陰の英雄の後日談〈悔んだ勇者、聖女、賢者は英雄を諦めない〉
海野百合香
第一章 陰の勇者の傷心旅行
第1話 裏切りと追放
魔王が討ち取られ1週間後
勇者一行が王都に帰還し、城下町では勇者一行の凱旋パレードが行われていた。
勇者
聖騎士 第一王子 アーサー=ローゼンブルク
聖女 癒し手 エレナ=オーランド
賢者 宮廷魔術師 ラヴィーネ=イスマイル
馬上の4人の勇者一行に対して、群衆からの声援が送られ、一行は歓喜の声に包まれていた。
「勇者さまはあんなに美しいのに、王国一、いや世界一強いんだろ?信じられるか?」
「あぁ王子の凛々しいお姿を見て!私を側室に迎えてくれないかしら?」
「何言ってるの?あの聖女様の美しいこと。王子様と最高のカップルじゃない!」
「いやー賢者様もいい女だぜ。王子様は3人のうち誰を選ぶか賭けねぇか?俺は勇者さまだな。」
「俺は3人とも娶るに賭けるぜ。もっぱらの噂だぜ。」
「本当にこの4人だけで魔王を倒しちまうんだからすげぇよな。」
「おい、実は5人目がいたって噂聞いたことないか?なんでも陰で支えていたって話だ。
本当か嘘かは分からんが、表に出ないのはそいつが化け物だからって聞いたぜ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょうどその頃、城門の詰所において、数名の兵士と文官服の男が一人の青年を囲んでいた。
文官服を着ているのは王国宰相で現国王の弟のサイロス=ローゼンブルクである。
サイロスは日頃着ている豪華な仕立ての服ではなく目立たぬ文官服を着込んでいた。
「お前が魔王を討ち取ったというのは本当か?」
宰相の問いに対して青年は、
「はい、僕が魔王を排除しました。」
と答えた。
そう答えた少年は、勇者一行の5人目であり
他の一行のように家名はないただのフリューだ。
背丈は高くもなく低くもなく、熟練の斥候にしては華奢な体をしている。
無造作に目元まで隠した黒髪の間から、少年の面影を残した整った容姿が見える。
歳は17歳になるが正確な誕生日は分からない孤児だった。
宰相はフリューに冷たい目を向けて言った。
「お前の役割は分かっているな?
お前は最初から勇者一行にはいなかった。
この意味は分かるな?」
「はい、僕は勇者一行にふさわしくない。
最初からいませんでした。」
そう言ったフリューの目は諦めていた。
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僕は10歳の時にその戦闘センスが見い出され、孤児院から王国の暗部機関に引き取られた。
そこで育てられて得た暗殺スキルを磨き、14歳の時に斥候として勇者一行に加えられた。
分かっていたんだ。僕のスキルは王国で禁止されている犯罪者のスキル。
表向きは
「分かってるじゃないか。」
と宰相はニヤッと笑うと、フリューに金の入った皮袋を手渡した。
「魔王を討ち取ったのは勇者と王子だ、これでこの国は安泰だ。
暗殺者が魔王を殺したなど王国民に言えるか?
お前は最初から居なかった。
この金で城下から離れた場所で暮らせ、この王都に戻ることは許さん。」
僕は戦いが終わったら勇者の仲間から追放される。
これは旅立つ前から分かっていた。
でも...旅の途中で彼女は言ったんだ。
『終わったら私が守ってあげるから信じて』
って。
戦いは辛いことも多かったけど、僕にはそれまでの白黒の世界から、カラフルに色付かれた世界に変わったようだったんだ。
だから彼女の言葉は人間らしく生きたいと願う僕の希望だった。
「宰相閣下、一つだけ教えてください。
僕が追放されることは勇者達には伝えられているのですか?」
僕の質問に対して、宰相はニヤニヤして懐から巻物を取り出して僕に見せつけてきた。
その巻物には、
『暗殺者シャドウエッジをこの国の法に従いローゼンブルク王国からの追放を命ずる。
国王 フリードリヒ=ローゼンブルク』
と書かれていた。
さらにその下に
申立人
勇者 アイリス=ブレイズ
聖騎士 アーサー=ローゼンブルク
聖女 エレナ=オーランド
賢者 ラヴィーネ=イスマイル
と直筆の連名で書かれていた。
宰相は笑いながら言った。
「シャドウエッジ、貴様が納得しないことを想定して国王の命令書を用意しておいた。
勇者一行の連名でな。
3人も納得しておる。」
フリューは勇者が付けてくれた僕の名前、シャドウエッジは、暗部機関でのコードネームだ...
僕が呆然としていると、宰相は続けて言った。
「勇者達3人の美姫は、アーサー王子に娶られる予定だ。
婚約は近々魔王討伐の報告をするための国王との謁見の席で発表される。
この署名こそがその証拠だと分かるな?
もう諦めろ、王都に貴様の居場所は無い。
貴様の貢献に報い、私の権限で王国内の滞在は不問とする。
故郷にでも帰って名前を変えて静かに暮らせ。」
そんなの嘘だ、彼女達が僕を裏切るなんて...
でも...
僕の鑑定スキルは書類は本物だと言っている。
それ以前に、署名は間違いなく4人の筆跡だ...
人物鑑定スキルをもってしても宰相に嘘は感じられない。
僕の彼女たちへの信頼とは裏腹に、僕の理性は彼女たちに捨てられたことを確信している。
もう僕にはこの国に居場所はない。
今までのカラフルな世界から色な失われていくようだ。
もう彼女達の幸せな顔なんて見たくない。
いや見れない...
逃げよう。
「分かりました。僕はこの国を出ます。」
そう言い残すと僕はひとり城門を後にした。
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残った宰相は、横にいる黒装束の男に耳打ちをする。
「城から離れたらあいつを処分しろ。
奴は手練れだ。暗部機関の総力を投入しても構わん。
失敗は許さんぞ。」
「了解しました。暗部機関の暗殺者20名を差し向けます。」
そういうと黒装束の男は消えていった。
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