第73話 エスメラルダ号突入
僕らのヨットがエスメラルダ号にたどり着いたとき、すでに帝国の船団は大砲の射程距離に迫ってきていた。
リディのヨットが横付けされ、僕は縄梯子を上がった。
「クラーケンは倒した、でもウェヌスたちセイレーンが......」
「そう......
でも、悔やむのは後にしましょ、私たちの危機は脱していないわ。」
アリタリアは一瞬哀れみの顔を浮かべながらも、先のことを考えていた。
「クラーケンが周囲の魔力を吸い尽くしたみたいで魔道推進に必要な魔力が足りないの。
攻撃するにも奥の手の魔導砲はあと1発が限界.......」
アリタリアが説明している間に、エレナが縄梯子を登ってきた。
「ってどなた? 聖職者がお悔やみに来たという訳でもなさそうね。」
「私はフリューの、」
「彼女はエレナ=オーランド、僕の仲間で神官だよ」
余計なことを言わせまいと僕が遮ると、またしてもエレナは不満そうな顔をしていた。
「彼女はアリタリア、この船の船長だよ。」
エレナは僕の後ろに隠れて、横から顔を出すとアリタリアを睨んでいた。
「あなたはライバルね? 私には分かるわ。」
アリタリアはリディのように軽く受け流す......ことは無かった。
「ふーん、そういえばフリュー、あなた船旅に憧れているって言ってたわよね。
あなたさえ良かったら、ずっとこの船にいてもいいのよ。
なんなら船長の座を譲ってあげても」
僕の背中に冷たい風が流れた。
「ちょっと目を離すと..........」
その時、ウルを乗せたティアマトが海面から顔を出した。
「ごめん兄貴......
たいした足止めは出来なかった。
あいつら味方の船にいるおいらを容赦なく砲撃してくるんだから正気じゃないよ、って.....なんでエレナがここに?」
ウルは雰囲気を察してティアマトの頭上からなかなか降りてこなかった。
『一人で2隻も沈めたのだ、この子を責めるでないぞ』
「大丈夫、相手は二十数隻の大砲を詰んだ大型船とヴァンパイア、こちらは大型船1隻と伝説の竜、いい勝負だと思わないか?
今僕たちに出来ることをすべきだ。」
そして僕はメンバーそれぞれに指示を出した。
僕の案にアリタリアは呆れていた。
「正気じゃないわね、あなた海賊以上に海賊らしいわ。」
エレナには傷ついたティアマトを神聖魔法で治療してもらい、ティアマトも戦力として加わってもらった。
「ごめんティアマト、僕はセイレーンたちを助けることができなかった......」
『わかっておる......お主の責任ではない。
幸いにもあの娘たちはクラーケンに取り込まれてはおらぬ、我の元に帰り我と一体になっただけだ。
魂は死んではおらぬよ』
ティアマトはそう慰めてくれた。
「そうだね、悔やむのは終わってからにしよう。」
『お主、我の話を聞いておるのか?
魂は死んでおらぬ、故にお主が悔やむ必要などない……』
「ありがとうティアマト、でも僕には魂とその器とが別のものだと考えることは出来ないんだよ。」
『人となは難儀なものだな』
ティアマトは優しい目で僕を見ていた。
ーーーーーーーーーー
「全速前進」
アリタリアの指示で、魔力を回復したリディが、エスメラルダ号の帆に風を送った。
「マーカス、魔導砲発射準備、目標は敵船団の中央」
「アイマム!
魔導砲発射準備急げ! 照準敵船団中央!」
マーカス副長の指示で船員は手際よく照準を合わせると魔導砲にカードリッジを充填した。
「カートリッジ充填完了、発射準備よし!」
「撃て!」
ーーービジュン!!
エスメラルダ号から放たれた光の束が、敵船団の中央を通過し、中央付近にいた船3隻が爆発炎上させ、付近の2隻が煽りを受けて炎上した。
望遠鏡で観測したマーカス副長が報告する。
「大破3、中破2、中央が開かれました。」
「上々ね、これよりエスメラルダ号は敵船団中央を突破する!」
アリタリアの指示で、エスメラルダ号は速度を上げた。
アリタリアはワンドをかざすとエスメラルダ号は球状の防御結界に包まれる。
そして敵船団からの砲撃が激しくなっていく中、アリタリアの防御結界がその砲撃を弾き返した。
その様子をマスト上部の見張り台で見ていたエレナは呟いた。
「中々やるわねあの女狐......
これだけ硬い防御結界は私以上かも......」
「エレナ、もうちょっと仲良くやってくれない? 目が怖いよ。」
僕の苦言にエレナは僕を睨んだ。
「フリュー、あなたあの女狐の肩を持つつもり? 私は負けなわよ」
「誰と戦ってるの? エレナの敵はあっち!」
「見てなさい!」
「話聞いてる?」
エレナはワンドを振り上げると呪文を唱えた。
『ーBurn, Vampireー』!!!
エレナが手にしたワンドから無数の光線が放たれた。
光線は距離のある船団を駆け巡ると船上にいるヴァンパイアと屍人をのみを狙い撃ちして消し去っていく。
操舵手を失ったヴァンパイアの船は方向を変えて、他の船を巻き込んで衝突し炎上した。
その光景を見てアリタリアは呟いた。
「あの女狐中々やるわね......
なんなのあの殺傷力は、聖職者が聞いて呆れるわ」
横でその呟きを聞いていたマーカス副長は言った。
「船長、敵はあっちです。」
「負けてられないわ。
マーカス、接近戦用意! 突っ込むわよ!」
マーカスはため息をついた。
「はいマム、接近戦用意だ! この船はこのままあの船団に突入する。」
エスメラルダ号は、船団が密集している中に割って入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます