第45話 死への誘い
武器を合わせて押し合う。その間にも渦巻く霧はスペクターに吸い込まれていき、徐々にその体を大きくさせていく。
一方それとは対照的に、鎌を持つ青白い腕は細く干乾びていき、やがて骨だけとなった。
とつじょ、大きな力で押された。私はたまらず後方へ飛ばされる。
なんて力だ。これまでとは比べ物にならない。
宙へと投げ出された私は素早く体を捻り地面に着地、再び剣を構えた。
コイツはゆっくりしてられないな。
距離をつめようとする私にスペクターはブンと巨大な鎌を振るう。
それは明らかに届くはずのない間合いだった。
私はとっさに身を屈めた。理にかなわぬ行動であったが、長年の勘がそうさせたのであろう。
ハラリと床に黒いものが落ちた。これは……髪だ。私の髪の毛。
さらにスペクターは鎌を振るった。
私は後方に飛び退く。
カシュン。
紙の束を切ったような音がした。
見ると先程まで立っていた床に一筋の裂け目が出来ていた。
この硬い床を斬ったのか! 何たる切れ味。
連続で鎌を振るうスペクター。私との距離は遠い。巨大な鎌とはいえ絶対に届くハズがない。
しかし、視界のすみに青白い光がうつる。これは刃だ。巨大な鎌の鋭利な刃。
スペクターが鎌を振るうたび鋭利な刃が宙に現れ、私を切り裂こうと舞い踊るのだ。
私は上体を振りながら左右へ飛び回る。
距離の概念を無視する武器か。何とも厄介だな。
ならば懐に飛び込むまで。
両足に力を込めると、スペクター目がけて走り出す。
大きく鎌を振るうスペクター。
私は軌道を見極めると、身をかがめる。鋭利な刃物が頭上を抜けていった。私はさらに踏み込み剣を振るう。
スペクターの首が飛んだ。
フードの中のしゃれこうべは床に落ちるとゴロゴロと転がる。
そして通路の奥へコツンと当たると、その動きを止めた。
まだ終わりではない。
首をなくしたスペクターは、なおも鎌を振るってきたからだ。
だが、先ほどまでの鋭さはない。私は体をひねって横にかわすと、スペクターの腕を片手で掴む。
そして、懐より取り出した銀の短刀を、スペクターの胸に突き立てた。
カシャンと音を立てて床に落ちる巨大な鎌。
同時にスペクターの体は黒い灰となり、フワリと拡散。やがて風に飛ばされて行った。
フン、力と速度は大したものだが、技はお粗末だな。
後はしゃれこうべか。あちらも破壊しておかねば安心できぬ。私はスローイングナイフに手を伸ばす。
「ギャン」
背後で声がした。振り返ると背後よりコボルドが三匹忍び寄ってきており、一匹がリンのショートソードで胸を貫かれていた。
残りの二匹の内の一匹はあの白いコボルド。知らぬ間に後方に回り込んでいたか。
とことん抜け目がない。どこまでも陰湿で狡猾な野郎だ。
「こっちは任せて。そいつにトドメを」
リンの言葉を聞くまでもなく、私は銀のスローイングナイフを床に転がるしゃれこうべに向かって放っていた。
しゃれこうべ目がけて飛んで行くナイフ。そのまま突き刺さるかと思われたが、とつじょ壁から骨の手が現れてしゃれこうべをひょいと掴みあげてしまった。
的をなくしたナイフは、壁に当たってキンと跳ね返る。
チッ、やはり倒していなかったか。
ヌルリと壁から人が現れた。ローブをまとった首なしのスペクター。
そいつは拾ったしゃれこうべをヒョイと頭に乗せる。
ズンと重圧が体にのしかかった。
思わず膝をつきそうになる。
見れば渦巻いていた黒い霧が、すべてスペクターに吸い込まれたところであった。
間に合わなかったか……。
しゃれこうべの眼窩に宿す青い炎が、一際大きく燃えあがる。
スペクターが手を伸ばすと、床に落ちていた巨大な鎌が宙を泳ぎ、その手の中へおさまる。
コイツはとんだバケモノだな。
「死神……」
アッシュが小さく呟いた。
たしかに巨大な鎌をもったローブのガイコツ。おとぎ話の死神そのものだ。
鎌を振るうスペクター。私は大きく右に避ける。
左の肩を鎌の刃が掠めた。革鎧の一部が弾け飛ぶ。
マズイな。こちらの回避を予想して、狙う位置をずらして鎌を振るっているのか。
今までとは違うたくみな技に危機感がつのる。
これでは長くはもたない。一気に片をつける。
再び距離を詰めるべく走り出す。
が、スペクターは横に大きく鎌を振るった。
慌てて停止。目の前を鎌の刃だけが高速で通過する。
クソ、近づけん。
あの切れ味。剣では受けるのは無理であろう。
スペクターの鎌を振るう速度がどんどん増してくる。しかも私の踏み込む先や、逃げた先を狙ってくる。
そのたび、鎌の刃は私の防具を削っていくのだ。
このままでは……。
スパクターの鎌の振り下ろしを狙ってスローイングナイフを投げる。
だが、分かっているとばかりにスペクターはサッと身をひるがえし、ナイフをよけてしまう。
クソッ、動きまで素早い。残りの銀のスローイングナイフは二本のみ。
何とかして懐に飛び込まねば。
その時、しゃれこうべがカタカタと音を鳴らした。
「……………steal………their soul………………」
聞こえてくるのはあの言語。コイツ魔法まで使うのか。
イカン、これはマズイ。
意味を理解することは出来ぬが、私の勘が告げている。絶対にアレは最後まで唱えさせてはいけないと。
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