第78話 宣戦布告
僕はその内容よりリンの変わりように驚いていた。
「どうしたのリン、僕に助けられることは無い?」
僕の顔を見て、リンは苦笑いをした。
「兄さん、いい加減そのお人好しをどうにかしないと身を滅ぼしますよ。
王国の士官としてのリン=オーランドはここまでにしましょう。
これから兄さんの妹、ただのリンとしてお話しさせていただきます。
くれぐれも王国の士官の言葉とは思わないように」
そのリンの顔を見て少し安心した。
「分かった。」
リンは、王国内であった内情を話した。
「神聖ミース教国は、北部の帝国と軍事同盟を結びました。
帝国は南部進行の足がかりに魔王国領土の一部を狙っています。
教国は、魔王陵内にある幻惑の森の領有権を求めています。
敵の敵は味方という訳ですね。」
「それがなぜ王国が巻き込まれているのさ。」
ウルの問いにリンは答えた。
「一つは王国の国民の大半はミース教徒だからですよ。
先代フリードリヒ王の頃から、国王をミース教の聖人と認定していました。
流入してきたミース教徒の移民対策に都合が良かったんでしょう。」
「もう一つは?」
「先の魔王国との対戦の際、王国は教国と同盟を組んで魔王国と戦っていました。
結果、王国が勝利したあと、戦後の処理も終わらないうちに勝手に王国と魔王国が同盟を組んだ訳です。
今日からしてみたら、魔王国との紛争は終わっていないという事になり、同盟関係にある王国は魔王国と戦う義務があるという主張です。
「なるほど言い分は分かるが...」
僕が呟くとリンは言った。
「理由はまだありますよ。
王国に流れている川の源流はミース教国から流れてますから、生命線を握られているようなものです。」
「理由は分かった、王国はミース教国から参戦を求められたという訳だろ?
で、アウグスト王というより、ラヴィーネの考えを教えて欲しい。」
僕の問いにリンは顔を曇らせた。
「先ほどの宣戦布告に裏はありません、そのまま幻惑の森が教国に割譲されなければ王国は参戦するでしょう。
私はそう聞いています。」
「そんなバカな......」
僕にはラヴィーネの考えが理解できなかった。
「ラヴィーネは、教国と戦争になれば必ず負ける、そう考えています。
そして負けたら、迷い森にある聖都ユグドラシルが次の標的となると」
「それで僕らと戦争をする方を選ぶと?」
「兄さん、その判断は今魔王国側に委ねられました。
これが王国としての最大の譲歩です。
魔王国が幻惑の森を諦めれば、ラヴィーネと戦わずにすむのです。」
僕はラミアを見て聞いた。
「なぜミース教国は幻惑の森を求めているの?」
ラミアは僕の問いに答えた。
「幻惑の森は、我が民であるダークエルフの集落があります。
そこには古い神殿があるのですが、その神殿が女神ミースを祀るミース教の聖地なのです。
ダークエルフにとってもその神殿は聖地であり、そこを譲るという選択はダークエルフを見捨てるということ、今の魔王国が簡単に飲める選択ではないのです。」
その話を黙って聞いていたイブリンが話し始めた。
「フリュー、もういいわ。
これは私たち魔王国の問題でしょ。
フリューは自分の良心に従って、もし王国に戻ると言うならそれを許します。
もちろんエレナもね。
リン、私たちはダークエルフと見捨てることは出来ません。
帰ってそう王様に伝えて。」
「分かりました。
私もラヴィーネとアウグスト王を裏切ることは出来ません。
兄さんとエレナはどうしますか?」
エレナは当たり前のように答えた。
「私はフリューの側にいる、それがお父様と離れることがあってもよ。
私は『英雄の守護者』だから、最後までフリューと共にいるの」
「エレナは強いですね。羨ましい。」
エレナとリンは僕の答えを待った。
僕の良心は、僕の信念は......
僕はエルフの里を救いたい。でもイブリンたち魔族やダークエルフも見捨てたくはない。
ラヴィーネやリンはそれぞれの信じる道を選んでいて、それは間違いじゃないけど。
でも本当に選ばなければならないのか?
「フリューはどうするの?」
エレナに聞かれ我に帰った。
「僕は......
僕は選ばない、みんなを助ける道を探す。
幻惑の森は僕が守る、だけど必ず王国を救う道を見つける。
それじゃダメかな?」
「全然良いわよ、さすが私の選んだ英雄ね。
それでいきましょう」
エレナは僕の答えに満足してくれた。
「私は甘い考えだと思います。
ですが、それが兄さんらしいと思います。
ラヴィーネが言っていました。
教国の聖女の前で裏で結託することなんて出来ない、だから根回しなどはしない。
結果は選ばれた者が導くものなんですって。
兄さんが選ばれた者なら自ずと道は開けるでしょう。」
「それでは皆さん、私は使命を果たしたのでこれで失礼します。
次に戦場で会ったら敵同士かもしれませんが、私も命をかけて戦いますのでご理解ください。」
リンはそう言い残すと、魔王城を離れた。
次に会う時はリンもラヴィーネも敵同士となるかもしれない。
そう考えると僕は寂しく感じた。
ーーーーーーーーーーーー
リンが帰った夜、僕が魔王城のバルコニーで城下の灯りを眺めていると、そこにイブリンと、イブリンに手を引かれたアイリスがやって来た。
「ありがとうフリュー、私はフリューに王国に帰っていいって言ったけど本当は不安だったの。
魔王軍だけでは幻惑の森を守りきれないって知っているから。」
イブリンはそう言って僕の足元に抱きついた。
イブリンは顔を埋めながら震えていた。
(本当に不安だったんだな)
僕はイブリンの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよイブリン、僕も迷いがあったけど君のことは守るから安心して」
そんな僕に突然アイリスも抱きついてきた。
アイリスは感情が無い瞳のまま、無言で僕の胸に顔を埋めて震えていた。
イブリンはそんなアイリスを見て顔を上げて笑った。
「フフフ、私につられちゃったのかしら?
アイリスも怖かったのね。」
「大丈夫だよアイリス、僕は君のことも必ず守るから」
僕はそう言ってアイリスの頭も撫でた。
アイリスは、まだ感情がない人形のようであったが、徐々に回復している兆しが見えて僕は嬉しかった。
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