第55話 アヴァロン船団の出航

 港は出航の準備で賑わっていた。

 アヴァロンの船団は、旗艦フラッグシップのシーガル号と僚船2隻が参加することとなった。

 僕らは海賊船シーガル号に乗り込むと甲板で出航準備を眺めていた。

 

「兄貴、シルクは見送りに来ないみたいだねぇ、冷たい奴だ。」


「数日一緒にいただけだからね。

 守ってあげるとか言っても、別に危ないことも無かったしね。」


 そんな話をしているとリディが話しかけてきた。

「もう直ぐ出航よ。 忘れ物とかあっても取りには帰れないわ。」


「オイラたち元々何も持ってないよ。」

そう言ってウルは両手をあげた。


「呆れた...用心棒なのに武器の一つも持ってきていないの?」

 リディにそう言われ、ウルは自慢の爪を見せた。

「オイラはこの爪があれば十分戦えるさ。」


「そうなの? で、フリューは?」


「あっ僕? 僕の武器は、そういえば前の船に忘れてきちゃったんだよね。 仲間が回収してくれてるし問題ないよ?」

僕の言葉にリディはため息をついた。

「はぁ...そういう話じゃないでしょ? どうやって戦うのか聞いてるの」


「あー、それはどうにかするよ。」

そう言って、僕はシャドウボクシングを披露した。


「はぁ......まあいいわ、その時になれば分かる事だから。

 船長は君たちを買ってるのだからガッカリさせないでよね。」

リディはそういうと出航準備に戻って行った。


 それから間も無くしてドレイク船長の号令が響いた。

「帆を展開して舫を解け、波止場を離れるぞ!」

号令を受け、船員は手際よく帆を張り舫を解いた。

 そしてシーガル号は帆に風を受け静かに出航した。

 

「よく都合よく風が吹くもんだね。」


「いや違うよ、あれを見てごらん。」


 僕が指差した先では船の後部デッキでワンドを掲げたリディが集中していた。


「彼女は風使いのようだね。」

風使いとは、風を操る魔法に長けた魔術師のことで、船舶の航海に重宝とされた希少な人材であった。

 

 シーガル号はぐんぐんと速度を増し沖合に出ると、先に出航していた僚艦2隻と船団を組んだ。


「右舷がシーウルフ、左舷がシーキャットよ。」


「やあ、リディお疲れ様。

 君って風使いだったんだね。」


「風使いと言っても私は魔力量が少ないから、出航時にちょっと役にたつだけよ。」


「それでもすごいよ。」

僕がそういうと、リディは少し照れていた。



 それから2日が過ぎたとき、マスト上の見張りの声が響いた。

「左舷前方に船影が見えます! 数5隻!」


「ちょっと多いいな。 進行方向は?」

 船長の問いに見張は答えた。

「4隻はこちらと並走、1隻が進路を変えてこちらに近づいています。」


「妙だな......」


再び見張から報告があった。

「海賊旗が見えます! あの海賊旗は、海洋国家ラーフェンの船ですぜ!」


ドレイク船長は自ら望遠鏡を覗くと、信号旗を確認した。

「交戦の意思はないってよ。

 だが警戒は怠るな!」


「兄貴、どう感じる?」

「まだ遠いからなんとも言えないけど、でも敵意は感じる。

 ウルも警戒しておいた方がいいよ。」


 それから10分後、ラーフェンの船はシーガル号と並走していた。

 デッキには、派手な装飾の服を着た20代半ばくらいの若い男が腕を組んでいた。

「ドレイク船長、そっちもタンジェ海峡の竜退治かい?」


「こっちは退治じゃない調査だルーク船長。

 人間が古竜退治なんて勇敢なんかじゃない、それは無謀ってもんだ。

 若さ故の無謀で命を落としたら、先代のバーンズ船長が悲しむぞ。」


 ドレイク船長の言葉に、ウルが僕に囁いた。

「竜退治は無謀だってさ。 ここにドラゴンスレイヤーがいるのに可笑しいや」

僕は小声で答えた。

「普通に考えたらやはり無謀だよ。

 戦力と運の両方が揃ってないと無理な話さ。」

僕だって二度とごめんさ。


ドレイク船長は話を続けた。

「進路を変えてまで無駄話をしに来たのか? 何か要件があるんだろ?」


「お願いだよ、僕の邪魔はするな、邪魔をしたら親父の昔馴染みであっても沈めるからね。

 タンジェ海峡は、僕が確保する。」

 ルークは、そう言い残すと、元の船団の方に進路を変えた。


「わざわざ近寄ってきて何がしたかったのよ!」

リディの疑問に船長が答えた。

「ラーフェンの5隻のうち、ルークの船だけが船足が速い、この船と並走中も微妙に進路を塞いでこちらの船足を落とさせてきた。

 タンジェ海峡の確保は出資者からの成功報酬がかかっているからな、俺たちの邪魔がしたかったんだろ?」


「なんてセコいの......」

リディはため息をついた。



「船長、先ほどの船に少し気になることが」

 僕は船長に声をかけた。

「あの若い船長からはあまり敵意を感じられませんでしたが、船員の多くは強い敵意を持っています。

 それもこの船向けられたものではなくあの船長に...」


「なるほどな、まあ分からない話ではない。

 カリスマがあった先代のバーンズ船長が死んであの坊ちゃんが継いだのよ。

 船乗りは実力主義だ、面白くないと思う奴も多いだろうよ。

 肝心なところで暴発しなければ良いがな。

 先代は信頼できる相手だったが、見直した方が良さそうだ。」


そうしていると、再び見張りが叫んだ。

「船長! 後方からすごく足の速い船が本船に向かって来ます!」


「またかよ、今度は何だ!」


「あの海賊旗は...

『海賊アリタリア』だ!」


「あの化け狐か! まずいぞ、総員戦闘体制を取れ!」


 シーガル号の船員に緊張が走り、全員が慌ただしく戦闘の準備を始めた。

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