第72話 クラーケン討伐
クラーケンは、速度を落としているが、傷口から煙を吐きながら、なおも進んでいた。
傷口の再生に必要な魔力を求めて本能のまま人魚の棲家を目指して這っている。
その巨体が這って進む姿は津波の様であった。
「リディ、クラーケンを追える?」
そう問われたリディの顔は苦しそうだった。
「分かってる、でももう私の魔力が......」
リディのワンドの光は徐々に弱くなり、ヨットの速度が落ちていった。
このままでは間に合わない、僕は焦っていた。
その時、
僕らのヨットは光に包まれた。
僕がよく知っている神聖魔法の優しい光だった。
「あれ何で... 私の魔力が回復していく...」
リディのワンドの輝きが増していった。
リディは風魔法に魔力を込め、再びヨットは速度を取り戻していく。
さらに何らか別の力が加わりヨットは加速していくが、その進路はわずかに外れて沖に突き出た岬に向かっていた。
「なんで? ヨットが引っ張られる。
もう、何なのよ今度は!?」
僕は、ヨットの舳先に立つと、岬の丘の上に灯台の様な光が見えた。
「大丈夫だ! このままあの岬に進んで!」
ヨットはクラーケンへの進路からそれて岬に向かって行く、岸辺まで着くと、僕は舟を飛び降りて走った。
「ちょっとどこ行くの?」
「心配ない! リディはそこで待っていて」
丘を駆け上がるとそこには白馬に乗った美しい女性が待っていた。
彼女はプラチナブロンドの髪をたなびかせ、白い衣に身を包んでいた。
「ちょっと聞きたいんだけど...あのリディって子は誰?」
エレナは疑いの目で僕を見ていた。
僕は駆け寄ると白馬の後ろに飛び乗りエレナの背中に抱きついた。
久しぶりの懐かしい香りがした。
「待ってたよエレナ、会いたかった。
君がいれば勝てる! さあ、僕はあの怪物を殺さなければいけないんだ、手伝ってくれるよね?」
「ちょっとそれはズルいんじゃない?
答えをまだ聞いてないんだけど!」
そう言いながらもエレナの愛馬ブランシュは僕たちを乗せてクラーケンを追って駆け出した。
さらに白馬はエレナの支援魔法により加速していく。
白馬は光の流星となって駆け、クラーケンを追い抜くと入り江の先にある滝の上にたどり着いた。
その時崖の眼下には、クラーケンが迫ってきていた。。
クラーケンは徐々に傷が塞がってきていたものの、アイリスの攻撃で開けられた胴体の傷は人の体が入るほど大きくえぐられており、塞ぎ切れていなかった。
「あの傷ならシャドウブリンガーの刃がとおるか?」
僕が馬から降りると、その瞬間、僕の体が淡く光を纏った。
移動速度向上
反応速度向上
防御力向上
攻撃力強化
攻撃力強化
攻撃力強化
エレナにより支援魔法が多重かけされていく。
「さあ制限時間1分よ、きっちり片付けてきなさい」
僕は背中をエレナに押され、助走をつけ崖を飛び立った。
眼下には、クラーケンの巨体が蠢いていた。
僕は、精霊の剣シャドウブリンガーを逆手に持つとアイリスが作った傷口に向かって光の矢となって飛び込む。
シャドウブリンガーの剣先に集中して力を集め、そこに黒い粒子が集まってくる。
そして傷口奥深くにシャドウブリンガーを突き刺した。
「刺さった!」
僕が意識を集中するとシャドウブリンガーは形状を変え、四方に鋭い棘を伸ばしていく。
クラーケンは激しく暴れるが突き刺さった棘は更に食い込んでいった。
ブシュルルーーー
クラーケンは異物を排除しようと、全身の魔力を傷口に集めて再生しようとしたが、その集まってきた魔力は全てシャドウブリンガーで吸収していった。
さらに伸ばした棘からクラーケンの魔力を吸収していく。
陽の剣ライトブリンガーに対して、陰の剣シャドウブリンガーは全ての力を吸収していく。
そしてシャドウブリンガーがクラーケンの魔力を吸い尽くすと、魔力で保っていた巨体が自壊し崩れ落ちていき、そこでクラーケンは力尽きた。
セイレーンたちの仇はうった...
でも何も満たされるものは僕には無かった。
僕が、クラーケンの腹の中から這い出ると、そこにはエレナが立っていた。
エレナは優しい笑顔で微笑むと、僕に左手を差し出した。
「まだ戦いは終わってないでしょ?」
「そうだね」
差し出されたエレナの手を握ると、僕は立ち上がった。
僕らは岬で待っていたリディのところに戻った。
「リディ、アバロンの船の仇は伐った、クラーケンは倒したよ。
でもまだ終わっていない、僕らはあの船団を始末に行く」
僕とエレナはヨットに駆け寄った。
「わかった......けど、そちらはどなた?」
リディは不審そうにエレナを見ていた。
「私はフリューの、」
「僕の仲間のエレナ=オーランド、王国の神官で力のあるプリーストだよ。」
途中で言葉を遮られエレナは不満そうな顔をしていた。
「そうなんだ...私はリディ、よろしくエレナ」
リディが差し出した手をエレナが握って握手をした。
「あなたはライバル?」
エレナは握手した手に力を込めてリディを睨んでそう言った。
「ライバルって何の話?」
リディが首を傾げるとエレナはニンマリ笑った。
「気にしないで、あなたとは仲良くなれそうね。
私のフリューを助けてくれて礼を言うわね。
さあ、ヴァンパイアを狩に行きましょう!」
そういうエレナの目は獰猛な狩人の目だった。
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