第23話 第1修羅場 その2

 後ろで黒い炎を上げるちとせ。

 じぃっとこちらを睨んだあと。


「……あきちゃん?」

「ちとせ?」

「……政信、さっきあの子は知らないって言ったよね?」

「知らない子だと思ったんだけど――」

「なのに今は『あきちゃん』呼び?何、まさか二股でもかけてる――」

「そんなことはしてない!昔の友人だよ!」


 大変まずい発想に至ってしまったので、慌てて訂正する。

 しかし、あまり効果はなかった。


「ふーん、あくまでただの昔の友人っていうんだ、そうなんだ」

「あくまでじゃなくてほんとうにただの友人だから!」


 そこまで言い切ったところで、こんどはあきちゃんが。


「そんな……。私とは遊びだったの?」

「そういうわけじゃなくて……って違うでしょ!そういう関係じゃなかったでしょ、俺たち!話をややこしくしようとしな――」

「やっぱり政信も浮気してたのね……?」

「ほらぁ!話がややこしくなっちゃったじゃんか!」

「てへっ」

「てへじゃねぇよ!」


 なぜかはわからないが、先程からどうもちとせを挑発しているようにしか見ないあきちゃん。


 そして、その挑発を真に受けてメラメラと嫉妬の炎を燃やすちとせ。


 そんな二人に挟まれた俺は、今後訪れるであろう状況を想像し、胃をキリキリと痛めていた。






ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 修学旅行で訪れたホテル。

 夕食前に売店での購入を認められ、混雑する前にお土産の購入を済ませてしまおうと下まで一足先に降りてきた私の前に、一組のカップルがいた。

 その仲の良さは凄く、制服を着ていなければ夫婦と間違ってしまいそうになるほどだ。

 明希は盗み聞きをするつもりはサラサラなかった。

 が、他に誰もおらず、店内にも小さなBGMが流れているだけとあれば、よほど声を落とさない限り丸聞こえである。

 そして、二人の会話をなんとなく聞いていた明希は、二人の呼び合う名前に驚く。


 昔仲の良かった「まーくん」こと政信と、その幼馴染のちとせさんだったからである。


 明希にとって、まーくんは初恋の相手である。

 実を言えば、別れるときに告白しようとまで思っていた。

 けれど。



 関係が壊れた状態で別れるのは嫌だったし怖い。

 その気持ちが邪魔をして、結局告白ができなかった。


 その後、明希は今度会ったときこそ告白すると決心し、以後独身を貫いてきた。

 それから早8年が経過し、ようやく会えたときには、政信はすでに別の子と付き合っていた。


 その事実は明希を苦しめ……なかった。


「別にこっちのものにしちゃえばいいもんね……!」


 こうして明希は、ちとせに女の戦いを挑みに行くのだった。

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