第61話 ゴブリン村を襲撃する
「ゴブリン襲撃に賛成の者」
いったん地下四階へと戻り決を取ることにした。
ゴブリンの数が想定していたより多かったためだ。
集落を落とすかどうかは、この結果で決めようと思う。
「もちろん、賛成だ」
まっさきに手を上げたのがフェルパだ。
これは少し意外だ。反対するならフェルパだと思っていた。
「わたしはどっちでもいい。正直良く分からない。避けた方がいいのか倒した方がいいのか」
リンはどちらでもないか。
まあ、そうだろうな。ゴブリンならまだしも、あのオーガとやらを相手にするのはいささか危険が大きいのも確かだ。
寝込みを襲い、まずオーガを始末するのが当初の作戦だった。ゴブリンの数が多いとそれに失敗する可能性が高くなってしまう。
「俺はアニキに従うよ」
アッシュは私にあわせると言う。
いや、それでは決をとる意味がなくなってしまう。
誰かを信じて命を預けるのは否定しないが、決断そのものは自分自身でせねばならない。
「アッシュ、命がかかってるんだ。そこは他人にゆだねるべきではない」
「ん~、そうは言っても倒すのはアニキだしなあ。けっきょくはアニキの力に頼ることになるんだし、俺が襲撃しよう! とは言いずらいよ」
なるほど。それもそうか。
だが、これも意外だな。アッシュならそんなこと気にせず当たり前のように押しつけてきそうなものなのに。
心境の変化か、それとも成長したのか。
「わかった、ならば聞き方を変えよう。おまえが私ならゴブリンの集落に攻め込むか?」
「俺がアニキだったら? そりゃもちろん、攻め込むよ」
即決だな。
いいだろう。アッシュは賛成と考えてよさそうだ。
「ちょっと、いいか?」
ここでフェルパが割って入ってきた。
表情を見るに、茶化しではない。訴えたい何かがあるようだ。
「なんだ?」
「ゴブリンは危険だ。早めに倒しておいた方がいい」
ふむ、わたしも同意見だな。
不意を突かれるのがもっともマズい。狙う側でいられるうちに決着をつけるべきだ。
だが、ここは乗っからず、もう少し話を聞いてみるとするか。
「危険だとする理由は?」
「ゴブリンがおこなうのは狩りだ。他の魔物とは根本的に異なる」
フェルパの言わんとしていることはなんとなく分かる。
身を守るため、縄張りを守るためなどとはちょっと違う。
生きるため以外の目的での狩りだ。どちらかというと人に近い。
集落で見た骨でできた鳴子。あの骨のなかには人骨らしきものもあった。
狩りをし、他者を滅ぼして、勢力を拡大する。ゴブリンの習性はまさに人そのものと言っていいのだろう。
そんなものを野放しにしていれば、探索などおちおちしてられない。
「そうだな。わたしもフェルパの意見に賛成だ。これで賛成三、保留一でゴブリンの集落を落とすことを決定とする。続いて、攻め方だが……」
こうして、話し合いを進めていった。
そして、攻め込むのは昼過ぎ、寝首を掻くのが基本方針となった。
住居に火を放つ、罠に誘い込むなどは検討したものの、やらないことにした。
火を放てば基地として使えなくなる、この人数で罠をつくるのは時間がかかりすぎるなどが理由だった。
――――――
日が昇った。
地下三階で休息をとった我々は、いよいよ集落を攻めるべく草原を進んでいく。
「アッシュはここで待機。危険を感じたら階段へと戻れ」
昨日と同じ小高い丘でアッシュに待機を命令する。
今回行うのは暗殺。戦力を削るのが目的だ。
暗殺にはアッシュは不向きだ。だから、退路の確保とロバの面倒を見てもらう。
「気をつけて」
「ああ」
留守番のアッシュは少し寂しそうだったが、まあ仕方がない。本人も納得ずみだ。
それにこれで終わりじゃない。いずれどこかで戦闘に参加してもらう場面が来るだろう。
「それにしても、そのヨロイ優秀だな」
わたしとリンのヨロイを指さしてフェルパが言う。
「でしょう?」
リンはなんとも誇らしげだ。
この流体金属のヨロイは周囲の景色を映す特徴がある。
最初、白く輝いて見えたのはジャンタールの壁に反射してそう見えていただけで、こうして草むらに身をひそめれば、流体金属の鎧はその色を映し緑へと変化する。
