第48話 ヴァンパイアとの対決

 僕らは、王の間へ続く回廊の手前まで来た。

 僕は気配察知スキルでこの先に敵がいることを感じた。

 敵の数は100以上、その全員が戦いの前に感じる高揚感や緊張感を持っていない。

 それは強者の持つ特徴だった。

 このままこの三人で突入するのは危険だが、かと言って迂回する通路も無い。

 魔女エルゼべエトがいるのは王の間そこに何かあると

 僕が緊張している顔を見て、エレナは言った。


「ふふ、何を私の英雄がいまさら緊張しているのかしら?」


「僕だって緊張はするさ。この先は危険だからね。

 エレナは余裕だね。」


「そうかしら? そう見えるなら、それはあなたがいるからよフリュー。

 あなたといれば私は無敵なの、この先の敵なんて問題はないわ。」


 エレナはそういうと、僕に抱きついて来たて、また僕の頭はエレナの胸に埋もれた。

「大丈夫よ。私を信じなさい。」


「まだエレナは、そう僕を子供扱いするんだね。 

 緊張しているのがバカバカしくなるよ。」


「あら、子供にはこんなことしないわよ。

 ねえウル。」


「あのさぁ、オイラは何を見せられているんだ?」

ウルは呆れてそう言った。


 エレナは立ち上がると、優しげだった目が凛々しく変わった。

「この先にいるのはヴァンパイアよ。私にはわかるの。

 ヴァンパイアの天敵は僧侶って昔から決まってるでしょ。」


エレナの言葉にウルが異議を挟む。

「ちょっと、聞き捨てならないなぁ。

 ヴァンパイアの天敵は、オイラたち狼人族だって常識だぜ!」


「だそうよ、フリュー。ここは私たちに任せない。」


エレナはそう言って、回廊の扉を開いた。



 回廊の正面には護衛の騎士を伴った宰相サイロスが僕たちを出迎えた。

 両側の壁際にはズラリと黒いマントを羽織ったヴァンパイアが無表情な顔でこちらを見ていた。

「はっははは! やあやあこれはこれは、暗殺者風情が、聖女、いや尼さんと、獣の子を連れて何をする気だ?」


 自信満々な物言いのサイロスに対抗して、エレナが笑った。


「フフッ、これは久しぶりねサイロス宰相。

 あなた今私のことを尼さんって言ったけどそれは間違いよ。

 私は尼でもなければ聖女でもないの。

 フリューにも秘密にしてたけど、私ね。

 ここに来る前にお父様、神官オーランド様に、久しぶりに職業ジョブを鑑定してもらったのよ。知りたい?」

 エレナは、おどけるようにそう言った。


「尼じゃなければなんだというのか?」


サイロスの問いにエレナが答えた。

「聞いて後悔しないでよね?

 私の職業ジョブはね『吸血鬼殺しヴァンパイアスレイヤーよ。

 恥ずかしくって言えないでしょ? 先日、殺しまくっちゃったかしら?」


 その言葉を聞いてヴァンパイアたちがざわめき始めた。


「それじゃあ、先日覚えたばかりのスキルをお見せするわね。」

『ーBurn, Vampireー』!!!

エレナが呪文を唱えると、手にした杖から複数の光線が放たれた。


 その光は回廊中を駆け回り、その光が触れたヴァンパイアは、触れた部分から燃え上がり灰となっていった。

「「「!!!」」」

 ヴァンパイアたちは、一斉にコウモリ様の翼を広げると回廊内を飛び回り、阿鼻叫喚の様相であった。

 

 一部のヴァンパイアは隙を狙ってエレナを狙おうとしたが、それをウルが飛びかかって軽々と爪で引き裂いて行く。

「ちょっとおいらの出番がなくなるだろ?」


 前衛にウル、後衛にエレナの布陣で完全に戦いの主導権をとっていた。

「ここは私たちで十分よ。フリューは先に向かいなさい!」


「わかった! ここは二人に任せるよ。」

 僕は、ヴァンパイアの間を駆け抜けて先を急いだ。

 

 途中の扉からサイロスが逃げ出すのが見えたが、僕はそれを無視して回廊を急いだ。


ーーーーーーーーーーーー


「はぁはぁはぁ...なんじゃアレは?

