第4話 月下の攻防

 フリューが王都を出たのが、太陽が真上に登っていたころ、その日の日暮には、王都の北に広がる大森林に差し掛かっていた。


 王都を出てからずっと、何者かに追けられている気配が続いていた。


 僕が本当に王国を出るのかを確認するまで安心できないのか?

 追手を巻くことも、返り討ちにすることも出来るが、僕にはそこまでする気はなかった。


もうどうでもいい。


僕は、自暴自棄になっていた。


 夜通し歩いて次の街まで行くことも出来たが、人と合うことが躊躇われたことから、その日の夜は大森林の中で休むことにした。


 大木の麓で一晩明かすことに決めた。

 そこの地べたに座り焚き火を眺めていると嫌なことを思い出した。


 僕は信じていた王子と彼女たちに追放された。

 あとは王子と彼女たち四人で家庭を築くから僕はいらないそうだ。


 一人ぼうっと焚き火を見ていると、次第に見られている気配が増えていることを感じた。


『上級斥候スキル気配感知』


 僕は、このスキルで半径百メートルほどの気配を感じることが出来る。

 魔獣ではない、殺気立った人の気配が、1つ2つ...ざっと20人ってところか?


 盗賊の類ではないな、盗賊にしては巧みに気配を消している。

 3人一組のチームを作って正確に間を詰めてきている。

 僕はこの殺気を知っている。


 旅立つ前の僕の気配に似ている。

・・・追手は暗部機関

 僕が3年前に所属していた暗殺部隊だ。


 僕は、王国が僕を消し去ろうとしている明確な意思を感じた。

 僕は心では悲しみと怒りを感じながらも、逆に頭は冷静に冷めていった。


「やあ暗部組織の兄弟たち!率いているのはスネークヘッド、隊長自らかい?」


 僕は追手全員に聞こえる声で話し始めた。


「会うのは3年ぶりかな?みんなが僕を鍛えてくれたことには感謝しているよ。

 それがなければ勇者たちと出会えなかったからね。

 王国の英雄たる僕を殺すような任務を与えられた君たちには同情するよ。」


 僕の独り言に付近の殺気が強くなるのを感じた。


「でも、僕が君たちを殺せないと思っているなら大間違いだよ。

 もう、王国のことはうんざりしているんだ。


 さあ、始めようか?」


 僕はそう言うとその場から気配を消した,,,



「奴の気配が消えたぞ、どうなっているんだ」


「八方に警戒しろ!注意するんだ!」


 囲んでいた暗部機関全員は焦っていた。


 暗殺者らは、全身黒ずくめの装備に、黒の仮面をかぶっている。

 対して、フリューはカーキ色の軽装の旅装束であり、月明かりの中で動けば20人の目からは誤魔化せない。

 そう思っていたが、、、


「こっちで副隊長が死んでいるぞ!近くにやつがいる」


「こっちに部隊長が死んでいる!!みんな複数集まって多対1で当たれ!」


 一人また一人と音もなく暗部機関の構成員が死んでいった。


 暗部機関隊長のスネークヘッドは焦っていた。「どうなってやがる?ナンバー2、3と上位から順番に殺されているだと?

 奴はどこに誰が隠れているか分かって確実に仕留めている。

 俺が知っているシャドウエッジとは違う」


 数分のうちに暗部機関の暗殺者の気配が消えた。

 しかも誰も悲鳴を上げずに音もなくだ。


 死体は、死んだことを意識していない様だった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 そして僕は、スネークヘッドの背後から声をかけた。


「やあ隊長、いやスネークヘッド。ちょっと話をしようか?」


 スネークヘッドがゆっくりと振り向くと、その顔は恐怖に怯えていた。

 僕は、スネークヘッドから10歩ほど離れたところで、ナイフを持ち返り血を浴びた姿で立っていた。


「シャドウエッジ!貴様どうやって仲間を殺った?貴様にそんなスキルはなかったはずだ。」


 スネークヘッドの問いかけに対して、僕は答えた。

「そのコードネームで呼ばれるのは嫌いだな?僕には勇者がくれたフリューという名前がある。フリューって勇者の生まれた故郷で風って意味だって。

 あと、僕は特別なスキルは使っていないよ。

気配を消して、、、近づいて、、、殺しただけ。

それって君が教えてくれたでしょ?」


「そんな馬鹿な!」

とスネークヘッドは驚愕していた。


「僕も3年でいろいろあったんだよ。

 勇者から気の使い方、賢者からは体内魔力の練り方を習ってね。

 それに元々3年前でさえ君より強かったから僕が選ばれたの忘れたの?」


その瞬間、

 スネークヘッドの小剣を持った右腕が切り落とされた。


「、、、そんな、、速すぎる、、、」


僕はスネークヘッドの背後にいた。


スネークヘッドの首にナイフをあてて聞いた。

「僕を殺すよう指示したのは誰?」


 右足にナイフを突き刺しスネークヘッドは膝をついた。


「もう一度聞くよ。僕を殺すよう指示したのは宰相サイロスだね。」


 僕はスネークヘッドの目を見て質問したが、顔を歪めながら沈黙をしていた。


「ありがとう。僕は瞳を見れば答えが分かるんだよ。これは賢者直伝でね。」


そういうと左足にナイフを突き刺した。


「答えはわかったけどこれは黙秘の罰だよ。

次、指示したのはアーサー王子だね?」


「い、いや待ってくれ、それを言ったら俺は殺されちまう!」


「その答えは自ら自白したようなもんだよ。自覚ある?まあいいだろ...

 次だ、僕を殺すよう指示したのは勇者だね?」


 スネークヘッドは、目を閉じて僕の視線を避け、汗を垂らしながら震えていた。

 そして一瞬苦しんだ顔を浮かべた後、そのまま前屈みに倒れスネークヘッドは絶命した。


 奥歯に仕込んだ毒薬を噛み砕いたか...

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