第94話 復活

 アマティアラの肉体が消滅したその後、すぐに戦いの決着は着いた。


 エレナとゴードン神父が抑えていた教国軍の兵士たちは、聖女アマティアラの消滅と同時に暗示が解かれ、皆その場で呆然としていた。


「助かったのか?」

「なぜ俺はここに?」


 多くの兵がなぜこの地に来たのか、記憶を無くしていた。


 ゴードン神父は、呆然としている兵たちに大声で叫んだ。

「私は、ミースアテナにある小さな教会で神父をしているゴードンだ!

 お前たちは今まで悪神の暗示にかかってこの地に来た。

 まあ理解はできないだろうが、お前たちは今魔王領に侵入している。

 これ以上戦うのが嫌なら早々に教国に戻るんだ!」


 多くの兵が呆然とする中、一部の指揮官が撤退を促し、ぞろぞろと退去を始めた。


「暗示が解ければ、まあ帰るしかないわな。

 お前さんもぼうっとして、あの子を助けんでいいのか?」


「あ!」

 エレナが振り向くとリンが懸命にウルの止血をしていた。


「ごめんなさい、今治療するわ!」

 そう言ってエレナはウルの元に走って行った。


 エレナはウルに癒しの魔法をかけた。


「あれ、おいら何をして……

 あっイブリン様が! イタタタッ」


「まだ動くんじゃ無い、傷は塞がって無いのよ? イブリンなら大丈夫フリューたちが向かったわ。」



ーーーーーーーーーーーー


 神殿の礼拝堂では、聖剣を携えたアイリスを中心に、遠巻きにダークエルフたちが取り囲んでいた。

 幸いなことにアイリスに立ち向かい返り討ちにあったダークエルフは一部で、残りはアイリスの強さに怯えていた為、死ぬことは無かった。

 しかしダークエルフたちは、自分たちが崇拝していた神を失ったことを感じて皆茫然としていた。


「貴様らのことは不憫には思うが、多くの命を奪った事に私は謝罪はしない。

 貴様らは魔王国の民でありながら、魔王様を裏切ったその罪は重いぞ。

 もし次に魔王様に背くことがあればこの勇者アイリスが貴様らを根絶やしにするから覚悟しておけ!」

 アイリスはそう言い残すと、礼拝堂を後にし、イブリンたちを追った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕は抱きかかえていたイブリンを降ろすと、横たわってるラヴィーネの元に無かった。

 

 イブリンは、目を見開いたままで動かないラヴィーネのその目を覗き込むと、その魔眼を金色に輝かせラヴィーネ深層を覗き込んだ。


「どうイブリン?」

僕が心配して声をかけるとイブリンは首を振った。

「死んではないけど、もうこの体にはラヴィーネの魂は無いわ。」

 そしてボロボロと涙を流し手のひらで見開いていたラヴィーネの瞳を閉じた。

 


 リーーーーン

 その時、シャドウブリンガーが何かを訴えかけるように再び音を鳴らした。

(ラヴィーネ、森に帰ろうか)

 僕は、ラヴィーネの身体を抱きかかえると立ち上がった。


「イブリン、僕らはユグドラシルの森に帰るよ」

 そう言い残して僕は歩き出した。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フリューらが去った後、イブリンの元にアイリスが駆けつけてきた。

「イブリン様よくご無事で! フリューたちは?」

 イブリンはアイリスの手を繋いで顔をあげた。

「フリューたちはエルフの森に帰っていったわ。」


ーーーーーーーーーーーーー


 僕は、ラヴィーネを抱えながら三日三晩寝ないでユグドラシルの森に向かった、そして4日目の朝僕らは聖都ユグドラシルにたどり着いた。


 僕らは門を入り聖都の通りを進んだ。

 ラヴィーネを抱きかかえて歩く僕らを、エルフたちは遠巻きに見守り誰も声をかけることは無かった。


 そして僕らは街を抜けて大樹ユグドラシルのふもとにある精霊の祠にたどり着いた。


 僕らがユグドラシルの根元にある祠に入るとそこには女王へカティア様が僕らを待っていた。


「待っていましたよフリュー」


 僕はへカティア様と目が合うと、そこで我にかえった。

「……あれ?

 僕はどうやってここまで来たのでしょう?」


「ふふふ、あなたに預けた精霊の剣がここに導いたのです。

 さあをその切り株に降ろして。」

 僕はへカティア様に促され、ラヴィーネを切り株にそっと下ろした。


「それでは預けていた精霊の剣を返してください。」

 僕は、相棒であるシャドウブリンガーを胸元に携えると、小さく呟いた。

(今までありがとうシャドウブリンガー)

 僕が語りかけるとシャドウブリンガーは小さく震えて返事をした。


 そしてシャドウブリンガーの柄をへカティア様に差し出した。

「ごめんなさい、僕はラヴィーネを助けられ無かった……」


 僕の謝罪にへカティア様は首を傾げた。


「あなたは何を言っているのですか?

 この子が死んでないと思ったからこの地に連れてきたのでしょ?」


 僕にはへカティア様の言葉の意味が分からなかった。


「フリュー、その剣をその子の胸元に置きなさい、そして祈るのです。」


 僕は促されるまま、へカティア様に指示されたとおりシャドウブリンガーをラヴィーネの胸元に置き、そして心の中で祈りを捧げた。


(ラヴィーネ……帰ってきてよラヴィーネ…)


 僕の祈りに答えるようにシャドウブリンガーは一瞬震えた後、黒い霧となって消えていった。

 そしてシャドウブリンガーから生まれた黒い霧は、渦を巻いて広がると金色に輝き出した。


 その輝きを増した光の渦がラヴィーネの身体に吸い込まれていく


 そして……


 ラヴィーネはゆっくりと目を覚ました。


「ラヴィーネ!」

 僕は思わずラヴィーネに抱きつき泣いた。

「信じていたけど、信じていたけどでも今度ばかりは死んだかと思ったよ!」


「フリュー、私はずっとあなたと一緒に居たのよ? 長い間ずっとね。」


「でも、魂がなくなって……」


「泣くんじゃないわよ、私だって」

 ラヴィーネは感極まってフリューの胸に顔を埋めて泣き出した。


「あらあら……親の前で抱き合って恥ずかしくはないのかしら?」

へカティア様が呆れていた。

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