第126話 塔を探索する
装備を点検し、宿を後にする。
これから塔を探索するのだ。
剣は新調、槍も買った。敵の特性を考えハンマーも。
治療薬も多めに持った。飲み水も食料もたんまりだ。
行動を共にするのはいつものメンバー。
リン、アッシュ、シャナ、アシューテ、フェルパ、そしてロバとラプトルクローラーだ。
みな、新たな道が見つかったことに興奮を抑えきれないようだったが、それ以上に緊張していた。
なにせこの先がどうなっているか誰も知らない。
知っているのはただ一人、迷宮を攻略したバラルドのみの可能性だってあるのだ。
「行くぞ」
光の枠をくぐって塔のなかに入る。
中は真っ暗だ。漆黒の闇。かざしたランタンの光すら吸いとられるような気がする。
ブンとわずかに空気が振動した。
と、同時に天井に明かりがつき、塔の内部が鮮明に映し出された。
「え? なに?」
勝手に灯る明かり。
リンが驚き周囲を見回す。
コイツは神殿で経験したのと同じか。
どうやら、われらの侵入はすでに知られてしまったようだ。
心配ないとリンの肩に手を置くと、軽く微笑みかける。
それから、神経を研ぎ澄ました。
なにがあってもいち早く反応できるように。
「やけに白いな……」
「ああ」
フェルパの言うとおり塔の中は、壁、床ともに真っ白で、いやにツルリとしていた。
滑るわけではない。
ただ、ぼんやりとわれらの姿を映しだすほど、なめらかで光沢があった。
「ランタンはいらなさそうだ」
ランタンの火を消すと、背負い袋にくくりつけた。
かわりに剣の柄へと手を添える。いつでも抜けるようにしておくのだ。
ここはジャンタール。そして迷宮の中だ。
そびえる壁は天井まで伸び、すすむべき道も迷路のように分岐していると思えた。
われらが今いるのは真っすぐ伸びる一本の通路。
前方で左右に分岐し十字路となっている。
扉はない。壁の長さと高さは驚くべきほど均等だ。まさに人を迷わすつくりだ。
ピタピタピタ。
何かが聞こえた。立ち止まると、耳を澄ます。
おそらく足音だ。二足歩行、単体、靴をはいていない。
この先の十字路、右から聞こえていると思われる。
音は一定のリズムを刻んでいる。
近づいているな。分岐部で衝突するのは避けたい。
われらは武器を構えて待った。
ピタピタピタピタ!
とつじょ、音が大きくなった。
走っているのだ。すごい勢いでこちらに向かっている。
通路から飛び出してきたのは、老人のように背中を丸めた生き物だ。
衣類は身に着けておらず、ヌメリのある緑がかった黒い皮膚で、尖った耳にワシ鼻が特徴的だった。
「ゴブリン!」
「撃て!」
矢を一斉に放つ。
だが、意味はなかった。
なぜなら我らの矢が到達するより先に、一筋の光がゴブリンの胸を貫いたからだ。
あの光は……。
右の通路からやってきて、左の通路へ抜けていった。
神殿で見た光にソックリだった。
胸を射抜かれたゴブリンは、床に崩れ落ちると血だまりを作った。
一撃か。
速度も威力もケタ外れだ。
「二の矢、
光の矢を放った者がいる。呆けているヒマはない。
どんなやつだ?
神殿に出てきた石のゴルゴーンを思い浮かべる。
ならば選ぶべき武器はハンマーか。
そして、接近戦。
ロバの背よりハンマーを引き抜くと、みなをその場に残し十字路手前へ。
見えた瞬間、勝負をかける。
光の矢は撃たせない。
息をひそめて敵を待つ。
足音は聞こえない。聞こえてくるのは空気を震わすわずかな振動音だけ。
動いていない?
いや、気配は確実に近づいてきている。
コンと音がした。
その後、カラカラと転がる音とともに、楕円形の玉が姿を見せる。
玉の大きさは握りこぶし程度。金属でできていて、表面には網目もようが描かれていた。
これはなんだ?
首筋にチリリと悪寒が走った。
マズイ。何かわからぬが危険なものだ。
すぐさま盾をかまえると、後方へ飛んだ。
ドンという腹の底をゆさぶる音。
空気が振動し、鼓膜を叩いた。
かまえた盾には無数の破片が当たる。
爆発したのか?
盾を下ろし確認すると、金属の玉は跡形もなくなっていた。
ただ、地面に黒いススのようなものが残っていた。
チィ。味なマネを。
ほどなくして、奇妙な物体が姿を見せる。
背丈はわたしの1.5倍ほどだろうか、ツルリとした金属製の人型上半身。手の甲には、円筒形の棒がそれぞれ一本つく。
腰から下は昆虫のように折れ曲がった四本足で、先端には車輪がついていた。
コイツは人ではない。ましてや生き物でもない。
神殿にでてきた石のゴルゴーン以上に異質な存在。
その金属の巨人は私に向かって手をかざした。
なんだ? 何をしている。
とっさにもう一度盾を構えた。
その後、ダン、ダン、ダン、ダンと鳴り響く破裂音。
盾に衝撃が加わる。
なにかを飛ばしたのか?
あの筒で。
すさまじい衝撃だった。
並みの盾ではコナゴナに粉砕されていただろう。
『アイギス』。
持ってきて正解だったな。
音が鳴りやんだ瞬間にハンマーを振るった。
命中。
金属の巨人が持つ円筒形の棒をグニャリと曲げた。
これでもう飛ばせまい。
続いて下半身目がけてハンマーを振るう。
狙うは折れ曲がった部分だ。たぶん、あそこが人でいう関節。
メキリと音がして巨人の足が折れた。
たとえ金属でも生き物と構造は同じ。動くために弱い部分は必ずある。
そこを狙う。
側面に回るとさらにもう一振り。二本目の足を折った。
巨人はバランスを崩して傾むくのだった。
「大将! 援護はいるか!?」
「必要ない。それより正面に立つなよ!」
背後に回ると巨人の頭部に一撃。
振り回す巨人の腕をかわすと次は背中。
正面には絶対立たない。
巨人の腹には丸い穴が開いていた。たぶん、光の矢がでる場所だ。
ちょうどゴブリンの胸の高さだからだ。
カンと金属音がした。
足元を見ると楕円形の金属球。さきほど爆発したものだ。勝てぬと悟り自爆覚悟か?
だが、無駄なこと。爆発のタイミングはすでにつかんでいる。
素早く金属球を拾い上げると、巨人の腹へ。
あの開いた穴にほうり込んでやった。
じゃあな。
盾をかまえた瞬間、爆発音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます