第63話 襲撃の結果

 なんてことだ。

 丸太による一撃を喰らったリンは空高く舞い上がり、奥の茂みへと消えていった。

 どれほどの衝撃だっただろうか? あれではタダではすむまい。

 即死の二文字が頭をよぎる。


「ゲッゲッゲッ」


 何とも不快な笑い声が響く。

 オーガだ。

 獲物をしとめたと満足げに笑っているのだ。


 クソ!

 なんたる失態。

 魔法でゴブリンを召喚できる。ならばオーガだって召喚できるはずだ。そんな簡単なことすら思いもしなかった。


 ゴブリンは魔法を使わない、そんな思い込みもどこかにあったんだろう。

 ゴブリンが人と似ている。さんざん認識してきたはずなのに。

 人どうよう魔法を使えるものがいて当たり前なのだ。



 醜く笑うオーガは次の獲物を探しはじめる。

 そして、引きつった顔で自身を見上げるフェルパを見て、さらに笑みを深くした。


 させるか!

 剣をたずさえオーガに駆け寄る。

 体が軽い。距離はみるみるうちにせばまっていく。


 だが、オーガの一撃の方が早かった。

 頭上に掲げた丸太をフェルパに向けて振り下ろしたのだ。


 ズウン。

 地面を叩く激しい音。フェルパはとっさに横に転がり身をかわした。

 丸太は草と土を押し潰し、地面に大きなくぼみを作った。


 そこまでだ!!

 オーガの脚に剣を叩きつける。

 ゴリリとニブイ音。ひざから下を切断した。


「グオオオオ!」


 オーガは叫び声をあげると崩れ落ちる。

 手をつき膝をつき、なんとか体を支えようとする。


 手がジャマだ。

 横なぎの剣で腕を切った。

 支えをなくしたオーガは地面に倒れこむ。


 トドメだ!

 オーガの首へと狙いを定める。

 だが、その瞬間背筋に悪寒を感じた。

 すぐさまオーガから距離をとる。

 炎の玉がオーガに着弾、その体を炎でつつんだ。


 チッ、ゴブリンか。

 杖を持ったゴブリンが炎を放ったのだ。

 詠唱は聞こえなかった。どうやらアイツは呪文なしで魔法が使えるらしい。

 そんなやつもいるのか。いや、杖か? あの杖が炎を生み出しているのかもしれない。


 おっと。

 盾を構える。私の首筋を狙った吹き矢をコツンと跳ね返す。

 毒矢か。芸がないな。

 距離をつめると剣で心臓を突く。吹き矢をポロリと落としたゴブリンは地面に倒れた。


 残る敵は何匹だ?

 見回すと杖を持ったゴブリンが一、吹き矢を持ったゴブリンが三、ヤリを持ったゴブリンが六、そして何も持っていないゴブリンが一だ。


 あの武器を持っていないゴブリンがオーガを召喚したやつか。

 また良からぬことを企まれる前に命を刈りとってやる。


「ギッ!」


 私の視線を受けたゴブリンは背中を見せて逃げようとする。

 キサマは絶対に逃がさん!!

 猛然と駆けると、その首をはねた。

 首をなくしたゴブリンは崩れ落ち、膝をつく。噴水のように血が吹き上がった。


 もう魔法をとなえるのはムリだな。あの世でオーガと遊んでろ。

 トンと背中を蹴ると、ゴブリンは力なく倒れた。


 次は誰だ?

 ほかのゴブリンに切りかかっていく。

 やっかいなオーガはもういない。魔法と杖に気をつけつつ殲滅していく。

 おっと、対峙するゴブリンの胸から剣先が生えてきた。

 フェルパだ。

 私に視線が集まっているスキにゴブリンの背後へ回ったのだろう。

 スキだらけの背中から一突き。すぐさま別のゴブリンにさらに一撃とレイピアをふるっている。

 なかなか抜け目がないな。

 だが、それだけに頼もしくもある。


 チラリとフェルパに視線を送ると、二人同時に駆けだした。

 次に狙うは杖を持ったゴブリンだ。左右に展開してマトをしぼらせない。


 火球がこちらに迫ってきた。

 どうやら、二択であたりを引いたようだ。この手のクジにはいつもあたる。

 とはいえ、炎にまで当たるわけにはいかない。

 大きくかわすと再びゴブリンを狙う。


 ゴボリ。

 杖を持ったゴブリンは血を吐いて倒れた。

 フェルパだ。私を狙ったゴブリンは、そのスキをつかれ、フェルパに命を奪われたのだ。


 のこすゴブリンはあと少し。

 じきに片がつく。

 リンが心配だ。なんとか生きていてくれればいいが……。




――――――




「お嬢ちゃんの様子はどうだ?」


 ゴブリンを殲滅したのち、リンに駆け寄った。

 幸い死には至らず、ただ意識が混濁しているようだった。

 いまはゴブリンの小屋で眠らせているところである。


「まだ寝たままだ。相当強い衝撃だったからな」

「そうか……」


 フェルパは軽くつぶやくと、小屋から出ていった。

 ヨロイを脱がせたリンは下着姿だ。多少なりとも気を利かせたのかもしれない。


 それにしても、ヨロイを買い替えて助かったな。

 以前のだったら確実にオダブツだった。

 

 今回は私の落ち度だ。

 先を急ぐあまり情報収集をおこたった。

 もう少し時間をかけて調査していれば、オーガの不自然さに気づいていたかもしれない。

 敵の数を把握せぬまま戦うほど愚かなことはない。


 そして、私が倒したオーガだが、調べてみたら歯がなかった。

 奥歯がまるまる消えていたのだ。


 たぶん、ゴブリンに抜かれたのだろう。

 おそらく、オーガを召喚するための触媒が奥歯なのだ。


 ごうが深いな。

 まあ、わたしがとやかく言えたものではない。ゴブリンの歯を求めてここへと来たのだから。


 ゴブリンの集落をまわって回収したゴブリンの歯は22本。

 発達した犬歯を折り取った形だ。

 ここでは、死体がきっちり残る。自分で処理しなくてはならない。

 ジェムもそうだ。

 ゴブリンの体を切り裂き、体内からジェムを入手する必要がある。

 フェルパによると、たいてい心臓付近にジェムがあるそうだ。今後はそのつど解体していくことになる。


 そして、死体の処理だ。

 この集落を使うつもりなら穴を掘って埋めなければならない。

 腐敗すれば病の原因となる。獣がいれば匂いを嗅ぎつけてくる。放置してもロクなことはない。

 頭の痛い問題だな。ゴブリンはまだしもオーガの巨体などそう簡単に埋められないだろう。 

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