第36話  予定変更はつきもの(ただし個人旅行に限る) その3

 ホテルを出て歩くこと15分。


 俺たちは膳所駅に到着した。

 決して大きくない、シンプルな駅である。


 ICカードで改札を通り、ホームへと階段を下っていく。

 降りていったところで、ホーム上では謎のメロディが流れていた。


「なんか音楽が流れてる?」

「ああ、多分電車が来るか通過するんだよ」

「そうなの?こっちって短い音楽が繰り返し流され――」


 ちとせが喋っていると、警笛を鳴らしながら、凄まじい速度で電車が通過していく。

 ものすごく早いスピードで通過するせいで起こった風に巻き上げられ、ちとせのサラサラロングヘアが一瞬でぐしゃぐしゃになる。


「やばいやばい、髪がぐっちゃぐちゃになっちゃったじゃん……」


 慌てて髪を直すちとせ。

 その横で目をまん丸くした武弥がつぶやく。


「あれが伝説の化け物か……」


 そう、武弥の言う通りである。

 さっき俺たちのホームを超高速で通過していったのが、西日本が誇る新快速である。

 そのスピードたるや、時速130kmをキープするという恐ろしいもの。

 たとえ柵も何もない、人で溢れてるホームだとしてもそのスピードは決して緩まない。


 その直後、俺たちの乗る列車が入線してくる。

 全身真緑の普通列車だ。


 混雑する車内には、なんとなく古さが漂う。

 それもそのはず、この車両が製造されたのはなんと40年近く前である。

 しかし、たくさんの乗客を乗せてもなお老朽化を全く感じさせない力強い走行を見せ。

 予定通りに京都駅に到着した。


 朝ラッシュ時間帯ということもあり、車内も駅の中も人でごった返している。


 その中を縫うようにして改札の外に出て、一息つく。


「いや〜、意外と混んでたね〜」

「でもさ、今って朝ラッシュのピーク時間帯だよね?」

「そうだね、しかも今日は普通の平日だもんね〜」

「と考えると、朝ラッシュの割には随分と空いてるんじゃない?」


 ちとせがその考えに至った。

 しかし、若干その考え方は違うので、思わず口を出す。


「ちとせ、こっちが空いてるんじゃないの」

「そうなの?」

「そうだよ。東京が頭おかしいの。あれじゃ人間の缶詰だもん」


 某東西線とかを見てみれば良い。

 恐ろしい混雑率である。

 その車内には限界まで人を詰め込むのだから、もう中は缶詰と言ってもいいのではないかというくらいまで混む。


「そっかぁ、東京がおかしいのか……」

「……政信、まさかとは思うが冗談だよな?」

「武弥、現実逃避は見苦しいぞ」

「……彩希、俺たち大学こっちにしない?」

「……それありかもね、タケくん」


 いや、そんな決め方ありなのか?

 大学選びの基準に疑問を感じるが、まあ選び方は人それぞれである。


 むやみに口出しするものでもないな、と思い、心のなかにしまい込む。


「よし、バス乗り場行こうか」

「バスで一本だっけ?」

「そうだよ。バスで一本のところにあるんだ」


 かなりの本数があるバスに乗車し、あるバス停で降りる。


 降りればそこは、目的地につながる坂の目の前だ。

 その坂は、清水坂である。

 そう、俺たちの最初の目的地は。


 「〇〇の舞台から飛び降りる」ということわざとしても使われる有名な場所。






 清水寺である。








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次回の投稿予定……9月15日(金)18:00頃

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