第5話 暗部機関訓練生

僕は暗部機関の暗殺者を一通り倒したが、再度索敵を行ったところ、僕が戦った場所から少し離れた場所に、3人の小さな気配を感じた。


この3人が離れていたことに加え、殺気が感じられなかったことから、僕は彼らを最後に残していた。


僕が近づくと、そこには多頭立ての馬車があり、近くに3人の子供がいた。


12〜13歳くらいの少年2人と、少女1人

子供たちも揃いの黒装束を着て、馬車の前で怯えた目でこちらを見ていた。


手には短剣を持っていたが、すでに諦めたようで殺気は感じられない。

僕は彼らに声をかけた。


「やあ、君達とははじめましてだね?

顔を見たことがないことをみると、3年前以降に入った子かな?」


リーダー格の少年が答えた。

「そうです。俺たち3人は孤児院から引き取られ、組織で訓練中に連れてこられました。」


本当に暗部の暗部たる由縁だな。反吐が出る。


「君達も、僕を殺しに来たのかい?」

と聞くと、少年は困ったような顔をしていた。


「俺は、俺達は、、、馬の世話係として連れてこられ作戦の内容は聞かされていませんでした。

シャドウエッジが暗殺対象だったとは...」


「だから、その呼び方は嫌いなんだよ。君達もフリューと呼んでくれ。」


「はい、フリューさん。シャドウ・・・じゃなくフリューさんは僕らの希望でした。」


僕は、少年の話を聞いて少し驚いた


「僕が希望?君は僕のことを知ってるの?」


「はい、訓練期間中に誰よりも強くなり、14歳で勇者パーティーに選ばれたと聞いています。

でも、勇者一行は王子と3人の女性だという話だったんで、フリューさんの噂は暗部機関が僕たちを洗脳するために流した作り話だと思っていましたが。」


まだ組織に毒されてはいないようだな。

僕は、少年らに少し興味を持って聞いてみた。


「みんなは、なぜ僕が殺されなければならないか分かる?」


僕の問いかけに少女が答えた。


「はい、馬車の中で隊長たちから聞きました。

暗殺者は表舞台に立ってはならず、その存在を知られた者は、死ななければならないって。」


「じゃあ、みんなはそれが正しいと思う?間違ってると思う?」

と僕は問いかけた。


リーダー格の少年は、

「俺は...間違っていてもそれは仕方ないと思います。俺達の宿命ですから?」

と答え、もう一人の少年は、

「僕もおかしいとは思う。でも、組織から逃げることは出来ないから従うしかない。と思います」

と答えた。


少女は、困惑している様子であったが、、、


「私は、違う。間違ってることが仕方がないなんて思わない。私は、孤児院のほうが良かった。私は、、、暗殺者になるくらいなら死んだほうがまし」


彼女は思い詰めた様子でそう答えた。


3人の答えを聞き僕は考えた。


「本当は、ここで3人とも殺しちゃうのが一番僕にとって都合がいいんだけど、、、」


というと3人の顔に緊張が走った。


「君達には2つの地獄を選ばせてあげるよ。

一つは王都に帰ってクソみたいな組織に戻ること。

そのまま逃げちゃうって手もあるけど、君達の理論だと、組織から逃げたら殺されても仕方ないんでしょ?

もう一つは僕と一緒に逃げること。

僕は、さっきまで自暴自棄になって死んでも構わないと思っていたけど、王国が僕を殺したいなら死んであげるのはやめたよ。

その代わり、例え勇者であろうと敵対するなら僕は勇者を殺す。

君達に勇者と戦う覚悟があるなら僕が連れて行ってあげるよ。」


と3人に問いかけた。

ほぼ一択にしかならない選択だけど、これは僕を捨てた勇者たちへの意趣返し。

勇者たちへの宣戦布告をこの子達に託そうと思った。


2人の少年は迷った様子もなく

「俺は、王都に帰ります。」「僕も」とは答えた。


しかし少女は、まっすぐ僕の目を見て言った。


「私は、フリューさんと行きたい。

勇者様と戦う覚悟なんてないけど、、、、でも、少しでも希望があるならその希望にかけます。

私を連れて行って下さい!」


彼女の目に僕への恐怖心がなくなっていた。

それが僕には不思議だった。



ーーーーーーーーーーー



約束通り僕は彼女を連れて行くことにし、その場を離れた。


彼女は、茶色で襟足がはねたショートカットで目がくりっとした活発そうな女の子だった。


「君に名前はあるの?」


「訓練中だったので組織では、ナンバーセブンと呼ばれていました。」


そう彼女は俯きながら答えた。

僕は驚いて言った。


「奇遇だね。僕もナンバーセブンだったよ。途中でクソみたいな名前コードネームで呼ばれたけどね。

僕がいなくなった後に君が引き継いだんだね。」


僕がそういうと、彼女は驚いた目で見返してきた。

さて困ったぞ、セブンは呼びたくないなぁ。

僕は考えた末、彼女に提案した。


「これから逃げるのに名前がないと困るでしょ?孤児院の頃の名前は?」


僕がそう聞くと困ったように答えた。


「忘れちゃいました...」


そんなことあるのかなー?

困ったなぁー


「そうだなぁ...『リン』とかどうかな?」


「リンですか?」

彼女は怪訝な顔でそう言った。


「そうリン。ここは大森林だからリン!」


僕がそう言うと、リンはなぜか苦笑いをしていた。


「わかりました。今日から私はリンです!」


僕は一人で逃げていたのに、暗部機関の追手としてついてきたリンが旅の仲間になった。

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