 あんなに簡単にやられおって、ヴァンパイアは最強の種族では無かったのか?」


 サイロスとお付きの騎士は、王城から逃走するため地下の隠し通路を急いでいた。


「ここまで来れば追っては来るまい。

 この通路を知っている者は私意外もう居ないだろう。」


サイロスに護衛の騎士が聞いた。

「なぜエルゼベエト様の元へお逃げにならなかったのですか?

 ここまま王城を離れても我々の味方などいないでしょう。」


「まもなく来る母上の縁者が、この王都を狩り尽くす。この王都は滅ぶだろう。

 もう母上は私になど興味はないよ。もう何もかもが遅いのだ。」

サイロスはそう答えた。



「それは、自分勝手な物言いだね。」

 誰もいないはずの地下通路に、子供、しかも少女が一人でいた。


「なんだお前は? なぜこんなところにいる?」


サイロスの問いかけには答えた。

「ここは私が兄さんに任されているの。

 あなたはサイロス宰相でしょ? 知っているわ。 私たちはあなたに嫌な仕事を押し付けられていたのだから。」


「なんだ? 暗部機関の訓練生か?

 もうお前らの出番はない、どこへでも行け!」


「今私が言ったこと聞いていた? 私は兄さんにここを任されているの。

 まもなく、この地下通路を通ってアウグスト王子たちがくるのよ。

 ここは通さないし、ここからは帰せないわ。」


 サイロスには、リンが言うことが理解ができなかった。

 子供一人が、3人の騎士を連れた我々を通さないだと?


「お前は何を言ってるんだ? 邪魔をするなら子供とはいえ殺すぞ?」


サイロスの言葉にリンが動いた。


シュ!

 リンの両手が見えない速さで動き、両腕からクナイが放たれた。

 それと同時にサイロスの両側にいた騎士が倒れ、その額にはクナイが刺さっていた。


「ヒィ!」

 サイロスが倒れた騎士を見た後、顔をあげると、そこにはすでにリンの姿は消えていた。


ブシュ!

 その音を聞いて振り向くと、後方にいた騎士が、首から血を吹き出して倒れて行った。

 

「な、な、なんだお前は?!」

サイロスはその場で腰を抜かし、ただの子供と思い込んでいた自分に後悔をした。


「思い出したぞ。

 いやフリューの返り討ちにあって死んだと報告を受けていたが...まさか、『No.7』か?」


「番号で呼ばれるのは嫌なんですけど。」

 リンは、サイロスの背後に立っていたが、サイロスはその殺気に振り向けないでいた。


「私はお前を知っているぞ...

 暗部機関で、勇者一行の暗殺者フリューをも超える才能をもち、エース番号7を継いだ暗殺者。

 それが生き残ってここにいるとは私も運はない。」


「暗部機関にフリードリヒ王の第二王妃を殺させたのもあなたでしょ?

 あなたの考えは理解ができないわ。」


「そうだろうな。

 私があの女の正体を知った時、あの女は兄上を傀儡にしようとしていた。

 私も、あの頃はこの国を良くしようと精一杯だった。

 だがなぁ。私にもあの憎むべきヴァンパイアの血が流れているのだよ。

 血には逆らえない。謀略と後悔を繰り返す、私の気持ちなど誰も理解できぬよ。

 もう疲れた...」

 

 サイロスは、その言葉を残して前屈みに倒れると床に血溜まりが広がっていった。

 そして、その手には自ら腹に刺した短剣が握られていた。


「私が躊躇うと思って自害したのなら心外だわ。

 私の正体を知ったあなたを、私が生かしておく訳がないのに。」

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