第85話 聖女の秘密
私はエレナ=オーランド。
私は、幼いころから神の力を身近に感じることが出来た。
私は信仰している神の名を誰にも言うことは無かった。
それは今でも変わらない、私は勇者一行の聖女として名が売れ、私の言葉に影響力を持つようになったからだ。
ローゼンブルク王国の教会は、特定の神を崇めては居なかったが、私の父であるオーランド神官長はミース教の神官であった。
私は、父の名代として何度もこの地を訪れていた。
私は、このミース教国にある教会の中では珍しく女神ミース以外の神を祀っているオルセー教会を訪ねた。
教会は市街地から少し離れた丘の上にひっそりと建てられた小さな教会で、このこのミース教国では数少ない異教徒の礼拝を受け入れていた。
迫害をされている訳ではないが、国の支援もなく教会の施設は古くなっており、神父自ら修復して維持されていた。
礼拝堂の屋根の上で、この教会の神父が屋根の修理をしていた。
「相変わらずここは誰も居ませんねゴードン神父。」
ゴードン神父は30代半ばの男で、背は高くはないが聖職者とは思えない剣闘士のような体格をしていた。
「おや、誰かと思ったらあの有名な聖女エレナ様ではないか。
いや指名手配犯魔王軍のエレナ=オーランドだったかな? ハハハッ」
「いいえ、私はただのエレナ。
ゴードン神父の元許嫁のエレナです。」
「ハハハッそんな昔の話を」
ゴードン神父は笑いながら屋根から降りてきた。
「冗談はさておき今日の要件はこの教国の、いや聖女アマティアラのことじゃないのかい?」
「その通り、さすがゴードン神父情報収集は抜かりないようで」
「まあこれでも『テシウスの塔』の幹部だからね。」
私はズバリ本題に入った。
「テシウスの塔としては、このミース教国の動きをどう見ていますか?」
「幻惑の森の聖地奪還の話だろ?
あれは教国の役人の間でも知らない話で、ほぼ大司教と聖女アマティアラの独断で進められているとみている。」
「では、教国が国をあげて動くことは無いと言うことですか?」
その質問にゴードン神父は首を振って答えた。
「いや、もうとっくに教国軍は彼女の一声で動くように支配されている。
いざ進軍となれば、ダークエルフを壊滅させるくらいの軍はすぐに動くだろう。
アマティアラの精神支配は異常だよ、危うく俺も取り込まれそうになったくらいさ。」
「ふふふそれは大袈裟では?」
「いや、相当の手練れであっても少し違和感を感じるくらいで、誰にも察知されることなく、時間をかけて深く広く精神を支配している。
ヴァンパイアの血による支配の方が可愛いくらいだよ。」
その発言にゴードン神父の力量を知っている私は驚いた。
「やはり首謀者は聖女だと?」
「今の大司教はお飾りだよ。
色ボケで女以外になんの野心もない。
そういえば、君の昔の仲間が大司教とできているという噂だが、あれは本当かい?」
その言葉に私はため息をついた。
「昔じゃなく、今でも仲間だと思っているんですけどね……」
「あのアマティアラって女は、おそらく君と同類、神の加護を得ている。
他のテシウスの塔の5人上席が同じ意見だ。」
私には疑問が残った。
「女神ミースがあの様な者に加護を与えるかしら?」
「確かにそれは無いだろうな。」
ゴードン神父はうなづいた。
私は最終的にある結論は導き出された。
「女神ミース以外の神の加護を与えていると?」
「どうやらそのようだね。
それは我々テシウスの塔にとって由々しき事態なんだよ。
今回の件は、我々は君らの側に付く。
もちろん、今回の件の間だけだ。」
「元許嫁と言いながら冷たいのね。
私個人はあなた達に敵対する気は無いわよ?」
「神の均衡を守る俺たちにとっては、聖女アマティアラも聖女エレナも同様に注意人物って事だ。
お尋ね者を匿ってると思われるのも具合が悪い、何か分かったら知らせるから早く行け。」
「わかったわ。
じゃあまたねゴードン神父」
ゴードン神父は、教会を出ていく私に振り返りもせず、背中越しに手を振っていた。
ーーーーーーーーーーーー
太陽が沈んだ頃に宿に戻ると、フリューが黒い装束に着替え戦いの準備をしていた。
「古い友人から聖女の情報を得てきたわ。」
私は、フリューにゴードン神父から聞いた話を伝えた。
「その情報元のテシウスの塔というのは信用できるの?」
「テシウスの塔はどこの神にも属さず、神々から力を授かった存在を監視して、神々の力の均衡を守るというのが目的の組織よ。
均衡を乱すような存在を敵対視していて、私自身も目を付けられているのよ。
正直に言うと謎の組織で、構成員も規模もわからないわ。」
「それは信用できないと言うこと?」
「いいえ。
組織の実態は私も知らされていないけど、私のお父様、オーランド神官長もテシウスの塔の一員で私を養女にしたのも組織の方針でもあるらしいわ。
ゴードン神父は父の友人で、何年か前までは私の許嫁だなんてお父様から言われちたのよ、・・・・・・あっ」
私が思わず口を滑らせた言葉に、フリューが固まっていた。
「違うの! お父様が一方的に言っていただけで私もゴードン神父もそんな気はないわ。」
「いや別にそんなこと今の僕は気にしてる暇はないから...」
そう言いながらもなんとなく気まずい雰囲気が流れた。
「本当よ・・・・・・」
「大丈夫、本当に僕は気にしてない。
今はやらない事があるから、もう行くね。」
フリューはそう言って窓から夜の街に消えていった。
「本当に気にしてないの? 気にしなさいよバカ……」
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