第39話 前哨戦の終結

「緊急です!」

天幕に、兵が駆け込んできて報告した。


「騎士団長フランドル様にご報告します。

 森を進行していた第二騎士団が、奇襲を受けました。

 敗走した兵が本隊になだれ込んで密集したところに、大規模な魔法攻撃を受け多数の戦死者が出ております。

 さらに、それに合わせて敵本隊も突入してきており、各部隊とも混乱している状況です。」


「我々より先に大規模な部隊が森に潜んでいたというのか?」


「逃げ出してきた兵の説明によると、魔王軍かと。」


「バカな...」

フランドルは呆然としていた。


バタッ

 天幕の入り口を守っていた兵が突然倒れ、黒い戦闘服を着た若い男と白い神官様の服装の女が天幕に入ってきた。


「貴様は?」


「僕はフリュー、こっちがエレナ。

もう説明はいらないよね。

 助けを待っても無駄だよ、この天幕には結界を張ったから、当分は誰も入れないから。」


周りの取り巻きの者が腰の剣に手をかける。


『ーsleeping crowdー』

 エレナが一瞬で周りの者を眠らせたが、フランドルはふらふらしながらも耐えている。


エレナが言った。

「さすが騎士団長、魔法耐性が高いわね。

 良いマジックアイテムをお持ちか、それともをお持ちか?

どっちかしら?」


「逃走者フリューに、聖女エレナか?

私を暗殺に来たのか?」


「そうなるかどうかは、あなた次第だよ。

 僕の質問に答えてくれるかい?

 あなたは何者かに操られているという自覚はある?」


 僕の質問にフランドルはイライラしながらも答えた。


「私は私の意思でここにいる。操られているなどありえない。」


「じゃあ聞くけど、王国の騎士団長なのに何でフリードリヒ国王に敵対するのさ。」


 その質問にフランドルが小刻みに震え、落ち着きがなく冷や汗を流し始めた。


「うるさい、うるさい、うるさい、あのお方に敵対する者は敵だ! 逆賊フリードリヒは殺せというご希望だ!」


「様子がおかしいわね?」

エレナがつぶやいた。


「私は昔あなたと会ったことがあるのよフランドル騎士団長、覚えてる?」


「さあどうだったか? いずれにしろ裏切り者に話す言葉などないがな。」


 そう答えた騎士団長の目は血走っており、エレナはフランドルを哀れみの目で見ていた。


「ダメそうね」


「そうだね、そろそろ終わりにしようか。」


 僕はそう言って、腰のシャドウブリンガーを抜いた。


「この剣はね。不思議なことに闇の力に囚われれいる者だけを切ることができるんだ。

 あなたはどっちかな?」


 そういうと、僕はフランドルの間合いに踏み込みシャドウブリンガーを振り抜いた。


 シャドウブリンガーから伸びた実態のない黒い刃は、フランドルの心臓を貫く。

 

 プシュー!

すると血も流れず、黒い霧がフランドルの背中からの吹き出していった。

 そしてフランドルはその場に倒れて行った。


「王国兵の多くは、魔女の眷属になってるってことかしらね。」


「さあどうだろう。指揮官級だけだと思いたいけど。」


 僕の手を引いてエレナが言った。

「さあ戻りましょ。また帰りも光り輝く白馬に乗せてあげるわ。

 あれ病みつきになるでしょ?」


その言葉に僕は冷や汗をかいた。

「いやぁ、、、あれ恥ずかしいよね?」


「そんなことないわ。白馬の王子様にいだかれる姫! なんて素敵なんでしょう!!」


 エレナは夢みがちな少女の目でそう言った。


「僕はエレナをいだいているんじゃなく、必死にしがみついているんだよ?」


 僕の抵抗も虚しく、僕らは輝く白い馬に乗り魔王軍に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「後方の騎士団長フランドル様が討たれたらしいぞ!」


 王国軍では、部隊が混乱して兵に指揮が通らない中で、総司令官が討たれたことが前線の兵に伝わり、指揮系統は機能不全となっていた。


「全員その場で待機だ、いや応戦しろ?

!」


 現場の部隊長が指示を出したが、兵はいうことを聞かなかった。

 

「そうは言われましても、私はあなたの部下じゃない。もう自分の指揮官がどこにいるのか分かりません。

 総司令官も亡くなったらしいじゃないですか?

