第24話 その夜のこと
トントン
深夜に、アーサー王子の寝室のドアが叩かれた。
「なんだこんな時間に。今に雷鳴の件か?」
ガウン姿のアーサーがドアを開けると、そこには深くお辞儀をした侍従長が立っていた。
「お休みのところ失礼します。
宰相殿がお急ぎ要件があると執務室でお待ちです。」
侍従長は頭を下げたままそう言った。
「わかった、服を着たらすぐ行く。少しサイロスを待たせておけ。」
アーサーはそう答えると部屋に戻ると、侍従長は静かにドアを閉めた。
侍従長がドアを閉める際、一瞬だけ寝室の光景が見えた。
寝室のテラスに通じる扉が解放され、月明かりが差し込むテラスが見えた。
そしてテラスに置かれたチェアには、白いシーツに包まった女性がぼうっと外を眺めていた。
その女性の特徴的な赤い髪は乱れており、シーツから肩がのぞいていた。
侍従長はその女性が裸にシーツを巻いていることが分かり、どきりとして目をそらした。
一瞬ではあったが侍従長はその女性の横顔が見た。
生気を失った目をした勇者アイリスだった。
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アーサーが執務室に入ると、そこには宰相サイロスが待っていた。
「こんな時間になんだ、さっきの雷の件か?」
「教会の掃討に向かっていた守備隊が大きな被害を受け、教会の神官長オーランドと神官騎士たちを取り逃がしました。」
とサイロス宰相は報告した。
「オーランドはエレナへの人質として、捕縛の指示を出していたはずだが、何を手間取っていたのだ!?」
王子の叱責に対して宰相が答えた。
「どうやら守備隊が包囲している隙をつき、聖女エレナが合流したらしく。私も第一騎士団を支援に向かわせたのですが、到着直前に包囲を突破し逃走したと報告がありました。」
「包囲を突破しただと?どうやって」
「それが...先日ほどの雷鳴は攻撃魔法によるものだと。それで包囲していた守備隊に大きな被害が出たと報告がありました。」
その報告にアーサーは驚愕した。
「あの雷鳴が魔法だと?そんなこと出来る者なんて、この王国でもアイツだけだ!
エレナとラヴィーネが合流したということか?」
「そのように思われます。」
そのサイロスの言葉にアーサーは直ちに指示を出した。
「すぐに行方を追え!その先に国王がいるはずだ。」
裏切り者どもが忌々しい!
アーサーは激しい怒りを覚えた。
「その国王のことですが、別に報告が。
先日王都から逃亡した近衛騎士団が、どうやら南に向かっていたとの旅の商人からの目撃情報がありました。情報の真偽を確認中です。」
「南か、急いで待機中の騎士団を向かわせろ」
「かしこまりました。」
サイロスは下命を受けると執務室を出て行った。
サイロスが王宮を出てると、お付きの者と共に自身の邸宅に向かった。
「サイロス様、どの騎士団を南方に派遣しますか?」
「南に向かったというのは王の派閥の者が流したデマだよ。
王子の指示は無視してかまわん。
それよりも、あの方を迎える準備を急がせろ。必ずあの兄は反撃に出るはずだ。
その時にはあの方の助けが必要になる。」
サイロスがそういうとお付きの者は頭を下げて答えた。
「かしこまりました。暗部機関の責任者である私自ら、あの方をお迎えに向かいます。」
「頼んだぞエウドア」
サイロスがそういうと暗部機関統括責任者エウドアは音もなくが姿を消した。
サイロスは一人帰路につき物思いにふけった。
「アーサーは期待していたほどの器でなないな。
兄上、私はまた良かれと思っていた選択を間違えたか...?」
サイロスはそう呟いた。
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アーサーが寝室に戻ると、まだアイリスはテラスのチェアに腰掛け外を眺めていた。
生気のないアイリスにアーサーは語りかけた。
「いい加減諦めたらどうだアイリス。
もう、おまえには私と共にあるしかこの先選択肢はあるまい?
そんな呆けていても、何も元通りなどならないのだぞ。
そんな状態のおまえを抱いたとて、私は満足できんよ。」
アーサーの言葉にアイリスは一瞬目をあげた。
「私は...
私は、この手でフリューを殺してしまった。
いまさら私一人が幸せになるなど許されることではない...
私はこのままでいい...いや、このままにしてくれ。
アーサーが私を慰み者にしたければそうしてくれていい。
それが私に与えられた神罰なら、私は快く受けるよ。」
アイリスは、こころのないままそう呟いた。
そんなアイリスにアーサーは言った。
「もう自室に帰っていい。今日は呼びつけて悪かった。」
アイリスはアーサーの言葉に、シーツを巻いた姿のまま寝室を出て行った。
アーサーはアイリスがでて行く姿を見ながら独りごちた。
「フリューめ...死してなお私に仇をなすか。」
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