第48話 千春の罠と救いの手 その2

 リビングルームに降りていく母。 

 そのすぐ後ろから降りてくる千春。


 千春を席につくよう促し、座ったところで説明を始める。


「千春が邦彦くんに催眠をかけられていたってのは本当みたいよ」

「そう、なの?」

「うん。さっき政信くんのお母さんからメールが届いてね、どんな催眠をかけたのかとか全部聞き出してくれたらしいの」


 政信の両親。

 この二人がタッグを組めば、怖いものはなかった。

 圧倒的な量の客観的証拠、多少の屁理屈では一切通じず、全く持って有無を言わさない、その舌鋒鋭い攻撃。

 超ずる賢い金持ちのボンボンですら勝てなかったのだから、その実力は折り紙付きである。

 そんなものを、ただ他の子よりはずる賢いとはいえ高校生に向けて本気でやったらどうなるか。

 当然、すべての情報を聞き出してきたのである。


「千春なんだけど、あなたは政信のことを好きという思いが強すぎたらしいの。それで邦彦くんはね、――」


 邦彦が語った内容はこうだという。

 

 政信の彼氏であり婚約者の千春をどうにかして自分のものにしたかったものの、あまりに政信を想う気持ちが強く、どんなに強力な催眠をかけたとしても効かない可能性があったという。

 そこで彼は、政信のことも好きだけれども、邦彦の方がもっと好きであるという催眠をかけた。

 そして、千春の性格を変えることで政信を攻撃し、政信への嫌悪感を覚えさせ、自分にぞっこんな状態を作ろうとした。

 上手く行ったものの、デートを見せつけられるなどして状況は一変。

 だんだん催眠にほころびができ始め、千春は性格は治らないまま、政信が好きな気持ちだけが変な暴走を始めていたという。

 そしてこの間顔を合わせたときに邦彦を洗脳し、催眠術を解かせた上で催眠術が使用できなくなることに成功。

 ちょっとずつその影響が出始め、今に至るという。


「じゃあ私は、邦彦くんにかけられた催眠のせいで政信にあんな態度を取って、こんなふうになったってこと?」

「そういうこと。……千春、あなたはどうしたい?」


 千春はその質問に、少し考えてから答えた。



「本音は、政信とよりを戻したい。だけど……」

「だけど?」

「こんなことしてるのに、無理だよね……」

「分からないわよ」

「え?」

「事実も含めて、ちゃんと政信くんとちとせに伝えた?自分の反省とか、ちゃんと伝わってる?やってないでしょ?ほら、一度伝えに行くよ」


 そう言うと千春の手を取り。

 政信の家に突撃していく高山家母であった。

 

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