第25話 アウグスト=ブルーム辺境伯
僕の目の前、いや横では、エレナ=オーランドとラヴィーネ=イスマイルが対峙していた。
それは実質、王国の頂上決戦ともいえる戦いであり、主に僕に緊張が走った。
ラヴィーネがエレナに鋭い目を向け言った。
「エレナには悪いけど...
あなたが居ない間にフリューと私は親公認の関係になったの。いや国公認の仲といっても良いわね。
どんな関係かは恥ずかしいからここでは言えない。想像にお任せするわ。
ということで、少し離れなさいな」
エレナは僕の腕にしがみつきながら言った。
「フリューの元には最初に駆けつけたのは私。
聞いた話じゃ、ラヴィーネってフリューのおばあちゃんより歳上らしいじゃない。
ここは若いもの同士仲良くやるわ。」
「女性に歳の話をするんじゃないわよ。
私とフリューはお母様との
ラヴィーネはニヤけた顔で僕を見つめてそう言った。
「はぁ?そんな《口約束》は無効よ。
私とフリューは前から(子供の頃に)同じ布団で寝たし、(子供の頃に)一緒にお風呂にも入ったわよね。
この前だってベッドの中で(一方的に)熱い抱擁を交わしたし。
もうフリューは
ねフリュー」
エレナは僕の腕にしがみつきながら言った。
そして僕は二人から同意しろとの目を向けられた。
僕は魔王城に潜入した時より戰慄を感じている。
「ほら!兄さんも貴女たちも、そろそろ休憩は終わり、神官長様は出発されたわよ。」
リンが腕を組んで怒っていた。
「ありがとうリン、助かったよ。」
僕が二人に聞こえないようにリンに耳打ちをしたが、リンは何やらぶつぶつ言っていた。
「何が30年後よ。10年後、兄さんが27歳の時、姉さんは30歳で賢者様はおばあさん。その時私は22歳よ。」
2人の戦いにリンが参戦する日も近かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ブルーム辺境伯領は、ローゼンブルグ王国の東のはずれ、迷いの森のさらに東にあった。
その東は魔獣が生息する荒れた大地で、ブルーム辺境伯は、魔獣の侵入を防ぐ国境守護の要となっていた。
フリードリヒ国王と近衛騎士団が城塞都市ブルーリアの門をくぐると、そこには騎乗し完全武装をしたブルーム辺境伯が出迎えた。
アウグスト=ブルーム辺境伯は、年齢30過ぎの大男で、髭は手入れもせず伸ばしっぱなしで、さながら蛮族の出たちであった。
辺境伯は馬から降りて、挨拶した。
「ちょっと立て込んでおりまして、このような格好で失礼します。
よくぞおいで下さいましたフリードリヒ国王陛下、それにキルケ様も。ご無沙汰しておりました。
それでは立て込んでいるので失礼します。」
アウグストはそう言うと早々立ち去ろうとしたが、キルケは馬から降りてブルーム辺境伯を無理やり振り向かせ抱擁した。
「おやめ下さいキルケ様!兵たちがいらぬ誤解をします。」
「そんな誤解させておきなさい、かわいい息子アウグ。」
領主が見た目20歳そこそこの女性に抱きつかれる光景を見て周りの兵たちは唖然としていた。
「だから、忙しいと言っておるだろ!今東側の門で魔獣と交戦中なんだ!」
そうアウグストが言うと、キルケはイライラして言った。
「久々の親子の再会を邪魔する魔獣なんて、ママが皆殺しにしてあげるわ。
案内しなさい。」
キルケはそういうとアウグストを引き連れて行った。
その数刻後、
ゴロゴロッ、ドガァーン!
東門から雷鳴が轟いた。
応接室には、フリードリヒ王とキルケ、そして疲れきったアウグストがテーブルを囲んでいた。
「用件は私の耳にも届いていますよ。」
そうアウグストが言った。
「そうか、それならば話は早い...」
そう王が話し始めるのを制止して、アウグストは言った。
「待ってください、
私にも協力したい気持ちはありますし、いつまでもここにいていただいても結構です。
しかし、、、私がこの地を離れられないことはお二人もご存知でしょ?」
アウグストは諦めたようにそう言った。
するとキルケが言った。
「私も、アウグをこの地に縛り付けていることは心が痛いわ。
でも先日お母様に神託があったの。
あなたを解放する条件は整いつつあると」
「なんですって?」
その言葉を聞いてアウグストは呆然とした。
東のはずれブルーム辺境伯領からさらに東の荒野に、古く朽ち果てた城跡があった。
その地下には、古き迷宮が広がっており、ブルーム辺境伯はその入り口にある封印を守護していた。
この封印は、太古のエルフが施したもので、エルフが力を注ぐことにより維持していた。
10数年ほど前の事、その任を受けていたエルフはこの地に一人止まり、封印を維持していたが、ある時、この地に巣喰った魔獣の襲撃を受けそのエルフは命を落とした。
エルフの強力な魔法も数には敵わない。
その後、この地は国王と太古のエルフの子であるアウグストに託され、アウグスト自らその血で封印を維持すると共に、魔獣と戦い続けていた。
『解放する条件は整いつつある』
それはアウグストがここ10数年望んでいた言葉だった。
キルケからのその言葉を聞き、アウグストは誓った。
「もし、それが本当に叶うのなら、
私は全力で父上と母上の剣となりましょう。」
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