第三章 女神戦役

第77話 神聖ミース教国からの使者

 ローゼンブルク王国の王宮の謁見の間、そこでは神聖ミース教国からの使者を迎えていた。


「長きにわたる我が教国と王国との友好を永きものとしようというこの提案、どうか聞き届けてはいただけませんか?」

ミース教国の聖女アマティエラが、玉座に座る新王アウグストに願い出た。


アウグストは渋い顔をして答えた。

「王であってもこの場では即答することは出来ない、少し時間をいただきたい。」


その言葉に聖女アマティエラは目を細めた。

「あまり時間はありません。

 私自ら出向いた理由をご理解いただけますか?

 この国には明日まで滞在する予定ですので、それまでにお答えをいただきたい。

 もっとも、提案を受け入れないということがあるとは考えてはいませんが」

 聖女アマティエラはそう言うと謁見の間から出て行った。



 横で聞いていた賢者ラヴィーネはいつになく考え込んでいた。

「今のこの国の情勢では教国の提案を飲まざる得ないわ。

 その上で抜け道を探すしか方法は無いと思うけど、あの聖女様にそんな時間稼ぎは通用しない。」


アウグストは理解できずラヴィーネに聞いた。

「つまりはどう言うことだよ」

 アウグストの問いにラヴィーネは答えた。

「アウグスト国王陛下、あなたは同盟国である魔王国と、この国の国教に等しい神聖ミース教国とどちらと戦争するか選べなければならない。」

「中立という選択肢はないと?」

「中立だと言えばミース教を破門され、あなたは失権するわ、次の王はミース教徒から選ばれるでしょうね。」


「俺はそれでも構わんが......」


「あなたと私の故郷であるユグドラシルの森はミース教の教義には合わないわ。

 魔族狩りの次の標的はエルフ狩りね。」


バンッ!

アウグストは玉座の肘掛けを力任せに叩いた。

「クソッ! 提案を受け入れない選択肢は無いだと?! 提案を飲んでも飲まなくても国が滅びる。 あの女は俺たちに死ねと言うつもりか?」


 ラヴィーネは顔つきで言った。

「魔王国ファーレーンと国境を断絶し改めて宣戦布告をする、それしかこの国が生き残る道はないの。

 フリューたちを敵に回して私たちが勝たなければこの国も私たちの故郷も滅びるという事よ。」


 その言葉にアウグストは驚愕した。

「ラヴィーネ、おまえはそれで良いのか?

 この国の参謀は腰掛けだろ? フリューの元に帰りたいだろ?」


 ラヴィーネは悲しそうに笑った。

「魔王軍に寝返って教国と王国を滅ぼせるなら迷わなくそうするわ。」


「ヴァンパイアの傀儡から抜け出せたかと思ったら、今度は教国か......」

アウグストは新王となったことを後悔した。


ーーーーーーーーーーーーー


 僕らが魔王城に戻って1週間がたったころ、城に王国の使者としてリンが訪ねてきた。

 久しぶりに会ったリンは王国の文官の制服を着ており、少し髪が伸びたようだった。


「リン、しばらく会わないうちに大人になったね、見違えたよ。」


「そうですか? 兄さんこそ何か変わったと思いますよ、なんか自信に満ちているような。

 そころで、魔王様より幼いその幼女は?」


「ああ紹介するね、彼女はウェヌス、成り行きで僕らに付いてきたんだよ。」


僕がそう言うとウェヌスはお辞儀をした。

「私はウェヌス、フリュー様にはお世話になっております。よろしくお願いします。」


「ずいぶんしっかりとした子ですね。 私よりも年長者みたいな雰囲気がありますよ。」


「あははは、そうかもね...」


 その時、リンの顔つきが変わった。

 その顔は僕が見たことがない精悍な顔つきだった。

「私は、ローゼンブルク王国の使者としてここに来ました。

 魔王様にお目通り願えますか?」

「それはもちろん、イブリンも喜ぶと思うよ。」

 僕はリンを連れて会議室に向かった。

 

 テーブルの上席にはイブリンと副官の魔将ラミアが席につき、エレナ、ウルなどのかつての仲間が揃っていた。


「また会えて嬉しいわリン、どうぞ座って」

そうイブリンから声をかけられるも、リンはその場を動かなかった。


「立ったままで失礼します魔王様、私はローゼンブルク王国の士官としてこの地に来ました。

 かつての私と立場が違うとお考えください。」

 そのリンの顔つきにラミアが反応した。

「王国からの文書を預かってきてるのでしたね、その内容をお聞かせ下さい。」


「分かりました」

リンは懐にしまってあった封書を開けると、その手紙を読み上げた。

「我がローゼンブルク王国は、貴国領幻想の森の神聖ミース教国への割譲を求める。

 応じられない場合、貴国との盟約を破棄し、貴国に対して宣戦布告するものとする。

    国王アウグスト=ローゼンブルク

以上です。」

 リンはその文書を封筒にしまうと、テーブルに置いた。


「リン何を言っているのか分かっているの?

 何か裏があるんでしょ? 心配ないから私たちに教えてよ」

 エレナは狼狽してリンに言った。

 リンは顔色を変えずに話を続けた。

「文書にはありませんが、本国からの伝文があります。

 エレナ=オーランド、あなたはミース教司祭として本国教会への帰還を命じます。」

「私はミース教徒に帰依した覚えは無いわよ? そんな命令を聞ける訳無いでしょ?」


 エレナの剣幕にリンは動じることなく言った。

「いいでしょう、それでは帰国次第報告させていただきます。

 ミース教徒を破門となるでしょうね。

 次にフリュー様、あなたは王国を離反した指名手配者との記録が復活しております。」


 僕が王国の指名手配者?





 


 

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