第76話 最後の航海【第二章完】

 僕が幼女ウェヌスを連れてエスメラルダ号に戻ると、周りからものすごい白い目で見られた。

 しかし、その幼女がウェヌスが再生した姿だと分かるとみんな驚きに変わり、アリタリアはウェヌスに抱きついて泣いて喜んでいた。


 ティアマトとはそこで別れたが、ウェヌスを介してティアマトの言葉が届くことが分かり、あまり別れる寂しさは無かった。


 エスメラルダ号が、タンジェ海峡の海域を離れると、ドレイク船長が乗るアヴァロンの2隻と合流した。

 僕らは、魔王領に近い港までエスメラルダ号で送ってくれることとなり、リディとはここで別れを告げた。


「フリュー、ウルよくやってくれた。

 アヴァロンに帰ったら報酬を出したいところなんだが、お前たちは冒険者ギルドに登録があるのか? ギルドに預けるって手もあるんだが。」

 ドレイク船長からそう申し入れされたが、僕らには冒険者騙ってはいるが、冒険者ではないのでギルドに登録は無かった。(今度機会があれば冒険者ギルドに登録しよう)

「あいにく僕らはギルドには登録してないので、報酬は貸にしておきますよ。

 またいつかアヴァロンに行くことがあったら取りにいきます。」


「わかった借りにしよう。

 必ず来いよ、リディも待ってる」


突然話を振られてリディは慌てていた。

「もちろん待ってるわよ。

 ウルもね。」


「おいらリディの家で食った魚料理が忘れられないんだよ。必ず食いに行くよ」

 そう言って僕らは手を振りながら船が離れていった。



 そこから3日間、何もない海での航海が続いた。

 何もない、けれど僕は船縁から海を見て過ごす時間が気に入っていた。

 僕がぼうっと海を眺めていると、後ろからアリタリアに声をかけられた。


「もう明日でお別れだね。 海が名残惜しい?」

「そうだね、僕は海を初めて見たのはつい先日のはずなんだ。

 でも海を見ていると懐かしい気持ちになるのはなぜだろう?」

 僕の言葉にアリタリアは笑った。

「ハハハ! あなたって意外とロマンティストなのね。」

「変かな?」

「変じゃないわ、生き物は海から生まれたって言われているわ。

 海が懐かしいのは生き物の本能じゃないかしら? 私は海に生きているから懐かしいという気持ちはないけど、もし離れることがあればきっと海が懐かしくなるのでしょうね。」

 

「あら2人とも、ずいぶんと楽しそうね。」

 幼女ウェヌスを抱っこしたエレナが僕らのところに近づいてきた。


 アリタリアはエレナに微笑みながら言った。

「聖女さん? 私ばかり警戒していていいのかしら?

 もしかして、あなたのライバルが私だけだと思ってる?」

エレナは首を傾げて言った。

「リディはもう居ないわよ。」

「フッフッフ、いい気なものね。

 いいわ教えてあげる、一番警戒しなければならないのは、あなたが抱っこしているその幼女よ!」


エレナは、きょとんとしてウェヌスを見た。

ウェヌスは...目をそらした。


「フリュー、あなた全然手を出して来ないと思ったら......幼女が好きなの?」

エレナに問い詰められて僕は目をそらした。


 いつのまにか近くに来ていたウルが僕に耳打ちをする。

「兄貴、さっきから聞いていたけどエレナは絶対誤解しているぜ。」

「でもウェヌスの正体を知ったら、もっと悪いことになりそうな気がするだろ?」

「確かに......」


「ああウル忘れてたよ!

 男同士で船のことを副長に教えて貰うんだった! ありがとう教えてくれて、さあ行こう!」

僕はウルを引っ張って船室に入って行った。


「逃げたわね」

「逃げたね」

アリタリアとウェヌスがそういうと、エレナはキョトンとしていた。


ーーーーーーーーーーーー


 翌朝、沖にエスメラルダ号を停泊させ、僕らは上陸艇で街に近い浜辺に降りた。

 エレナは愛馬『ブランシュ』に荷物を積み込み出発の準備をしていた。

 

「こんなところで降ろして悪いわね。

 一応私たちは海賊だから」


「いやありがとう、ここで十分だよ。」


 アリタリアはしばらく俯いていたが顔をあげて微笑んだ。

「フリューと会えて楽しかったわ。

 私が生きてきて今までで一番の冒険をさせてもらった、ありがとう」

「僕の方こそ。

 今までの旅は僕の使命とかに縛られていたけど、今回の旅は僕自身の意思で成し遂げたんだ。

 まあアリタリアに攫われたのは僕の意志じゃ無いけど、結果楽しかったんだから良かったんだよ。」


 アリタリアはかぶっていた海賊の帽子を僕にかぶせた。

「キャプテンフリュー、あなたにエスメラルダ号の名誉キャプテンの称号を与えるわ。

 いつでも戻ってきなさい。

 私とあなたなら最高のパートナーになれると思うの。

 戻ってきたら私の船長の座を譲ってもいいわよ。」


僕はこの帽子が気に入った。

「ありがとうアリタリア、魅力的なお誘いだね。

 必ずまた帰ってくるよ、この海は僕の故郷みたいなものだからね。

 名残惜しいけどそろそろ出発する、本当にありがとう。」


 僕がそういうと、アリタリアは僕の首に腕を回していきなり口付けをした。

 そして、走って上陸艇に戻ると手を振りながら岸を離れていった。

 僕はぼうっとしながら唇に手をあて、アリタリアが離れていくのを見守っていた。


「また? フリュー!あんたは隙がありすぎるのよ! そこでじっとしておきなさい、浄化の魔法をかけるわ」

 エレナの剣幕に苦笑いしながら、僕は歩き出した。


「さあ帰ろう、またヴァンパイアが裏で手を引いてたんだ。

 イブリンに報告しなければならないことがいっぱいあるよ。」


「ちょっと、またそうやって話を逸らす!」


「僕はいつだってエレナと共にいる。

 心配しないで!」


「ななな、ずるいわ」

エレナは真っ赤になって抗議した。


 先頭を歩いていたウルが呟いた。

「あー、またこの甘々の日々が始まったのか......」

 ウルに肩車をしてもらっていた幼女ウェヌスが言った。

「ふふふ、私が居るんですよ? もう甘々になどさせるものですか!」


 ウルはそれはそれで心配だと感じて、ため息をつくのであった。



※※※


これにて第二章完となります。


第一章と様変わりして海洋冒険ものとさせていただきましたがいかがだったでしょうか?

 感想についてはレビュー等で教えていただければ嬉しいです。

(辛口コメントは星1のみ送ってもらえばと...)


さて第三章ですが、

少しずつ書き溜めていますが、ちょっとハードな方向へ進む予定です。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。

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