第58話 海賊vs海賊

 アリタリアが海賊船の一隻を爆発炎上させたことから、陸に上がっていた海賊たちが港に集まってきていた。

 港には捕らえられた村人も居たことから、アリタリアの攻撃魔法は使えず、上陸しての接近戦を選んだ。


 僕たちは小舟を桟橋につけると、アリタリアは、防御結界を展開、氷の礫アイスブロックなど威力の弱い攻撃魔法を駆使して牽制した。

 その援護射撃の中、僕は距離を詰めて敵の数を減らしていった。


「フリュー、あなた魔術師との連携に慣れてるわね、いい動きをしているわ!」


「アリタリアこそ、初めての連携とは思えない絶妙なフォローだよ! 僕のパーティメンバーと戦ってる見たいさ!」


 海賊たちの後ろに大剣を持ち髭を生やした大男がおり、そいつが海賊達に指示を出していた。


「あいつが親玉ね、こんだけあなたに活躍されると部下に示しがつかないわ。

 あいつは私がやる!」

 アリタリアはそういうと、ワンドを捨て腰のレイピアを抜いた。


「え...? 君って魔術師じゃ無かったの?」

僕はアリタリアの大胆な行動に呆気に取られた。


「腰のレイピアは飾りじゃ無いわ、私は魔法戦士よ!」


 アリタリアは、海賊の集団に突入すると華麗なステップで、次々と賊を切り捨てていった。

 僕はアリタリアの背後について、囲まれないようバックアップに動いた。

 

「お前、エスメラルダ号のアリタリアだな! この化け狐め!!」

海賊のボスはそう言うと、大剣を振りかぶってアリタリアに襲いかかってきた。

 

「何が化け狐よ! アンタ知らないの? 私に悪態ついて生き残ったやつはいないわ」

 大男の大剣を振りかぶると、体重を乗せてアリタリアに切りかかかったが、アリタリアのレイピアは、その細い刀身で大剣の攻撃を受け止めた。

 通常ではありえない光景に大男は冷や汗を流した。

 

「ありえねぇ......」


 アリタリアは、右手のレイピアで大剣を受けたまま、左手で男の額を指差した。


「ありえないから魔法なのよ。 バァン!」


 アリタリアの指先から氷の弾丸が打ち出され、男の頭が吹き飛んだ。


 僕は、周りの敵を牽制しつつアリタリアと海賊のボスとの戦いを見ていたが、アリタリアの戦いぶりに驚いていた。


「多重詠唱に無詠唱、しかも魔法戦士って...

 アリタリアって本当に優秀なんだね。」


「でしょ?」

アリタリアは僕の方を笑って振り返った。


(僕は、あの時アリタリアをナイフで制圧した気でいたが、本気になって戦っていたらナイフで凌げたか...?)

 僕は最初に会った時を思い出して冷や汗が出てきた。


「ボッ、ボスがやられたぞ...」

まだかなりの数の海賊が残っていたが、ボスの死に様を目にして、アリタリアと僕から距離をとった。


 ちょうどその頃、後続部隊が上陸して残敵の制圧を開始した。

 最後には、数名の海賊が森に逃げ込み、残った20人ほどが捕えられ戦いは終わった。



 アリタリアは当初の方針どおり、村から奪ったものも含め、敵船にあった酒などの嗜好品や貴金属などを自分達のものとした。


 売って復興資金に充てるため、残った2隻の船の処分は村人に委ねられた。

 捕らえた海賊の処遇についても村に任せることとなったが、村人から死人が出ている以上、全員殺されるだろうことは予想ができた。

 

 アリタリア側の被害は軽微とはいえ、労力に見合う儲けなどはなかった。

 しかし、それがアリタリアが率いるエスメラルダ号の船員の矜持であるとマーカス副長が言っていた。

 

 僕が後部のデッキで離れていく村を見て黄昏ていたところ、アリタリアに声をかけられた。


「海賊行為には手を貸さないとか言って、私をこき使って、一番暴れてたんじゃない?」


「そんなつもりは無かったんだけどね......

 女、子供が襲われてるのを見たら勝手に体が動いた。」


「ほんと甘ちゃんだねぇ。

 そんなだと海賊としてやっていけないよ?」


「僕、海賊になるって言った?」


 僕の言葉にアリタリアは笑い出した。

「はっはっは! 前言撤回だ、フリューは海賊に向いてるよ!

 あんたにはカリスマがある、いい船長になれると思うよ」


「船長ねぇ...

 船旅も自由で気に入ってるけど、僕が自分の船を持つなんて考えも出来ないよ。」


 僕がそう言うとアリタリアは船の中央のデッキを指差した。

 アリタリアの指し示す先には、小舟が吊り下げられていた。


「ほらっ、あんたの舟は回収しておいたよ」


 あれは僕とアリタリアが漁村に上陸するのに使った小舟だ。

「こりゃあいいや!

 これは僕の戦利品だよね。

 この船を今は無き僕の相棒『シャドウブリンガー号』と名付けよう。」


「良いじゃない、『シャドウブリンガー号』

小舟に似合わず強そうだわ。」

 アリタリアは、手先の器用な船員を呼びつけると、ナイフで小舟に船名を彫らせた。




 その頃、遠く離れた場所で、魔王城に帰還するため愛馬ブランシュに乗っていたエレナは、腰に下げた精霊の剣『シャドウブリンガー』が震えるのを感じた。

「気のせいかしら?

 何か精霊が少し怒っているような気がするわ。」


 エレナは、腰の剣の持ち主のことを思い出して呟いた。

「ほんと、フリューは今ころ何をしてるのか。

 まあきっとどこかで女の子を助けているんでしょうね。

 悪い女に引っかかってなければいいけど...」


 『英雄の守護者』たるエレナには、フリューが無事であることは感じることはできるが、それでも心配なのは隠せず、遠い地の彼に思いを馳せていた。


「魔王様への報告が終わったら、休みをもらって探しに行かなくっちゃね。

 さあ、急ぐわよブランシュ!」

というと、エレナは愛馬ブランシュに持続力強化の支援魔法をかけ加速させた。

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