第21話 超高層ホテルと恋敵 その4

 ホテルの売店は、エレベーターで降りた、その目の前にあった。

 こじんまりとしていて、中には土産物を中心に並んでいるものの、USBケーブルなどと言った必需品も並ぶ。

 さながら土産物屋とコンビニが融合したような感じである。

 夕食前の購入は認められないが(見張りの先生がいる)、物色するぶんには問題ないとの話だったので、中に入る。


「お、近江牛カレーだって」

「近江牛、ね……。京都に泊まってる感じだけど言われてみればここ大津だもんね」

「琵琶湖畔だしね……。あ、ひこにゃんグッズだ!」

「ほんとだ。このぬいぐるみでも買う?」

「どうやって持って帰るのよ」

「明日とか明後日にどうせ結構お土産買うだろうし、広島のホテルから発送しちゃっていいんじゃないか?たぶんうちの両親がいるだろうし、千春もいるだろ」

「ちー姉か……、なんか買っておきたいよね」

「そう言えばそうだね……」


 千春は俺たちの中では悪者だったが、邦彦による洗脳という衝撃の事実、そして何より本人が滅茶苦茶反省していることからある程度許している。


 とはいえ、婚約者がいる状態で浮気したことは事実であり、完全には許していない。

 今後の態度次第である。


 一応許したことにして、動きを監視してはいる。

 スマホのGPSを常に受信しているから、変な動きがあればわかるし、SNSでのトーク内容は基本的にお義母様を通じて筒抜けである。


 最も、今のところ特に目立った行動はなく、洗脳される前の千春に戻った感じであるし、なんだかんだ言って完全に許しているようなもの。

 ちとせとの仲はものすごく良くなっており、結構くっついていることもある。


 だから、もう浮気とかそういう面倒事には巻き込まれないはずである。

 産まれる子供の問題もほぼ解決しているし、なんかうちの両親も義父母も姉妹両方娶ってしまえという雰囲気であるから、倫理的な面はともかくとして、なんだかんだ上手く行っていた。


 と、そこまで回想したところで。


「あれ?政信じゃない?」


 突如として声がかかる。

 振り向いた目線の先にいたのは、首都圏にある超有名女子校の制服に身を包んだ1人の少女。

 俺と目が合うと、少しじっと見つめたあと。


「やっぱり政信だ!何年ぶりだろ、小学校以来だから……、6年ぶりくらいだね!」


 と言って駆け寄ってくる。


 同時に後ろから氷点下の視線と殺意を感じ振り向くと。


「私の政信なのに……。この女、政信をたぶらかすつもり?……政信は政信で拒絶しないし、どうしてくれようかしら」


 ちとせからは、明らかな嫉妬と怒りがダダ漏れになっていた。

 そして同時に俺は悟った。


 いままでのようやく平穏になった日常は、ここで終わりを告げ、修羅場に突入したのだと。






ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 新学期の忙しさも一段落しましたので、連載を再開します。

 今まで通り、この作品は月曜と木曜の更新です。



 これまでは浮気とかそういうやつでしたが、ここからは政信の取り合いになります。

 というわけで次からいよいよ修羅場です。

 今回出てきた少女はいったい何者なのか?


 乞うご期待!

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