第95話 戦いの果てに【第三章完】

 精霊の祠の切り株に座り、僕とラヴィーネはへカティア様が入れてくれたお茶を飲んだ。

「相変わらず美味しいお茶ですね?」


「そうでしょ? 

 このお茶はここでしか咲かない花で作った特別な薬草茶なの。

 このお茶を一口飲めば100年長生きするわ。」

 へカティア様は満足げにそう言って笑っていた。

「ハハハ、前もそんな事言っていたけど、もう騙されませんからね。」


 ラヴィーネが僕の裾を引いた。

「その話嘘じゃないのよ。

 お母様の入れてくれるお茶は、不老不死の霊薬アンブロシアの花から抽出したもの。

 一口で100年とは言わないけど、毎日一口飲み続ければ100年長生きするのも嘘じゃないの。」


「え? 冗談って言いましたよね?」

 僕の驚きにへカティア様は笑った。

「ふふふ、だってそのお茶が王都に屋敷が建つくらい高いって聞いたら美味しく飲めないでしょ?」


「お母様? フリューが長生きするようにという、お母様の策略ですね?」


「ふふふ! 娘婿には長生きしてもらわないとね

。」


 さすが親子というべきか、二人とも知謀に長けていた。



「それよりも、私が女神テミスに取り込まれた後の話ね...」

 そう言ってラヴィーネはその後のことを語った。


 それは僕の想像を超えるものであったが、へカティア様は最初から全てを知っていたようにただ微笑んでいた。


「それではラヴィーネは、輪廻の女神にシャドウブリンガーに封印され、神話の時代から眠っていたってこと?」


「うーん...シャドウブリンガーに封印されたのではなく、、というのが実際ね。

 だから精霊の剣って言われていたでしょ?」


「うーん、にわかに信じ難い話だな...

 じゃあラヴィーネが誕生した時から今までラヴィーネの魂は2つこの世界に存在した事になるよ」

 僕は本当に聞きたかった言葉を飲み込んだ。

 (君は僕が知っているラヴィーネなの?)


「あなたが言いたいことは分かるわ...

 でも、私は長い年月眠っていて意識が戻ったのが今なのよ。

 だから私の時間的な感覚では、フリューと別れて過去で輪廻の女神と出会って眠らされて、そして今起きたらから目の前にフリューがいたの。」


 そんなラヴィーネにへカティア様が話を補足した。

「過去に戻って女神テミスは夜の女神から、月の女神に変わったでしょ?

 でも、今私たちが知っている女神テミスは夜を司る女神。

 そのままの時間を過ごせば、メーデイアは違う未来に辿り着いていたはずなの。

 今、メーデイアがこの時に戻ってこれたのは輪廻の女神の導きに違いないわ。」


 僕はヘカティア様の言っていることの半分ほどしか理解できなかったが、僕が知っているラヴィーネが戻って来れたということは分かった。

「またラヴィーネに会えて良かった…」


「何を言っているの? 私はあなたの剣として、片時も離れずずっとあなたと一緒に居たのよ?」

ラヴィーネはそう言って微笑んだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 僕とラヴィーネは魔王国ファーレーンに戻り、その後この小さな紛争の戦後処理にあたった。



 まずローゼンブルク王国の宰相であった賢者ラヴィーネは滞在先のミース教国にて享年28歳で死亡したと記録された。

 それと同じ頃、魔王イブリンの傘下に同じ名前の新米魔術師が名を連ねることになった。

 その魔術師は自称18歳であったが、エメラルド色の髪に長い耳を持つ生粋のエルフであることから、その実際の年齢は誰にも分からなかった。


 さらにローゼンブルク王国が、同盟を一方的に破棄した賠償として、迷いの森一帯を魔王国に割譲した。

 これによって、聖都ユグドラシルは魔王国の保護下になったが、国王アウグストの弱点となった事を危惧した女王へカティアと賢者ラヴィーネによる判断であった。


 神聖ミース教国では、捕えられていた大司教エストナート四世と上位司祭らが解放され、逆にアマティアラを崇拝していた5人の上位司祭は排斥された。

 大司教エストナートは、人が変わったかの様に国の立て直しに取り組んだ。

 さらに多種族、異教徒へ対する弾圧や差別を固く禁止する法律を制定し、魔王国を敵対していた政策は改められ国交を結ぶまでに至った。

 善政を行い国民の人気が高い大司教であったが、夜は何者かの侵入に怯えていた。


 新たにミース教発祥の地となった幻惑の森は解放され、ミース教国から神殿への道が整備された。

 そして多くの巡礼者が訪れることとなり、ダークエルフたちはその観光資源により生計を立てることとなった。

 また、女神ミースと共に女神テミスも双子の女神として信仰されることとなり、勇者アイリスの尽力により、双子の神像が再建された。

 それを破壊した者については禁忌とされ、ダークエルフたちはその発覚を恐れた。




〜時は過ぎ、それから10年後〜


 

 草原を美しい少女が走っていた。

 美しく透き通った長い金髪をなびかせ、こめかみには小さな羊のようなツノが生えていた。


「何をしているのフリュー、早くしないと置いていくよ!」


 その少女の後を息を切らせた青年が走ってきた。

 その青年は精悍な顔立ちで、背は高く線は細いもののその身体は無駄なく鍛え上げられていた。


「ちょっと待ってよイブリン、僕はさっき出張から戻ったばかりだよ?」


 僕の苦情にイブリンは頬を膨らませて怒った。

「あなたを休ませる余裕はこの国にはないの。 次は私と一緒に、西の邪竜退治よ!」


「え、また竜ですか?」


 僕は腰の剣に語りかけた。

「…だってさ、仕方ない行こうか相棒」


 僕がそう語りかけると腰に下げた『聖剣ライトブリンガー』は嬉しそうにカチャカチャ音を鳴らして震えた。


 

※※※ 第三章完 ※※※


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 物語はもう少しだけ続きます。

 次章での完結を目指してますので、最後までお付き合いよろしくお願いします。


そして評価よろしくお願いします!

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