップに取手をすり抜けてしまった。
ゴーストは自分の指を見ながら呟いた。
「ワシは、ここで死んだのか...」
「ねえ、お爺さん教えて、あの光は魔法陣ね。
魔法陣の先はどこに通じてるの?
あなたはここで何をやっていたの?」
老人は虚な目でエレナを見上げると言った。
「ワシは...、ここは生贄の部屋だ。
エルフたちがこの牢に捉えられていた。
ワシは...ここの番人をしていた。」
そういうと、老人はラヴィーネの方を見て怯えながら言った。
「エルフにはすまないことをした。
ワシはここに連れてこられ働かされていた。
望んで働いていた訳じゃないがな。
ワシがエルフに殺されたとて文句を言える立場ではなかったな...」
ゴーストは、そう言うと消えそうにゆらめいた。
「別に恨まないわ。
だって、、、あなたもう死んでるじゃない。
それより、さっき生贄って言ったわね。
何への生贄なの」
「それは、、、暴竜『ニーズヘッグ』よ。
そこの魔法陣は暴竜の寝床に通じておる。」
「なんだって?!」
僕は慌てて追いかけようとするのをラヴィーネが引き留めた。
「待ちなさいフリュー! 一人で飛び込んだら自殺行為よ。
まだリンが亡くなったとは限らない。落ち着きなさい!」
「でも...」
ゴーストは笑いながら言った。
「ホッホ、そのエルフの言う通りじゃ、その魔法陣は竜の寝床に通じていると言っても、直接竜の目の前に出る訳ではない。」
「では、どこに出るんですか?」
「向こう側も別の牢に繋がっておる。
こちらかは送り込んで向こうにいる番人が竜の寝床に連れて行くのよ。
もっとも、今となっては転送先の牢で死ぬまで閉じ込められるだけだがな。」
ゴーストがそういうと、アウグスト卿が聞いた。
「爺さん! 別にあの子のところに行く道はないのか?
俺は、何としてもあの子は助けなければならないんだ。」
「あるといえばある...
いいじゃろ、ワシが案内してやろう。
但し条件がある。」
そう老人に言われ、僕が聞いた。
「その条件とは?」
老人は僕の目を見て言った。
「暴竜を殺せ! ワシの妻と子を殺した暴竜『ニーズヘッグ』をな。」
その老人の目には涙が浮かんでいた。
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