第84話 シャナが廃坑にいた理由

「ありがとう。助かったわ」


 シャナは治療を終え、元気な姿を見せた。

 意識は混濁していたようだが、わたしに抱きかかえられたことはしっかり覚えていた。感謝するとともにほっとした表情を見せていた。


「元気になったようでなによりだ。シャナ、あれからどうなった? なぜ、廃坑なんかにいた?」


 このへんの話はしっかり聞いておきたい。

 なにがどうなって廃坑で囚われることになったのかを。


「それが……あなたと別れた後、地下迷宮にもぐったの。ムーンクリスタルは地下にあるって話を聞いて」

「ふむ」


 まずはそうなるだろうな。

 ムーンクリスタルは地下迷宮にある。街で聞いても、みなそう答えるだろう。

 ジャンタールの住人の多くが、ムーンクリスタルを見つけるため、あるいは日々の糧を得るため迷宮に潜る。


「でも、散々だったわ。地下二階におりるどころか仲間が二人死んだ」


 地下一階で二人死んだか。多いとも言えるし、少ないとも言える。

 なにせ、ここに出てくるようなバケモノなど、これまで見たことがないんだ。力では勝っていたとしても、勝てるとは限らない。どうしても戸惑いがでてしまうからな。


「そうか、死んだ者は残念だったな」

「ええ、でもそれで諦めたりはしなかった。仲間を増やすべきかどうかって、街で話し合った」


 まあ、そうだろうな。シャナはムーンクリスタルにかける意気込みが強かった。

 二人死んだところで止まるハズもない。

 それで死んだ人間の補充、あるいはさらなる戦力増強を試みたか。

 数は力だからな。数さえそろっていればなんとかなる場面も多い。


「それから?」

「ちょうどそのとき、案内役を買って出る者がいたの。自分は迷宮には詳しいからって」


 なるほど。数を増やす以外にも、先に進む方法はある。

 この話のように案内役を得ることだ。道順や敵の特徴、知ればかなり有利に進むだろう。


「それで雇ったのか?」

「ええ、でもそれは失敗だった」


 そうだな。

 案内役は便利だが、弊害もある。進みすぎてしまうことだ。

 無駄な探索をする必要がないため、奥へ奥へと行ってしまう。結果として実力以上のところまで来たわけか。


「焦りすぎたか?」

「いえ、そうじゃないの」


「そうじゃない? どういうことだ?」

「裏切られたの」


「裏切られた? 案内役にか?」

「ええ、そう。あいつは戦いも上手く、道もよく知ってた。戦いを避ける方法もね。で、行きついたのがあの廃坑。あの先がムーンクリスタルにつながってるって」


 そうか、そいつが案内役を買って出たのは不慣れなものを誘い込むためか。

 街で声をかけ、全滅したら荷物をうばう。

 わたしは迷宮で襲われたが、さらに上をいくおこないだな。

 

 だが、それにしては進みすぎではないか?

 全滅させるなら地下五階まで待つ必要もない。もっと早く仕掛けてもいいはずだ。

 なにせ裏切った後は一人で帰らねばならない。進めば進むほど、帰る危険も高くなる。


「それで、装備やら物資やらを奪われたのか?」

「いえ、ちがうの。奪われたのは仲間よ」


 仲間?

 ――まさか!!


「あいつは私の知らない間に、皆にいろいろ吹き込んでたみたいなの。そして、あの廃坑で裏切られた」


 なんと!

 狙っていたのは持ち物ではなく人か。

 相当の危険人物だな。

 そうやって、自分の思い通りになる人材を集めているのか。


「そいつの名は?」


 さすがに捨ては置けない人物だ。

 名前だけでも知っておく必要がある。


「セオドアよ」


 セオドア!!

 あいつか! 私のロバを奪おうとしたあの男!!




――――――



 シャナの口から出た名前はセオドアだった。

 危険人物だとは思っていたが、まさかそこまでとは。

 

「セオドアね。あいつならやりそうだわ」

「ああ……ウソまみれのクソッタレな男だ」


 リンとフェルパも知っているようだ。

 なかなかの人気者だな。悪い意味で。


「アニキ、前に俺が言っていた顔役がソイツだよ。ソイツが来てから酒場の雰囲気がおかしくなったんだ」


 そうか。たしかに以前アッシュが言っていたな。新しい顔役に変わってからおかしくなったと。

 なるほど、やはりセオドアも外から来た人物で、あれやこれやとチョッカイをかけまわっているのか。


 自分の居心地がよくなるように変えているのか、それともべつの意図があるのか。

 少なくともここから出られるよう、あがいているとは思えんな。


 そろそろ排除すべきかもしれない。

 アシューテの探索を優先して放置していたが、これほどまでに影響してるとなると話は別だ。

 思いもよらぬところで足をすくわれる前に……。


「セオドアの居場所に心当たりは?」


 みなにたずねた。


「知ってる」

「私も」

「俺もだ」


 なるほど、探し回らずともよさそうだ。

 ちょうど目的の施設までたどりつけた。

 ここらで、いったん帰るべきだろう。

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