第66話 殲滅

 予想通りオーガの投石は長くは続かなかった。

 丸太に持ち替え、ゴブリンともどもこちらに向かってくる。

 住居に被害は出たがこちらは無傷。いまのところ悪くない。

 どうせ、住居はゴブリンが建てたものだ。壊れたところでどうということはない。

 拠点に使うとしても、三つ四つあれば十分だ。


「放て!」


 十分に引きつけたところでクロスボウの矢を放つ。

 この距離ではかわせまい。

 思った通り四本のうち、三本の矢がゴブリンへと突きささった。


 クロスボウの次弾は間に合わないな。地面に投げ捨て、剣に持ち替える。

 槍やら吹き矢やら持ったゴブリンと向かい合った。


「ゲギャ!」


 そのとき、声を出して茂みから飛び出したのは私が召喚したゴブリンたちだ。

 それを見て、こちらへ向かっていたゴブリンたちの足が止まる。

 警戒か戸惑いか安堵か。

 どれかは分からないが、かまうもんか。一瞬足が止まった、それだけで十分だ。


 ボウとゴブリンが炎に包まれた。

 杖だ。ゴブリンから奪ったあの杖から、炎の球を飛ばしたのだ。

 飛ばしたのはアッシュ。素早くクロスボウから持ちかえると、足が止まったゴブリンのスキを突いた。


「いまだ、かかれ!」


 フェルパが声を上げると、リンともどもゴブリンどもに襲いかかる。

 召喚したゴブリンたちもそれに続く。側面をつく形で襲いかかった。


「でかぶつ。お前の相手は私だ」


 ゴブリンはもう問題ない。残すはオーガ。こいつを正面からねじ伏せる必要がある。

 リンの不安を取り除いてやらねばならない。

 苦戦は論外。圧倒的な力の差を見せつける。


 挑発した私をオーガが見つめる。

 その瞳に映るのは憎悪だ。

 それもそのはず、オーガの片目はつぶれていた。

 あのとき投げたスローイングナイフ。食らったのがコイツだったわけだ。


「ゴアアアア!!!」


 オーガは雄たけびを上げると、こちらへ向かってくる。

 彼の目にはもう私しか映っていない。

 そうだ、それでいい。ほかの誰かが巻き込まれでもしたら厄介だ。

 しっかりと私だけを見て死んでいけ。


 オーガが丸太を振り上げる。

 芸がないな。攻撃のタイミングが丸わかりだ。

 丸太の振り下ろしを、ほんの一歩でなんなくかわす。


 ガリリリリ。

 地面を打った丸太はその勢いのまま、遠くへ転がっていく。

 降り下ろしに合わせて、オーガの親指を私が切り落としたからだ。


 だが、まだ終わらない。すぐさま間合いを詰めると、剣でオーガの足首をなでる。

 完全に断たずともよい。腱さえ断てればそれで十分だ。

 オーガはバランスを崩して膝をついた。それでも私を握りつぶそうと、巨大な手を伸ばしてくる。

 悪いがそれもムリだ。

 剣を合わせ、その手を切り落とす。そして、その手が地面に落ちるより先に、返す刀でオーガの首をはねた。


 終わりだ。あっけなかったな。

 首のないオーガは鮮血を吹く。驚きの表情のまま固まったオーガの首は、コロコロと数回転して止まるのだった。


 ジャマが入らなければこんなものか。とはいえ、剣の切れ味に助けられたのも事実だ。慢心せぬように気をつけねばな。


「オーガは片づいた! これからゴブリンを殲滅する!」


 フェルパたちに目をむけると、みなこちらを向いていた。

 ゴブリンさえも。


 戦いの最中によそ見は危険だが……。

 まあいい。あとは油断せぬよう仕留めるだけだ。

 残ったゴブリンの数は五……か?


 いかんせん、召喚したゴブリンと見分けがつかない。

 私から見ればどちらも同じゴブリンだ。


 ゴブリンどもがクルリと背を向け逃げ始めた。

 その数、五。

 ふふ、やはり五であっていたか。


「逃がすな!」

 

 私が叫んだ時にはフェルパもリンもゴブリンの背を剣で突いていた。

 悪くない反応だ。そうでなくてはな。

 これで残り三。


「追え!」


 逃げるゴブリンを、私が召喚したゴブリンが追う。

 ここは彼らに任せるか。

 リンとフェルパではゴブリンの足に追いつけまい。


 それから、わずかの時間が流れる。

 召喚したゴブリンは、しっかりと首を三つ持って帰ってきたのだった。

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