第104話 砂漠の旅と不思議な歌

 ラプトルクローラーに荷物をのせ、南西に進むこと二日、ようやく砂漠地帯へとたどり着いた。

 地面を覆う植物はみるみる姿を消し、赤茶けた硬い大地に姿を変えた。

 空気は乾燥し、吹きつける風が砂埃すなぼこりを巻き上げる。

 日差しで目はくらみ、乾燥で喉がヒリつく。

 フェルパによると、このさらに先は砂に覆われた砂塵の砂漠になるんだとか。

 目指す神殿はその真ん中。なかなかに過酷な道のりになりそうだ。


 遠くでこちらを見る四本足の動物がいる。

 ハイエナか?

 我らを獲物かどうか見定めているような印象を受ける。


「来るなら夜だな」

「ああ」


 ハイエナらしき動物はクルリと背を向けていなくなった。

 返り討ちを恐れてか、フェルパの言うように夜まで待つつもりか。

 いずれにせよ、ただのハイエナが脅威になるはずもなく、気にせず進んでいくのだった。



 つぎの日になった。

 夜間、警戒していたハイエナの襲撃はなく、かわりにやってきたのは大きなヘビだった。

 全長は私の背の数倍。頭部を持ち上げた状態ですでに私の身長に並ぶ。

 とはいえ、しょせんただのヘビ。

 火を吐くわけでも魔法を使ってくるでもなし、剣とクロスボウによる連携であっけなく散っていった。


「アニキ、これ食べれんの?」

「う~ん……」


 パックリと裂けた胴体から見えるヘビの身は、きれいなピンク色だった。

 普通のヘビなら毒腺さえ避ければ食べられる。

 だが、こいつはどうだろうか?


 焼いて食ってみたが、身は固かった。

 魔物だからか、調理法に工夫がいるのか、いずれにせよ食料として持っていくほどでもない。

 ハイエナどものエサにでもなればいいかと、ジェムだけとってその場に捨てていくことにした。



 やがて岩盤のように硬かった土は、きめ細かい砂粒へと変化した。

 いよいよ砂塵の砂漠へ突入だ。


 白い砂は太陽光を反射し、これまで以上の暑さを感じる。

 フードや帽子といったものをかぶらなければ、目が焼かれるのは時間の問題だ。


「休憩時には目を冷やせ」


 フードを深くかぶっていたものの、やっぱり目は焼ける。

 タオルを水でうすめた治療薬にひたし、軽くしぼって目の上に乗せる。そういった処置を行いながら進んでいった。


「なにか聞こえる」


 最初に言ったのはフェルパだった。

 彼は立ち止まって音に集中するかのように耳を澄ます。


「え、何の音?」


 みな、同じように耳を澄ますも、聞こえてくるのは吹きすさぶ風の音だけだ。


「歌だ、誰かが歌っている」


 歌?

 ふたたび耳を澄ませども、やっぱり歌は聞こえてこない。


「暑さで耳がやられちゃった?」

「バカ言うな」


 冗談を言う雰囲気でもない。

 フェルパが聞こえているというなら聞こえているのだろう。

 実際に歌が歌われているかは別として。


「どこから聞こえる?」 


 ただ歌を聞いて欲しいなどと考えるほど愚かではない。

 ほんとうに届けたいのは歌ではなく悪意だと警戒しておく必要がある。


「あっちだ」


 フェルパが指さしたのは西側。

 ならば、反対側へ迂回するように進路をとるべきか。


「南だ。ある程度進んでから西へと進もう」


 多少、遠回りになるが、安全を考慮してまた進みだした。



「歌が聞こえる」


 つぎにそう言ったのはシャナだった。

 フェルパに続いてシャナもとは、もはや幻聴でないことは確かだ。


「どんな声だ?」


 このまま放置するわけにもいくまい。

 情報を少しでも集め、対策を考える。


「少女の声だね。ひとり、なにかを口ずさむような感じだよ」


 ふむ。

 声を張り上げて歌う風でもないのか。

 おそらく、ただの歌ではないな。


「なんと歌っているか分かるか?」


 歌詞にメッセイジが込められている、そう考えることもできる。


「わかんないね。メロディーはわかるけど、ボソボソ喋る感じでなんと言っているかまでは聞き取れないね」

「そうか」


 我らの知っている言葉か、ジャンタールの言葉か、それだけでも分かればよかったのだが。


「フェルパ、お前はまだ聞こえているか?」


 フェルパが歌を聞いたあたりからだいぶ離れたが、さて。


「ああ、ずっと聞こえてるぜ。むしろ声は大きくなってる。だが、シャナが言うようになんと言ってるかまるで分からねえ。それにな、耳を塞いでも声は聞こえ続けている」


 なるほど。

 いよいよもって、普通の歌ではないな。


「ねえ、パリト」

「なんだ?」


 問いかけてきたのはリンだ。

 表情から察するに、あまり良い知らせではなかろうな。


「私も歌が聞こえる」


 やはりか。

 歌の正体は分からないが、徐々に広がっていくもののようだ。

 私は耳がいい。聴力の問題ではないのは明らかだ。魔術であろうか?

 しかし、詠唱にしては妙な感じだな。長すぎるし、効果もいまいちハッキリしない。


「あ……」


 今度はアッシュだ。小さく声を発している。


「俺も聞こえた。誰かなんか歌ってる……。けっこう近い感じがするよ。なんと言ってるかわかんないけど」


 アッシュもか。

 それに近い?

 もしや声の主は移動しているのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る