第74話 タンジェ海峡海戦
エスメラルダ号は、混乱して迷走している敵船団の中に突入した。
敵船が同士討ちになることを恐れ、砲撃できなくなるかと予想したが、予想外に困難の中で砲撃を続け、実際に同士討ちとなって被弾する船も多かった。
エスメラルダ号は、アリタリアの防御障壁の上にエレナが二重に防御障壁を張って、鉄壁の防御体制をとり全ての攻撃を弾いた。
「中々やるわね船長、さすがは私のライバルね!」
「そっちこそ聖女様、私に匹敵する女は初めてよ!」
二人は甲板と物見台で讃えあったが、決して仲が良さそうでは無かった。
「じゃあほどほどにね、僕は行くよ。」
僕は、シャドウブリンガーを長いロープ状にして敵船のマストに巻きつけて飛び移った。
僕は帝国の船に乗り込むと、襲いかかってきた敵兵を切り裂いていった。
別の船ではウルが乗り込んで戦っていた。
ウルの上空からコウモリの様な羽をつけたヴァンパイアが数体か飛来してきたが、全てエレナが放った光線で焼かれていった。
「ちょっとオイラの獲物を取らないでよ!
ただでさえ目立てないのに」
船団はエスメラルダ号を中心に密集状態となっていくが、エスメラルダ号は船団の中央を抜けて背後に回り込み、攻撃手段の少ない背後から砲撃を浴びせた。
硬い防御障壁に守られたエスメラルダ号に対して、帝国の船は徐々にその数を減らしていった。
僕が乗り込んだ帝国の船では、その船の船長と対峙していた。
「抵抗をやめて投降するんだ、そうすれば命までは取らないよ」
僕が剣を向けて一応の警告を行うと、船長は冷静さを欠いて震えていた。
「この化け物どもが......勝ったと思うなよ。
今頃は、我が司令官殿が別働隊を率いて......」
そう捨て台詞を吐いて切り掛かってきたことろを僕は袈裟斬りに切り捨てた。
「僕らにも別働隊はいるんだよ。」
ーーーーーーーーーーーーー
その戦いから離れた場所に、船団から5隻が別働隊として移動していた。
そのうちの1隻は帝国の旗艦であった。
その旗艦に乗艦したリドニア帝国の司令官グンジェイは苛立っていた。
横にはヴァンパイアを率いていた将軍バラモスがいた。
「あそこで死んでいるのは、お前たちが使役していたクラーケンでは無いのか?
我が帝国は、長年の宿敵リヴァイアサンを討伐できるチャンスと聞いて船団を派遣したのだぞ、そのリヴァイアサンはどこに行った?」
バラモスは憮然とした顔で言った。
「まさかクラーケンが倒されるとは我々も予想外だったのだよ。
クラーケンと繋がっていた我がヴァンパイアの術者が、突然に雷に撃たれたかのような衝撃が降ってきた、と言っている。
我々も自然災害は予測できんのさ。」
「白々しい言い訳はやめろ! その後にその術者が干からびたように死んだのはどう説明する?」
「まあそういきり立つな、まだ我々は負けてはない。
リヴァイアサンの半身とも言える人魚たちの里があの先にある。
それを根絶やしにして次の機会を待つのだ。
まもなく来る帝国の南部侵攻の妨げになるものだぞ、その成果を持ち帰れば皇帝陛下も喜ばれよう。」
「もうお前たちの言うことは信用ならん。
が、しかし、このまま帰る訳にもいかん......
お主の言うことを聞くのはこれが最後だと思え」
5隻の帝国の船は入り江に近づき停船した。
「ここからは上陸戦だ。上陸艇を下せ!」
その指示により、船から兵士が乗った上陸艇が次々と下ろされていった。
上陸艇が漕ぎ出されて進むと、先頭の上陸艇の下の海面が突然泡だった。
「なんだ?」
「下から何かが上がってくるぞ!」
ザバァン!
その上陸艇は巨大な竜に噛み砕かれ、船体が真っ二つに割れた。
「リバヴァイアサンだ! この下にリヴァイアサンがいるぞ!!」
上陸艇に乗った男たちがパニックに落ちいった。
すると、上陸艇の先の海面が泡立ち巨大な竜が浮上し、静かに睨みをきかせてきた。
帝国の兵たちはその威圧感に動けないでいたが、バラモス将軍はいち早く立ち直り指示を出した。
「砲撃だ! 砲撃するんで!」
ドカァン! ドカァン!
5隻の大型船から一斉に砲撃が開始されたが、ティアマトは身体に魔力を纏い砲撃を弾いた。
『不意打ちを喰らわねば、この程度どうという事ではない。
......と言っても通じない相手に話すのは虚しいだけじゃな。
あやつと100年ぶりに会話して、孤独がつまらないものと思い知らされた。
さっさと始末をするか......』
ティアマトはそういうと口を開けて魔力を貯め、そしてそれを一斉に放出した。
ティアマトから放たれたブレスは、一撃で上陸艇と5隻の大型船を薙ぎ払い、全てが炎上して沈んでいく。
『一匹逃したか?』
将軍バラモスは、ティアマトがブレスを吐く瞬間に飛び立って一撃を逃れた。
「ここまでか、またしてもあの
そう言い残しバラモスは飛び去った。
ーーーーーーーーーーー
船団の本体のうちヴァンパイアの船は全てエレナの
残った帝国の船5隻は散り散りとなり転身して逃走していく。
こうして1隻対20隻超の艦隊戦は、短時間で決着がついた。
僕と、ウルは奪った上陸用の小舟に乗って漂っていた。
帆もなければ、漕ぐオールも無くただ漂って助けが来るのを待っていた。
僕もウルも複数の船を制圧したが、彼女たちの活躍には見劣りするものだった。
「終わってみたら、あの二人が全部持っていったね。」
ため息をつくウルを僕が慰めた。
「僕たちは運がいいのさ。
あの二人が敵じゃ無かったんだからね」
エスメラルダ号は僕らを見つけたらしく、進路をこちらに向けていた。
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