 私は、後方に下がりますよ。」


 こうして王国軍は散り散りになって後退を始めた。


 アウグストが、追撃を行っていた王国兵が一斉に後退していくと、右側の森からが姿を表した。


「おいおい嘘だろ? マジかよ...」


 現れた援軍は、異種異様の者たちであった。

 アウグストの馬に、近衛騎士団長オクトの馬が近づいて行く。


「アレは、魔王軍ですかな?」


「そうだな、まさかフリューの連れてきた援軍が魔王軍だったとはな。

 確かに事前に漏れていたら混乱するだろうし、誰も信じないだろう。」


 アウグストは全体に指示を出した。


「魔王軍は友軍だ!絶対に魔王軍には手を出すなよ。絶対にだ!」

 


ーーーーーーーーーーーーーー


 王国軍が完全に撤退した後、臨時で建てられた天幕に、アウグストら連合軍の代表と、魔将ラミアら魔王軍の代表が会した。


 中央でアウグストとラミアが握手を交わした。


「俺は、アウグスト=ローゼンブルク、この度の援軍に感謝する。」


「私は魔王様の側近、魔将ラミア、故あって貴公らの側に付くことになりました。

 過去の行き違いについては、フリューに聞いています。」


「うちの?」

 アウグストは、そう呟くと、ラミアの横に立つ僕と目が合った。


「僕も挨拶をしようか?

 僕は、魔王軍四天王が一人、フリューです。

 これからよろしくお願いします。アウグスト卿!」


 僕に続いてエレナが喋る。

「魔王軍四天王が一人、エレナ=オーランドよ。よろしくね。」


「魔王軍四天王が一人、、、」

「おいおいちょっと待て!!!」

ラヴィーネの言葉を、アウグストは遮った。


「なんだお前ら三人、揃いも揃って!」


「魔王軍四天王が一人リンよ。よろしくお願いします。」

リンが照れながらそう付け加えた。


ラヴィーネが笑いながらアウグストに言った。


「これはパワーバランスの問題よ。

 王国と魔王国は対等、先の敗戦でもそれは変わることはないわ。

 私たちは、新魔王イブリン様の下につく。

 でも今までのあなたたちとの関係は、何ら変わりはない。」


ラミアが付け加える。

「そう、私たちは最後まで共に戦うわ。

 そして、アウグスト卿が正当に王位を継承した時、我々魔王国ファーレーンは正式にローゼンブルク王国との国交の締結を申し入れます。」


アウグストは苦笑いして言った。

「そういうことかよ。

 分かったその申し出を快く受けよう。

 我々連合軍に魔王軍を加え、王国を奪還する。これで良いのだな?」


「まあそういうことね。

 次にフリューたちが持ち帰った情報について話すわ。」


 僕は、騎士団長フランドルを討ち取った状況を説明した。


 アウグストは腕を組んで考えていた。

「つまり、総司令官は、魔女エルゼベエトの『眷属化』の支配を受けていたってことだな。」


「そうなると思う、そして僕らは前線近くにいた別の騎士団長も討ち取ったんだけど、彼も支配を受けていた。」


 アウグストは呆れて言った。

「簡単に言ってくれるが、フリューとエレナで戦場で指揮官を潰して回ったってことか?

 それは普通じゃないぞ。」


 その発言にラミアも意見を挟んだ。

「私もそれを聞いて驚きました。

 魔王様が簡単にになったのも、うなづけます。」


「おいおい、、、殺されそうって? 今、じゃなくって言ったよな?」

 アウグストは困惑していた。

「今はいい、後でじっくり聞くぞフリュー。」


 ラヴィーネが言った。

「話を進めよう。フリードリヒ国王側に寝返る可能性がある幹部は、魔女エリゼベエトの『眷属化』を受けていると考えて良いだろう。

 さて、これらの取り込みが不可能とすると何か打開策はあるかな?」


 エレナが小さく手をあげた。

「打開策じゃないけど、私が感じたことを話すわ。

 私とフランドル騎士団長は旧知の仲だったんだけど、私の存在に何も意識していなかったわ。」


 エレナの意見にラヴィーネが聞いた。

「長いこと会ってなかったのだろ?それが気づいた事か?」


 エレナが僕の方をチラチラ見ながら言った。

「討伐の旅の前に遡るけど、実は私はフランドルから求婚されていたのよ。もちろん断ったけど。

 フランドルは、紳士的で聡明な方だったわ。」


「つまりエレナはフリューにやましいことはないと、そう言いたいのか?」


 ラヴィーネのからかいの言葉に、エレナはムッとした。

「違うわよ!私が言いたいことは、フランドルはもっと聡明だったってこと。」


 話を戻してエレナは続けた。

「奇襲だっととはいえ、この戦力差で彼が大敗するなどありえないわ。

 考えられるのは、『眷属化』をされた者はそれまでの正常な判断力が低下するんじゃないかしら。」


「なるほどな、『眷属化』も万能ではないと言うことか。」

 アウグストはそう呟いた。

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