第64話 ゴブリン召喚と戦利品
集落を落とした我々はここで夜を明かすことにした。
交代で見張りをしながら、つぎなる戦いに備え身を休めているところである。
やはり住居の数に対してゴブリンの数が足らない。とくにオーガだ。閉じこめられていた大きな小屋の数が合わない。
召喚で賄っているのならば四つもいらないだろう。あと数体はいると見ていい。
おそらく、ゴブリンがオーガを連れて狩りに出ているのではないか。それもいくつかのグループに分けて。
そのひとつが帰還したのちに、我らが攻めたと考えるべきである。
いずれ全てのグループがここに帰ってくる。われらは住居を乗っ取った憎き相手なわけだ。
そりゃあ血眼になって襲いかかってくるだろう。
リンはまだ目覚めない。
本来なら、ここから引いて彼らが帰ってくるまで集落を監視したいところだ。
あるいは一度街まで戻るかだ。
だが、今はリンを動かしたくない。せめて一晩だけでも。
「どうだ? 近づいてくる者はいるか?」
「ゲキャ!」
いま見張りをしているのはわたしとゴブリンだ。
ゴブリンの召喚魔法をさっそく試してみた。
『闇の子よ、土より芽吹く
なんとも便利だな。
ゴブリンは夜目がきく。夜間の見張りには、うってつけだろう。
これから、どの程度召喚を維持できるか、どれほどの命令に従うかを確認していく。あとはどのようにいなくなるかもだ。
ゴブリンが召喚したオーガは、召喚主の死とともに元の土くれへと戻った。
おそらく、呪文の効果が切れた瞬間ゴブリンも土に戻ると思われるが、やはり確認はしておきたい。
いざというとき、「こんなはずでは」は困るからな。
今回、ゴブリンの集落を襲い、それなりの収穫もあった。
まずジェムが825ジェム。住居にあったものと、死体から採取したものとの合計だ。
ゴブリンの死体からは黄色のジェムが一個づつ、魔法を使った者のみ二個採取できた。
オーガは赤色だ。みな心臓付近にあった。
働きに見合った金額かどうかはさておき、それなりの収入にはなりそうだ。
ただ、問題はなぜゴブリンが住居にジェムを置いていたかだ。
フェルパによると地下五階には、ジェムと引き換えに商品を提供する装置があるそうだ。それも複数、遺跡のような施設とともに点在しているという。
ただ、それを使うのは人間ではない。使うのは魔物どもだ。
ようは知恵ある魔物は、他者を襲い、奪ったジェムで何かを買っているわけだ。
そうした仕組みが、ここジャンタールには出来あがっている。人が住む地上部は、その枠組みの一つにしか過ぎないのだ。
大きな話だな。
まあ、いい。そのへんは研究者でもない私の知るべきところでもない。
今ある物資と力でどうやってアシューテを見つけ、無事連れ出すかだ。
それが私がここへ来た意味だ。
今回、その手助けになりそうな品物も集落から入手した。
二冊の魔法書とゴブリンが持っていた杖だ。
現時点でどんな魔法書かは分からない。
しかし、杖に関しては分かった。
精神を集中させると、杖の先から炎の塊が飛んでいくのだ。
炎の速さは弓より遅く、石を投げるよりは速い。詠唱を必要としないため、かなり役立つだろう。
ふと、ゴブリンの小屋から誰かが近づいてきた。
「アニキ、リンが目を覚ましたよ」
「わかった。代わりに見張りを頼む」
アッシュだ。今回戦闘に参加しなかったが、集落の探索と死体の処理には手を貸してもらった。
彼に見張りを託し、リンのいる小屋へと向かう。
そのさい、ちらりと振り向いてアッシュ様子を確認したが、私の召喚したゴブリンをとても嫌そうな目で見ていた。
すまんなアッシュ、二人で仲良く見張りをしてくれ。
ゴブリンが私の視界から完全に消えたら、どのような変化があるかの確認でもあるのだ。
小屋に入ると、地べたに腰を落とし、武器の手入れをするフェルパがいた。
そして、体を起こし、こちらをぼんやりと見つめるリンもいる。
「どうだ? 体調は?」
私はそう言ってリンに歩み寄ると、水の入った水筒を手渡した。
「え? ええ、元気よ。 ……ここは?」
リンは自分の置かれた状況をよく理解していないようだ。とりあえず身体的な後遺症の有無を確認してみた。
「指先に力? ええ入るわ。痺れてもいない。頭痛? 別にないけど……でも、なんでそんなことを聞くの?」
どうやら身体的な後遺症はないようだ。
だが、どうも記憶が怪しい。大きな衝撃で意識障害をおこしているのかもしれない。
いくつか質問してみると、集落に攻め込む少し前からの記憶がスッポリと抜け落ちているようだった。
自分がなぜここに寝ているのかも、オーガにやられたことも、とうぜん覚えていない。
心配だなコイツは。
一時的なものならいいが、自ら記憶を封印して精神の安定を図った可能性もある。
その場合、記憶を取り戻すと精神に負荷がかかりすぎる。
「俺はちょっくら外の様子を見回ってくるわ」
そう言うとフェルパは立ち上がり小屋の出口へと向かった。
が、そのとき、彼の姿がランタンに照らされ壁に大きな影を作った。
「ヒッ!」
リンが悲鳴を上げた。やはり……。
「大丈夫、大丈夫だ」
そう言って私は彼女の肩を引き寄せると、その視界を遮るように、そっと唇を重ねた。
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