第88話 仲間との再会

 宮殿から火の手が上がり、大勢の野次馬が宮殿を取り囲んでいた。

 そこから黒いフードを目深に被った者が抜け出し通りを急いだ。


 野次馬が集まってくる間を逆行すると、人目を忍んで人目の無い裏通りに逃げ込んでいった。


 しかし、その通りの先で、屋根から飛び降りてきた男の陰に立ち塞がれた。

 その男が持つ剣からは黒いオーラが漂っていた。

「よく無事だったね?」


「ここまでね……」

 フードを取ると、その女は死んだかと思われた賢者ラヴィーネであった。

 ラヴィーネは、ダッシュして男とのその距離を詰めるとその胸元に飛び込んだ...


 男はその勢いで壁に押し付けられ、うめき声をあげた。

「痛いって…」


「よく無事だったねじゃないわよ!

 死ぬかと思ったじゃない!」


 ラヴィーネはそう言ってフリューの胸に顔を埋めた。

「あんたが悪いのよ、しばらくそのままじっとしてなさい。」


「おかえりラヴィーネ、でもあの時は本当に死ぬかと思ったよ?」


 ラヴィーネはしばらくフリューの胸に顔を埋めた香りを堪能した後顔を上げた。

「ただいまフリュー、でも私を信じてくれてたんでしょ?」


「ラヴィーネが裏切るなんて考えもしなかったからね。」


「でも仕返しにしてはあれは酷いんじゃない?

 私だってさすがに死ぬかと思ったわ。」


「いや...魔法障壁が発動したのは確認してたし、あの程度の攻撃でラヴィーネ死なないでしょ?」


「あの程度? あれはやり過ぎでしょ? 壁ごと吹き飛んだわよ?」


「あれ位やらないと大司教の目は欺けないよ。

 それにラヴィーネが死んだことを偽装する為に、皮袋に詰めた獣の血をぶちまけておいたから演出はバッチリだったよ。」


「ところで...私を死んだことにする必要あった? 私の筋書きでは嫉妬に狂ったあなたが、愛する私を攫いに来るって流れだったんですけど?」


「ちょっとそれは嘘くさいなぁ...」

「嘘くさいとは何よ!」

 ラヴィーネはそのままフリューの首を締め上げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕はラヴィーネを連れて、街のはずれにある家屋に入った。

「ここはエレナの知り合いが用意してくれた隠れ家だから安心して良いよ。」


 その家ではエレナが待っていた。

「久しぶりねラヴィーネ。

 ふふふっ、それにしても随分とぼろぼろにやられたわね? 大賢者ともあろうお方が」


 ラヴィーネは、ため息を吐いた。

「全くだわ... 囚われている私を王子様に扮したフリューが助け出すって筋書きだったのに、なんなの? 建物ごと狙撃?」


「それはあなたが先にやったから、お互い様でしょ?」


「それはアマティアラの目があったから...

 殺意まで見せないと、あの女の目は誤魔化せないわ。

 それに、あの程度の攻撃でフリューが死ぬわけないでしょ?」


 その発言に僕は抗議した。

「いや崖から落ちた時は死ぬかと思ったよ...」


「だからそれをお互い様って言うんじゃないの?」

 エレナは呆れていた。


「さあ手当するからそれを脱いで。

 フリューは向こう向いてなさい!」


 僕らはそこで情報の交換を行った。

 無事に仲間が合流できた訳で、ラヴィーネの死を偽装する事によって、また少し時間が稼げるだろう。

 それに敵の目的が見えてきたので対策を立てやすくなった。


……が、僕らは何かを忘れていた。


「あっ、リンにフリューを探しに行かせたままだったわ。」

 ラヴィーネは、リンを遠ざけていたことを完全に忘れていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ゴードン神父が用意してくれた空き家には、前の住人が残していったベッドが二つあった。


 疲れ切ってソファーで眠ってしまったフリューをラヴィーネが、浮遊の魔法でベッドに運ぶと、ラヴィーネとエレナはお互い向かい合った。


「私たちは3人でベッドは2つ...

 ねえエレナ、私はずっとフリューと離れていたの。

 だからね、分かるでしょ?」


「ラヴィーネ...

 私はずっとフリューと一緒にいたの。

 フリューの横は私の定位置なの。

 分かるわよね?」


 二人はお互いに一歩も引かなかった。


 しばらく見つめあった後、ラヴィーネはため息をついた。

「はぁ、もう分かったわよ。」


 ラヴィーネは浮遊の魔法で空いているベッドを浮かべると二つのベッドを繋げた。


「私はもう疲れたわ、寝る。」

 ラヴィーネはそう言ってフリューの横に潜り込んだ。


「仕方ないわね。」

 エレナもフリューの反対側に潜り込んだ。


「ねえエレナ、私たち二人は抜け駆けなしでしょ?」


「そうね、でも最近もう一人増えたのよ。

 赤毛の強敵が...」


「あー、あれは強敵ね...」


 二人は疲れ切っていつの間にか寝てしまっていた。

 しかし、二人に挟まれたフリューは夢の中で押しつぶされる悪夢にうなされるのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝、もうすっかり日が登った時間、僕は窓から差し込む光に照らされ目が覚めた。

 こんなに熟睡したのはいつぶりだろう......

 僕はぼうっとしながら昨晩のことを思い出していた。


「確か、安心してソファで寝ちゃったはずだけど......」


 頭が目覚めてくると、僕は動けないことに気がついた。

 薄い布をかぶっていて見えないが、両腕が何か柔らかいものにガッチリホールドされている。

 なんか甘い香りがするし、幸せな感触だけど......おっといけないいけない!


「おい? 朝だよ? おーい!」

僕が声をかけると右腕に抱きついていたラヴィーネが顔だけ出した。

 しかし、

「私は死ぬかと思ったのよ...もうちょっと寝る...」

 そう寝言を言って、寝てしまった。


「おい、エレナ起きて?」

 僕が左腕を揺すぶっても起きてこなかった。


   ガチャ

 その時ドアが開いた。

「私ならとっくに起きているわよ」

 そう言って、エレナが食材が入った紙袋を抱えて入ってきた。


「あれエレナ?? じゃあ左手は誰?」

 

「いい加減起きなさい!」

エレナはそう言って布団を剥いだ。


「夜通し歩いたんです...もうちょっと寝かしてください...」

そう言ってリンが僕の左腕を抱えて眠っていた。

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