第65話 ゴブリンの襲撃
「アニキ、来た。奴らだ!」
アッシュの声で飛び起きる。私とリンは素早く武装し外へと出ると、皆が見つめる方角へと目を凝らした。
夜はもう明けていた。地平線に並ぶ人影が、昇り始めた太陽に照らされいくつも浮かんでいた。小さいものと大きいもの。
「オーガか……」
フェルパのつぶやきにリンが身を固くしたのが感じられた。
大きい影はオーガだ。そして、小さい影はゴブリン。それなりの数だが、帰ってきたのが日が昇ってからとは、運はまだこちらに味方してくれているらしい。
「もう、バレてるかな?」
「たぶんな」
聞いたのはアッシュ。彼の言う「バレてるかな?」は、我らが集落を乗っ取ったことだ。
フェルパは「たぶん」と返事をしていたが、まず間違いないと思っているだろう。私も同様だ。
ドゴンと大きな音がして、小屋の屋根が弾けた。
石だ。人ひとりでは持ち上げられないほどの大きな石が、小屋の屋根に衝突したのだ。
やはりもう知られているな。
そして、石を飛ばしたのはおそらくオーガ。投石までしてくるとは、なかなかどうして知能が高い。
「マジ? あんなとこから!?」
アッシュが驚くのもムリはない。彼らとの距離はまだ遠い。いかにあの巨体といえ、ふつうに投げてはここまで届かないだろう。
「スリングだな」
「ああ」
使ったのはスリングだ。
石をヒモで包み、クルクルと回転させ、遠心力をつけて速く遠くへ飛ばす。手で投げるより圧倒的に威力が増す。
ゴブリンの知恵かは定かではないが、厄介なことに変わりない。
「当たるなよ。そのヨロイ着てても危ねえぞ」
フェルパの言うように、アレに当たればオダブツだな。
まあ、しっかり見てれば当たることはないだろう。
投石は点ではなく面だ。多数が同時に放つからこそ効果がある。
動かぬ砦じゃないんだ。単発の投石など目で見てかわせば、それで十分だ。
夜だったら危なかったな。見えなければかわせない。
運悪く建物ごとグシャリなんてこともあったかもしれない。
「落ち着いてかわせばいい。どうせ長くは続かん」
私の言葉に、みなうなずいた。
オーガがスリングで飛ばせる手ごろな大きさと形の石なんて、そうそうありはしない。
事前に準備でもして、どこかに積んでない限りはな。
「アッシュ、クラムジーハンドを使え」
とはいえ、タマ切れを待ってやる必要もない。
クラムジーハンドが決まれば、相手は投石どころか丸太すら持てなくなる。
「わかった。……われに仇なすものの手を縛りたまえ、クラムジーハンド!」
アッシュは返事をすると意識を集中、クラムジーハンドの呪文を唱えた。
しばしの沈黙。その後、われらの近くの小屋の壁が派手に吹き飛んだ。
「ウオ! スゲー威力だな」
フェルパは笑いながら肩をすくめる。
クラムジーハンドの効果ではないことを知っていての冗談だ。もちろん、そんな言葉などムシだ。
小屋の壁を吹き飛ばしたのはオークの投石だ。
アッシュのクラムジーハンドは効果を表さなかったのだろう。
「だめだよ、アニキ。遠すぎる」
なるほど。クラムジーハンドの射程は意外と短いのかもしれないな。
いまは回避に専念するよりないか。
「いったん散開! 私の合図でクロスボウを放つ!! 戦いは拠点を防衛する方が何倍も強い。やつらを殲滅するぞ!」
わたしの言葉にみなうなずくと、それぞれ場所を移した。
相手が飛び道具ならば固まっていると狙われやすい。散らばって的を分散する。そして、もう少し距離が近づいたら、今度はこちらが一斉にクロスボウを撃つのだ。これですこしでもゴブリンの数を減らす。
視界にうつる相手の戦力は、オーガ一、ゴブリンは十ほど。
想定していたよりも少ない。これなら計画通りの戦いができそうだ。
計画とは、私とオーガとの真っ向勝負。
オーガの影におびえるリンの不安を取り除いてやらねばならない。
だから、小細工はなし。剣で圧倒し、オーガなど脅威でないと見せつけねばならない。
そのためにはゴブリンがジャマだ。
削れるだけ削っておきたい。
『闇の子よ、土より芽吹く
呪文を唱えると、小屋に隠れるようにゴブリンの歯を五つ撒いた。
地中からニョキニョキと五匹のゴブリンが生えてくる。
悪く思うなよ。戦いとは、知恵をしぼった者が勝つのだ。
召喚したこいつらを生き残った仲間のように見せかけて急襲させる。
これでゴブリンはほとんど抑えられるだろう。
自分たちができるなら相手だってできる。その逆もしかりってね。
オーガを召喚されたカリはこれで返させてもらうとするか。
私が指示すると、召喚したゴブリンたちは住居の影やら繁みやらに散っていった。
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