たしかにリンが誇りたくなるほどの性能だよ。
「欲しくなったか?」
フェルパに問う。
こいつはヨロイを買い替えるのは探索を諦めたみたいでイヤだと言っていたが、本当に諦めていないのであれば、道具にこだわる必要はないはずだ。
「さすがに手がでねえよ。これから儲けたら考えるわ」
まあ、たしかに。このヨロイが買えたのは運がよかっただけだ。
あの鎌があれほどの値段で売れていなければ、今もわたしは武器もヨロイも新調していなかっただろう。
さて、そろそろ集落が近くなってくる。
ここからはお喋りはナシだ。ハンドサインだけで進んでいくとしよう。
ゴブリン村を見つめる。
遠目ではこちらに気がついている様子はない。
住居から出たり入ったりする者もいるが、少数だ。
おおかた寝ていると考えていいだろう。
やがて、集落を囲む木の柵の前まで来た。ここまでいくつかワナを見つけたが、解除できるものは可能な限り解除した。
リンに覚えてもらう意味もある。
彼女は斥候として優秀だが、それは地下四階までの迷宮の話。
設置したワナが消えてしまう場所で、ワナの知識を得られるはずもないのだから。
指で南側を差ししめす。オーガの飼育小屋がある方角だ。
この集落は北側にゴブリンの小屋が密集しており、南側に四つの飼育小屋、それらを楕円形の木の柵が取り囲む形だ。
リンとフェルパが頷くのを確認すると、わたしは素早く柵を乗り越え飼育小屋へと向かう。
リンとフェルパはゴブリンの小屋だ。ここで二手に分かれるのだ。
素早く、それでいて音をたてないように飼育小屋へと近づいた。
枯れ木ひとつ踏まない。このあたり、わたしの得意とするところだ。
やがて、一匹のゴブリンを発見した。
飼育小屋の前で眠そうに立っている。
見張りか。我々に対する見張りではなく、オーガに対する見張りなのだろう。
そういえばオーガは首輪をはめていた。
あれがフェルパの言う隷属の首輪なのかもしれない。だとすると、良からぬ使い方とはまさにこのことなのだろうか。
まあいい。とりあえず、眠たいのなら寝させてやらないとな。
スローイングナイフを抜き出すと、ゴブリン目がけて投擲した。
狙い通り、ナイフはゴブリンの喉を貫く。
素早くかけよると、心臓めがけて槍を一突き。
うめき声ひとつたてさせず、ゴブリンをしとめることに成功した。
息絶えたゴブリンをゆっくりと地面に下ろす。ここで音をたてるわけにはいかない。
オーガだ。少なくともオーガはいましとめねばならない。
飼育小屋は四つ。三つは扉がしっかりと閉まっており、ひとつは扉そのものがない。
そういえば、前回オーガが吹きとばしていたな。
ならば、まずはここからだ。
そっと中をのぞく。
――いた。
私の身長の倍以上の巨体が体を丸め横になっていた。
その体を観察する。
足には赤く変色した布が巻かれている。コイツは前回私が足を切ったヤツだな。
どうやらゴブリンは包帯を巻く知能を持っているようだ。いよいよもって人間に近い。
続いて小屋の中を確かめる。頭上に張られたロープを発見した。
鳴子か。高さから言って侵入者ではなく、こいつを外に出さないための仕掛けなのだろう。
悪いな。
剣を抜くとそっと忍び寄り、オーガの首筋目がけて力いっぱい振り下ろした。
ゴロリと転がるオーガの首。
残された体からは大量の血がふきだす。
それとともにオーガの手足がじたばたと動く。
なんという生命力か。それはドバドバと大量の血があふれる間続き、ビュッ、ビュッと残された血液を搾り出すようになって初めて動きを止めるのだった。
フーと息を吐く。
この音を聞かれていなければいいが。
オーガの死体に背を向けると次の飼育小屋へと向かった。
さきほどとは違い、小屋の扉は閉ざされている。
槍の石突で軽く押す。
どうやら鍵は掛かっておらず、扉は簡単に開いた。
注意深く中を覗く。
いない。オーガはここにはいないようだ。
ぶむ。以前見たオーガは三体。ならば、ほかの飼育小屋か?
順番に見て回る。
だが、それ以上オーガは見つけられず、無人の飼育小屋が並んでいるだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます