第22話 第1修羅場 その1
俺に飛びついてきた(抱きついてきた)少女は、ちとせの視線を感じると瞬時に後ろへ一歩飛ぶ。
そのままちとせに対して挑発するような笑みを浮かべる少女。
一方のちとせは頭にきたのか、殺意を半分ほど開放する。
それを感じ取った少女は表情を厳しいものにした。
日暮れ時の、人がいない高級ホテルの売店前で静かに睨み合う女子2人。
そしてその間にいる俺。
どこの誰が見てもこれは修羅場だと考えるだろう。
とはいえ、突然俺に飛びついてきた少女が誰なのか、俺は知らない。
向こうは知っているようだが、一方的に知られているだけである、たぶん。
しかしちとせはそれを知り得ないわけで、現に今も、俺に向けての殺意も多少放たれていることを自覚する。
とにかくまずはこの少女との関係性を明らかにするべく。
「こんな空気の中、非常に申し訳ないんだが、ちょっといいか?」
「いいよ?」
「…手短にね、政信」
「了解。じゃあ聞くけど、あなたどちら様?以前会ったことありました?」
「…忘れちゃった、の?」
俺の質問に対し、愕然とした表情を見せる少女。
一方のちとせはその殺意を和らげると同時に、少し驚いた表情を見せる。
「え、じゃあ、政信はこの子のこと知らないの?」
「知らないどころか多分顔合わせるの初めてぐらいの勢いだよ」
「……そんな、嘘でしょ?……」
そしてまた愕然としている1人。
その少女が、しばらく黙っていたあと。
「……高砂」
「え?」
「高砂明希。覚えてない?」
「高砂明希、ね……」
しばらく考えてみるも、思い当たる節がない、と思ったその時。
『あきちゃん、もう行っちゃうの?』
『うん……、でもまたきっと会えるよ』
『うん、またいつか会えるよね』
ふと、小学生の時の記憶が蘇る。
あのとき、仲の良かった「あきちゃん」が引っ越すことになっていたのだ。
そして、この少女には「あきちゃん」の面影が、ない、わけでもなさそうなので。
イチかバチかの賭けに出てみることにする。
「……あきちゃん?」
あまり大きくない声で、しかも戸惑い気味に聞いたわけだが。
次の瞬間にはその目に涙を浮かべ、しかしその場に留まった状態で口を開く。
「そうだよ!……ただいま、政信くん」
「……おかえり、あきちゃん」
久しぶりの再会に、しみじみとした空気を流す俺たち。
と、後ろから今までとは比べ物にならないほどの凄まじい殺意を感じ、振り向くと。
そこには。
瞳に激しい嫉妬と憎悪を浮かべた、ちとせの姿があった。
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