第87話 襲撃の後

 英雄フリューがいなくなった後、轟音を聞きつけた警備の衛兵が駆けつけ、燻っていた火災の消化を行った。


 大司教は、その状況を呆然と見つけていたところ警備の衛兵に声をかけられた。

「大司教様、すぐに手配をするので襲撃者の特徴を教えていただければ。」


「ああ手配な……」

 大司教は上の空の返事をして考え込んでいた。

(英雄フリューの最後の言葉、聖女に加護を与えたのが別の神だと?)


「手配は不要だ。

 これは魔法に賢者の魔法の暴走による事故だった。

 彼女は事故で死んだ、あとは片付けておけ」


 大司教そう指示し早々と出て行こうとしたところ、ちょうどアマティアラはがやってきた。

「これはどういうことですか大司教様?」


 アマティアラに嘘は通じない。

 それを知っている大司教はアマティアラに小声で耳打ちをした。

「英雄フリューに襲撃され、ラヴィーネが死んだよ。

 その辺に血痕が残ってるだろ」

 大司教はそれだけ言うと足早に部屋を出て行った。



「なんですって、私の苦労が水の泡?

 ほんと使えないわねあのグズ!」

 アマラティアは爪を噛みながら憤り、人目もはばからず悪態をついていた。


ーーーーーーーーーーーーー


 大司教エストナート四世は、速足で侍従控室に向かった。


 そこで侍従長を呼び出すと小声で耳打ちをした。

「爺、予定が変わった。

 至急ここを出る。」


「何があったんですか? 聖女様もご存知で?」


「そのアマティアラに騙されていたんだ。

 ここで信頼できるのはあの女の支配を受けていない爺だけだ。」


 ことの重大さに気がつき、侍従長は混乱した。

「大司教様の下で、聖女の力を使って国を掌握するという計画が間違っていたと?

 それでは聖地を取り返すという話は?」


「そもそもアマティアラは女神ミース様の加護など受けていない、狙いは敵対する神による女神ミースの聖地の破壊だ。

 私は間違えていた、ここにいたら命は無い。」


「わかりました、すぐに支度をします。」


「くれぐれもアマティアラに悟られるな。

 あの者は人の心が読める。」


 それから間も無くして、大司教と侍従長は首都北門にたどり着くと、北門が閉ざされており、出口に衛兵が立っていた。

 

 大司教が乗る馬を引く侍従長が言った。

「変ですな、門が閉ざされております。」


「宮殿の火災で賊の警戒をしているのだろう。

 警戒は不要だと指示したのだがな。」


「そこの者、止まれ!」

 大司教が乗る馬を衛兵が止めた。


「こちらは大司教エストナート様です。

 お忍びで出られる、そこの門を通してください。」

 そう侍従長が説明すると衛兵は他の衛兵に耳打ちして、すぐに数名の衛兵が集まってきた。


「私は北門の守備隊長タラン。

 大司教エストナート四世と申されたが間違いありませんな。」


その言葉に大司教はフードを取って答えた。

「私がエストナート四世だ、その言い様は無礼であるぞ。」


「その顔は間違いなく大司教。

 おい! 馬を抑えて捕えよ!」

 守備隊長の指示で、大司教は馬から引きずり下ろされた。

「何をする無礼だぞ!」


「黙れ異教徒が! お前には手配が出ている。

 この異教徒を連れて行け!」


 大司教らはその場で衛兵に取り押さえられ身柄を拘束された。


ーーーーーーーーーーーー


 アマティアラは、大神殿の祭壇の前で、大司教の椅子に腰掛け、その前にはミース教国の5人の高位司祭がひざまずいていた。


 ミース教国には大司教に下で12人の高位司祭が国運営を行っていたが、そのうちの5人は聖女アマティアラが抜擢した子飼いの者であった。

 

 5人の司祭に対して、アマティアラは言った。

「事態は思わしくない方向に動いています。

 未だ国民の精神支配が半ばだというのに、不幸にも大司教が退き、幻惑の森への鍵となるエルフも失いました。」


 5人の司祭は互いに目を合わせ困惑している様子であった。

 司祭のうちの一人がアマティアラに言った。

「それではまた一からやり直しですか?」


 その質問にアマティアラは首を振る。

「幻惑の森を我が物とした後、このミース教国とローゼンブルク王国を精神的に支配する予定でしたが、この混乱で王国の支配は遠のきました。

 聖地の奪還などという悠長なことは必要ありません。

 らと共に、聖地を手に入れます。」

 

「それでは、ミース教徒としての体面は捨てると?」


「そうです、そろそろ女神ミースには退いてもらいます。

 まずは騎士団を使ってクーデターを起こし、女神ミースを信じる上級司祭を排除します。

 すでに大司教は捕えました、後には引けませんよ」


「かしこまりました。

 あの者らとは誰が連絡を?」


「その事なら、すでに伝令役が到着しています。」

 アマティアラがそう言うと、影から1人の男が姿を現した。

 その男はフードを被り顔を隠していた。。


「よく来てくれました。

 魔王らの監視は継続中ですか?」


 男は膝付いて言った。

「はい、森からは出ておりません。

 しかし魔王の側に勇者アイリスが付いており、私などでは殺意を隠すのが精一杯で近づくことは出来ません。」


「分かりました、あの森を解放する日が近ついています。

 時が来たらこちらから戦力をさきます、それまで悟られぬよう注意願いますよ。」

 

「はっ、かしこまりました。

 仲間にその旨申し伝えます。」


 男はそう言うと再び影に消えていった。


「さああなた達も時間がありませんよ、直ちに仕事にかかりなさい」

 アマティアラはそう言って席をたち、神殿を出て行った。

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