第80話 再会

 私があの時、兄さんにラヴィーネの異変を伝えていれば......


 私は、ラヴィーネが兄さんの襲撃を企てていたことは知っていたが、まさかラヴィーネが本気で兄さんを殺そうとしていたとは思えなかった。


 私は魔王城を出てから、不安を感じてこっそりと幻惑の森に向かった。

 まさか信書の返事を持ち帰る前に魔族領に入ってくるとは思わなかったが、ラヴィーネと聖女アマティアラの一行は既にそこにいた。


 私がどうする事も出来ずに、ただ隠れて見守っていたところ、兄さんとラヴィーネの戦闘が始まってしまった。


「兄さん! ここは下がってください、ラヴィーネは普通じゃありません!」

 私は必死に兄さんを止めようとしたが、私の考えは甘かった。


 ラヴィーネの放った火の玉が、私ごと兄さんを焼き払おうとした。


 兄さんは咄嗟に私を庇って火の玉の直撃から避けられたが、その隙を突かれて兄さんは足場ごと谷底に落ちて行った。


「兄さん!!」

 私の声は届かず、兄さんは谷底に落ちて行った。

 その時兄さんに向けて一筋のまばゆい光が走り兄さんを包み込むと、更にその中心から上空に向けて光に束が放たれた。


ーーーービジュンーーーー

 その光線は、力の塊となってラヴィーネが立っていた崖の上を岩ごと消し飛ばした。


 その光が消え去った後には防御障壁に包まれたラヴィーネと、その陰には腰を抜かして震える聖女アマティアラがいた。

 5〜6人いた護衛のミース教国の騎士たちは全員消し去っていた。


 ラヴィーネは額と肩口から出血をしており、片膝を着いて荒い息を吐き、アマラティアは恐怖に震えていた。


「なんですか今のは?」


「私も予想外だった.......

 あれは聖剣ライトブリンガーの一撃よ

 勇者アイリスは精神崩壊をしてたはずだけど、なぜ......?」

 ラヴィーネは悔しそうにそう呟いた。


「今のでよく分かりました......

 あなたへの疑いは晴れました、戻って対を立てましょう。」

 アマラティアはそう言うとよろよろと立ち上がった。


「リン、そこにいるんでしょ?」

 私はラヴィーネに呼ばれ出ていった。


「あなたの行動には失望したわ。

 崖から落ちたフリューの遺体を見つけてきて、あの高さなら助からないわ。

 見つけるまで帰ってくることは許さないわよ。」

 ラヴィーネはそう言って傷ついた肩を抱えながら、アマラティアとともに立ち去って行った。


 私が1人残されて呆然としていたところ、突然雨が降ってきた。



ーーーーーーーーーーー


   バチッ


 焚き火のはぜる音で僕は目を覚ました。


 そこは洞穴の中で、外は雨が降っていた。

 僕は服を脱がされ、僕の服は焚き火の横の岩にかけられていた。


(どれくらい意識を失っていたのだろう。

 そういえば前もこんなことがあったっけ。

 あの時はアイリスに崖から落とされ、今度はラヴィーネか。)

 僕は不思議と笑っていた。


「何が可笑しいんだ?」


 僕が振り向くと、焚き火の向こうに背中を向けた赤い髪の女性が膝を抱えて座っていた。

 

「こっちを見るな!」

 彼女も裸だった。


「ごめん......」


「私たちはたまたま川に落ちて助かったんだ......

 雨に打たれたら風邪をひいてしまうだろ?」


 僕は彼女が誰か知っていた。


「アイリス......正気に戻ったの?」


 アイリスはこくりと頷いた。

「すまないフリュー、私は取り返しのつかないことをしておまえを苦しめた......

 もう合わせる顔がない。」


 僕はなぜか涙が溢れてきた。

「よかった...アイリスが戻って...ずっとあのままかと思っていたから、僕のせいで苦しめて、僕も謝りたかったから....」

 僕が俯いて泣いていると、後ろから裸のまま抱きしめられた。


「泣くやつがあるか、おまえは男だろ?」


「そんなこと...言ったって...」


 僕は長い間泣き続けた。



「もうそろそろ乾いているだろう、服を着るから向こう向いていろよ」

アイリスはそう言って立ち上がった。


 僕は今更ながら裸で抱きしめられていた事を思い出して恥ずかしくなった。


「フリュー、おまえも服を着なよ」


 僕らはしばらく焚き火を見つめながら、離れていた時のことを話し合った。


「あの後、私は長い間透明なガラスの牢獄に閉じ込められていたんだ。

 その牢獄は聖剣が私の心を守る為に作り出していたのだと思う.....

 その牢獄の中でも不思議とフリューの声は聞こえていたんだ。

 私の聖剣と対になるお前の剣を通してね。」


 今僕の手元には精霊の剣シャドウブリンガーは無いけど、常に共にある感覚はあった。

「アイリスの声は届かないのは不公平だね。」


「フフフッ、お前の剣は嫉妬深いのさ。」


「最後の戦いの時、私にお前の助けを求める声が聞こえたんだよ。

 その時ガラスの牢獄は割れて全ての光と音が戻ってきたんだ。」


「あの時アイリスが助けて来れなかったら僕はラヴィーネに殺されていた。」

僕の言葉にアイリスは驚いていた。

「あれはラヴィーネだったのか?

 思わず聖剣で吹き飛ばしてしまったけど、無事かなぁ......」


 僕はラヴィーネの変わり様を思い出した。

一体どうしちゃったんだろう?


「さあ雨も上がったようだよ。

 イブリンが私たちを待っている。

 あの子には随分とお世話になっちゃったからね。」

そう言ってアイリスは立ち上がった。

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