第82話 双子の女神

 僕は、一人神殿に入った。


 大聖堂は広大な空間で、誰が何のためにこんな森の中に? 資材の石もないこの地にどうやって石造りの神殿を建てたのか? この原始の森の中に巨大な建造物がある違和感を感じていた。


 大聖堂は静まり返っており、カツン、カツンと僕の足音だけが響いた。

 

 聖堂を進むと祭壇があり、その前に1人の女性がひざまずいて祈りを捧げており、その女性は白いオーラを放っておりなんとも神秘的だった。


 僕が黙って見ていると、その女性は立ち上がって振り返った。


「本当、いつも心配かけさせてばかりね?」

 そう言いながらもエレナは目を潤ませながら微笑んでいた。


「ごめん、色々あって......」

 僕が話し始める前にエレナは僕の胸に飛び込んで来ていた。


「この前まで私が抱きしめていたのに...

 抱きしめられるのも悪くないわね。」

エレナは僕の胸の中でそう呟いていた。


「ごめん...」


 僕が祭壇を見上げると、そこには二人の女神を形造った神像が立っていた。

 その女神は互いに寄り添い合って同じ方向を見つめており、またその顔形がよく似ていた。


「珍しいでしょ? この神殿には双子の女神が祀られているの。

 左が昼を司る女神ミース、右が夜を司る女神テミス。

 本来だと決して会えない昼と夜の双子の女神が一緒に祀られているというのは珍しいのよ。

 なぜここは特別なのだと思う?」


「なぜだろう?」


「それはね、ここが双子の女神が誕生した土地だからなの。

 ここは女神ミースを讃えるミース教の聖地であると同時に、女神テミスを讃えるダークエルフにとっても聖地なのよ。」


 ミース教国とダークエルフの根深い争いの理由がこの神殿にあった。


ーーーーーーーーーーーーー


 僕とエレナが連れ立って神殿から出ると、膝にイブリンを乗せて甘えられているアイリスがいた。

「あ、アイリスのこと話すの忘れてた」


 エレナが僕の脇腹に拳で一発入れると、そのまま走り出した。


 アイリスは、イブリンを膝からおろして立ち上がり、申し訳なさそうな顔をしていた。

「エレナ、心配をかけました......」


 エレナはそのままアイリスに抱きついた。

「心配をかけましたじゃないわよ!

 そりゃあ心配したわよ!!

 この筋肉バカたちは人に心配ばかりかけさせて」


「ごめんなさい...」


「はぁ? 何で反応まで一緒なの?」

アイリスは、エレナの剣幕に困惑していた。


「いいわ、無事戻ってこれたんだから。」

 エレナはそう言って微笑んだ。


 僕らのところに先ほどに男がやってきた。

「魔王様、再会でお喜び中のところ申し訳ありませんが、司祭がお会いしたいと」


「わかったわ。 行きましょ」

 イブリンはそう言うと僕の手を繋いで引っ張った。


 僕らは応接室に案内されると、そこには年老いたダークエルフの司祭が待っていた。

(そういえば年老いたエルフは見なかったけど、ダークエルフはエルフとは違うんだな。)

 

「よくいらした魔王様。

 そして勇者様一行の皆様。

 フォッフォッフォ、今この地にいらしたのは女神のお導きかもしれませんな。」


 司祭にアイリスが聞いた。

「そういえば、私たちを案内した戦士は、我々を随分と警戒していたが、司祭様は違うようだな。」


「この地の結界は強力で選ばれた者しか入ることができませぬ。

 その地に入ってきた者を警戒するのは当然。

 私は其方たちがなぜ入れたか知ってるから恐れてはおらんだけよ。」


「なぜ僕らが入れたのか聞いてもいいですか?」


「そのことを説明するには、この幻惑に森について話さないとならんかの。

 この地には精霊による強い結界が貼られている、この地は精霊の血を有した者に道は開かれる。

 まず魔王様、お主は精霊の血を引いてるじゃろ?」


 首を傾げるイブリンに代わって僕が答えた。

「イブリンのお母さんってラヴィーネの容姿に似ていたって言ってたよね。

 たぶんイブリンの母親はエルフだったんじゃないかな。」


「フォッフォッフォ、太古のエルフのハーフである魔王様は我々ダークエルフ以上に精霊様の血が濃いのじゃよ。

 道が開かれるのは当然。」


「僕たちは、アイリスが幻想を切り裂いて入ってきたんだけど?」


「フォッフォ、その程度で踏み入れることはできんよ。

 そもそも聖剣自体が精霊の力を宿しているのだからその使い手に道が開かれるのは当然。」


 精霊の血を引く者に道が開かれる......その言葉が何故か引っかかった。

「もし、ミース教国側に精霊の血を引く者がいた場合、この神殿を守ることは出来ますか?」


 司祭は、穏やかな表情を一変させた。

「無理じゃな......

 どうやら気づいた様じゃがミース教国が王国に近づいた狙いは、精霊の血じゃよ。

 あの迷いの森に住まうエルフの血があれば結界は解ける。

 ダークエルフの戦力じゃ相手にはならんだろう。」


 司祭の言葉にイブリンが微笑んだ。

「私たちはその為に来たのよ。

 私たちがいれば、なんとかなると思うわ。」


「それはその魔眼で見た未来?」

僕の問いにイブリンは首を振った。

「違うわ。

 だってフリューがいてアイリスがいるのよ。

 あとエレナとウルだって。

 こんなに強いんだもの負ける訳がないじゃない。」


エレナはイブリンの頭を撫でた。

「それは光栄なことね?

 それじゃあ皆んな、私たちに何が出来るか考えましょ?」


 今まで腕を組んで考え込んでいたウルが言った。

「帝国と王国からへの警戒で、魔王軍は手一杯だよ。

 幻惑の森への守りはオイラたちとここにいるダークエルフ戦士たちだけかい?

 ここの結界が破られたら終わりだよ。

 その後は王国、帝国、教国と3方を相手にしなければならない。」


 確かに、幻惑の森の結界が破られたら終わりだが......

 僕はずっと考えていたことを言った。

「僕らは真っ先にラヴィーネを殺さないと負けるよ。」

 

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