第54話 自由都市アヴァロン

 海賊船が入港した夜、僕らはドレイク船長の晩餐会に招かれた。

 邸宅の来賓室にディナーが用意され、晩餐の参加者が集まった。

 ドレイク船長、船長の妻と娘のリディ、来賓は僕とウルとシルクの3人というささやかなもので料理は奥様の手作りだった。

 

「よく来たなフリューとウル、それにシルク嬢、君たちを歓迎しよう。」


 そう言ったドレイク船長は船の上と違いアイロンのきいた白のワイシャツという服装だ。


「まあ話は食べながらにしよう。

 さあ遠慮なく食べてくれ。」


 テーブルには、船上では味わえなかった肉や新鮮な野菜や果物などが並べられていた。


「こりゃあ美味いな!」

「これは珍しいお菓子ね。初めて食べるわ。」

 ウルは、遠慮せずに頬張り、シルクはお菓子から食べ始めていた。


 そんな状況を微笑ましく見ていた船長であったが、先ほど付けていた眼帯を外しており、その右目の瞳は青く、眼帯で隠していた左目は金色であった。

「この瞳が気になるか?

 俺の左目は鑑定のスキルを持った魔眼だよ。

 万能では無いがなかなか便利でな、見た者のだいたいの強さが分かるんだよ。」


「ああ、それでオイラたちを警戒してたんだね。」

ウルが頬張りながらそう言うと船長はうなづいた。


「親父様、本当にこいつらは強いのか?」

リディの質問に船長が答えた

「そうだなぁ、この街で1対1でウルに勝てる奴は居ないだろうな。」


その言葉にシルクが驚いた顔をした。

「えっ! あんた本当に強かったの? 口ばかりかと思っていたわ......」


「まあね! オイラそこそこ強いぜ。

 で、兄貴はどうなんだい?」


ウルの質問に船長は首を傾げた。

「それが見えんのよ。

 俺の魔眼でもフリューの強さは分からん。」


「見えない.......ですか。」

僕は期待していた分少しがっかりした。


「フリュー、お前さんは何か不思議な力で守られている。

 それがお前さんを包み隠していて俺の目にも見れなくしているんだ。

 何か心当たりはあるか?」


「さあ?」

僕が首を傾げると、ウルが言った。


「オイラ心当たりあるぜ、でもありすぎて分からないんだけどな!」

そう言ってウルはケラケラ笑っていた。


「それはどういう意味だ?」


 船長の質問にウルはニヤニヤした。

「兄貴が女たらしって意味だよ。」


「心外だな、僕は女の子をたらし込んだことなんてないぞ。」


「無自覚かよ...」

僕はウルに呆れた目で見られているのが分かった。



 僕は話の流れを戻すことにした。

「ところで、この街のことと、船長が正義の海賊って言っていたことを教えてください。」


僕の質問にリディが答えた。

「そのことね。

 この街は『アヴァロン』という自由都市よ。

 この島アヴァロン島全部がアヴァロンと呼ばれているわ。

 この都市公認の海賊のボスが親父様ガリ=ドレイク。

 親父様は、この街では一応貴族の扱いなのよ。」


「街公認の海賊って、私掠船ってこと?」


 シルクの言葉に船長は感心した。

「さすが商会の娘だ、よくそんな言葉を知っていたな。

 私掠船で間違いはないが、俺たちはこのアヴァロンの沿岸警備も担っているんだ。

 このアヴァロンは海洋貿易のハブの港になって賑わっているんだが、それだけに海賊も多く出没する。

 この近くの海洋国家は皆私掠船を持っていてな。

 お互いに牽制し合っているのさ。

 まあ正義の海賊なんて言うのは図々しいが、俺たちの街を守る為にやっているんだから、俺たちにとっちゃ正義と言えるだろ?

 言ってみれば、ここ街直属の海の冒険者みたいなものだ。」


「僕もゴモラという自由都市にはお世話になっていた事があります。

 自由を守ることが綺麗事ばかりじゃないというのは分かります」


 僕の言葉に、船長は目を輝かせた。

「フリューは、ゴモラを知っているのか?

 あの街に俺の従兄弟のミゲーレって奴が街の顔役がやっているんだがな、今頃くたばってんじゃないかって心配していたのよ。」


 船長に会った時どこかであった気がしたのだが、まさかミゲーレの従兄弟とは.....


「ははははは、きっと元気にしてますよ。」



 その後も会食は続き、船長やリディからいろいろ話を聞いたのだが、自由都市と言ってもさすがに魔王の下でヴァンパイアハンターをやってます、とは言えず、自分たちのことは流れの冒険者だと説明した。

 少し罪悪感を感じたが、広い意味で嘘は言っていないという事で自分を納得させた。


 食後のデザートを食べている時に、船長からある提案をされた。

「お前たちを腕利きの冒険者と見込んで相談なんだが、ちょっとここ街で儲けていかないか?」


 僕とウルはお互い顔を見合わせ少し考えたが、とりあえず話を聞くことにした。

「儲け話ですか?」


「ちょっと...、いや、だいぶ危険な仕事だ。

 こんな仕事に子供を巻き込むのは気が引けるが、他に頼める腕利きはいないもんでな。

 ここより北にタンジェ海峡という場所がある。

 そこは北に通じる最短の航路となっているんだが、最近海竜が目撃されて困っているんだ。」


「海竜って強いのかい?」


「海竜自体は珍しいものじゃなく海に住む小型の竜だ。

 それでも漁船なんかでは脅威なのだがな。

 今回目撃されたのは、大型船ほどもある古竜という話だ。

 伝説の『リヴァイアサン』かもしれないという噂だ。」


「僕たちにそのリヴァイアサンを倒せと?」


「でもオイラ海の上ではまともに戦えないぜ。」


「いや、伝説の竜であれば、倒せとは言わんよ。

 リヴァイアサンは海の守り神とも言われているから、海路をの方諦めねばならんだろう。

 だが、黙って様子を見ている訳にもいかん。

 その為の調査に力を貸して欲しい。」


「用心棒としてですか?

 では、海竜意外に危険なものとは何です?」


「察しがいいな。

 正義などという貴弁は言わんが、近隣の海洋国家や自由都市が、どこも海路の確保に私掠船を出している。

 目的が同じであれば協力すれば良いのだが、日頃の関係からそうはならん。

 それに対抗する必要がある。

 それが一つな。」


「で、もう一つは?」


 僕の質問にガリ船長は言いにくそうにしていた。

「幽霊が出るんだと、この目撃情報は眉唾なんだが、あの海域で迷子になって帰ってきたら船乗りが『セイレーンが出た』って言っていたらしい。

 俺たち船乗りにとっては、海竜よりも苦手な相手だ。

 小さい頃は母親に『セイレーンに攫われるぞ』とかよく言われたもんだ。」


 どうやら船長は、海竜よりもセイレーンが苦手らしい。


「どうする兄貴、オイラ兄貴に任せるぜ。」


「そうだなぁ...,

 僕達の任務とは離れるけど、船長には恩もあるし、この街で稼がないと帰る船賃が無いよね。

 それに海の冒険も面白そうだしね。

 僕は参加するけど、ウルは港で待っててもいいよ。」


「兄貴に任せるって言ったろ?

 それに海の冒険にはオイラも興味があるしね。」


「じゃあ決まりだ。

 船長、僕たちは海竜の調査に参加します。」


「それはありがたい!

 出発は明朝だ、今夜はこの屋敷でゆっくり休んでくれ。」


 こうして僕たちは海竜調査へ同行することとなった。



 

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