第113話 未到達地点

 その後、いくつかワナを抜け、とある地点にたどり着いた。四角い部屋である。

 部屋には扉が四つ。入ってきた西の扉に南の扉、北の扉に東の扉だ。

 扉の右側には、それぞれ備えつけの松明があり、部屋全体を明るく照らしている。


「ついに来たな。ここが中継地点だ」

「中継地点?」


 フェルパの言葉をアッシュが聞き返した。

 オイオイ、メシ食っているとき話してただろ。ちゃんと聞いておけよ。

 さてはアッシュのやつ、ワナを解除するのはどうせ自分じゃないと、聞き流していたな。


「ああ、中継地点だ。最初の部屋で北、東、西に分れていただろ? あれがここで一度合流するんだ」

「へー」


 そう。だから西を選んだ我らは西の扉からここに辿りつき、東を選んでいれば西の扉から、北を選んでいれば南の扉に辿りつくわけだ。

 先に進むには北の扉。そこから、また三方向を選ぶ形となる。


「帰りは好きなところを選びゃいい。けど、実際は西の扉一択だけどな。レバーを引けばワナは解除されるが地形までは変わらねえ。南は水没した通路のままだし、東は細いロープや杭を伝っていかなきゃなんねえ」


 どのようなワナか確認する利点はあるが、あえて選ぶ必要がないのも確かだ。

 帰りに余力があれば見てみるのもいい。

 が、まずはこの先の攻略。そちらに集中してもらおうか。

 パンと手を叩くと、みなの注意をこちらに向ける。


「ひとまずここで休息とする。各自携帯食料をとったのち、体を休めろ。見張りは二人ずつ。まずは私とフェルパ、つぎにリンとシャナ、最後にアッシュとアシューテだ」


 こうして見張りを三つに分けた結果、しっかりと睡眠をとれた。

 身軽さを考慮して毛布を持ってこなかったため、床の冷たさが心配であったが、

流体金属のヨロイは敷石の冷たさを防いでくれた。

 他の者には悪いがな。まあ、その分働くんだ。許してもらおうか。


 そろそろ行くかと、みなを引き連れ南の扉をくぐった。

 北ではなく、南。水没した通路のある南の扉だ。


 進むことしばらく、通路は徐々に下へくだっていた。

 やがて水面が見え、通路はそのまま奥へと続いていた。

 完全に水没している。たしかに、これは攻略できぬな。


 潜ったままワナを回避しきゃならない。なにかで呼吸を確保したとしても、人間にはおおよそ不可能に思える。

 神殿の試練とやらは、魚に対しても行っているのか?

 あるいは鳥に対しても。東は空でも飛ばなきゃ攻略は難しいと聞く。


 まあ、そんなことは今はどうでもよい。

 重要なのはこの水没した先にあるものだ。今のわたしにとって必要なもの。


 松明で水面を照らしてみた。水草やミズゴケといった植物が見えた。


「大将、気をつけろよ。人食いの魚がウヨウヨいるぞ」


 ああ、分かっている。

 だからこそ、ここに来たのだ。

 ヤリで水底をさらってみた。ヤリの先端にドロがつく。

 やはり。

 植物があり動物がいる。土やらドロやらが堆積していると思った。


 ゴブリンの歯を取り出す。

 水面にばらまくと呪文を唱えた。

 ドロで悪いが力を貸してくれ。この先を抜けるためにお前たちの力が必要なのだ。


 


――――――




 元の部屋へと戻り、北の扉を開いた。

 先は通路になっており、しばらく進むと三つに分れた。

 三つの通路にはそれぞれプレートが貼られている。

 左から順に『地を這う虫にも五分の魂。汝の魂は彼らと共にありけり』、『人は水より産まれて、土へと還っていく。なんじの試練は水の中にあり』、『天を舞う鳥達は地に落ちた。汝の進むべき道は一本の蜘蛛の糸』だ。


 同じだな。引き続き左の道を選択して進む。

 やがて、すこし大きめの部屋へと出た。


 正面の壁には壁画。土中にむかって掘り進めるアリの姿が描かれている。

 また、絵の上部には♤と♡と♢と♧のマークが描かれている。

 そして、地面には無数の穴。

 あとは何もなかった。進むべき次の道さえも。


「ここだ。ここがどうしても抜けられなかった」


 フェルパによると、謎を解かねば先に進めないそうだ。

 謎を解いて初めて通路が現れるのだと。


「謎の正体は分かっている。穴だ。穴の先にレバーがあり、そいつを引けば絵の上のマークが光る。ただ、四つ全部点灯させないと通路は出て来やがらねえんだ」

 

 なるほどな。

 穴にはどうせワナが待ちかまえているんだろう。

 プレートに書かれていた『地を這う虫にも五分の魂』。

 アリンコよろしく地べたをはって、無数にある穴の中から正解の四つをみつけろってことだ。

 これでは命がいくつあっても足りないな。

 狭い穴の中ではワナをさけるのも難しい。消耗戦しか手立てがない。

 だから、ゴブリンか。

 死を覚悟で挑んでもらうしかない。


 いたしかたない。

 ゴブリンを一斉に穴にもぐらせた。

 召喚したゴブリンの数は14。これでなんとか抜けられればいいが。


 待つことしばし。

 壁のマークが点灯した。それも二つ。♢と♡だ。幸先さいさきがいい。


 ところが帰ってきたゴブリンは七体だった。

 五分の魂。シャレか偶然か生存は五分五分だ。


 やってくれる! 犠牲を前提にしたワナにヘドがでる。

 だが、立ち止まってはいられない。

 残りの穴にもう一度ゴブリンを潜り込ませる。

 帰ってきたのは四体。また半数近くだ。いや、さらに二体戻ってきた。

 今回は運がよかったか?

 ちがう。一体は手首、もう一体は脚をなくしている。

 ワナで負傷したのだ。一度目か二度目かは分らぬが、やられた。

 だが、それでも帰ってきてくれた。


 そんな彼らをまた穴に送り込む。

 正直、いやな気持ちでいっぱいだ。だが、表にはださない。

 捨て駒こそ、この魔法の本質。悔いたところでいまさらの話だ。


 こうして、四つのマークが点灯したとき、残されたゴブリンは一体となっていた。


「見ろ! あれだ!!」


 壁画が二つに割れていった。

 その奥にまた通路が現れる。


「大将! いこうぜ!!」


 フェルパにとってもこの先は未知の領域。

 はやる気持ちを抑えられないと見える。


「そうだな。扉が閉まったら目も当てられないしな」


 ここも十の呼吸で戻るかは分からないが、急いだほうがいいに決まっている。

 複雑な気持ちをかかえながらも、先へ進むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る