第49話 千春の罠と救いの手 その3


 ピンポーン。

 

 リビングで俺とちとせがくつろいでいると、インターホンがなった。

 モニターには、お義母さんの姿が映し出されており、俺は慌ててドアを開ける。


 するとそこには。


「千春?なぜお前がここに?」


 千春が一緒に来ていたのだった。





 歓迎されない相手ではあったが、かと言ってお義母さんと一緒に来ている以上追い返すわけにもいかず。

 さらに千春の顔に違和感を感じた俺は、リビングに二人を通した。


 俺とちとせが並んで座り、その向かいに千春とお義母さんが座る。

 残員が席についたところで、一番最初に口を開いたのはお義母さんだった。


「政信くん、急に来てしまってごめんなさいね」

「いいですよ。それよりもどうしたんですか?」

「ちょっと重要な話があって。千春のことなんだけど、お時間とらせてもらってもいい?」

「それは別に問題ないですけど……。少し待っててもらえますか?」

「いいわよ」


 違和感の正体がなんとなく予測できた俺は、ある小さな部屋へ向かった。

 そこには、アルバムたちが大切に保管されている。


「やっぱりそうだったか……」


 お目当てのものを見つけ、予測どおりだったことを確認すると、それを持って戻る。


「すみませんお待たせして」

「こちらこそ急に訪問してごめんなさい。それで話なんだけどね、――」


 そうして語られたのは、誰もが想像できないものだった。

 千春が邦彦に催眠されていた、などというあまりにも現実離れした内容をどうして信じることができようか。

 いくら本人から謝罪されたとはいえ、到底信じられることではない。


 しかし俺は、さっき見つけたモノのおかげでそれを信じることができていた。


「そういうことでしたか。催眠されていたという事実は、信じます」

「信じてくれるの?」

「はい。こちらの2つを見てください」


 そう言ってみせたのは、高校入学時と、今年の進級時の写真。


「これのどこが?」

「千春の瞳の色です。催眠をかけられる前のこっちの写真は、今と同じ焦げ茶色です。ですが、催眠されていたであろうこちらの写真では――」

「碧眼、なのね」

「そうなんです。今日感じた違和感の原因もそこにありました。おそらく催眠が解けたことで碧眼ではなくなったのだと考えられます」

「そう。では許しては――」

「それとこれとは話が別です。いくら催眠にかけられていたとはいえ、浮気と同じ行為をしていたこと、それから千春が邦彦との間に子を成したことは曲げることのできない事実です。今後の行動次第で許すかもしれないですが」


 そこまで言ったところで、ちとせから待ったがはいった。


「お姉ちゃん、私は、お姉ちゃんを信じたい。今の態度を見る限り、お姉ちゃんに演技している可能性はなかった。けれど、私は政信の婚約者だし、日本の制度上重婚はできない。だから、交際やアプローチは認めないけど、許してはあげる。そのかわり、もしちょっとでも反省してないと思わせるような言動を取った場合には許さないから。政信も、仮でいいから許してあげよう?流石に可愛そうだよ」


 ちとせの提案に、しばし考えて答えようとしたその時。


「ちとせ、もしあなた達さえいいのなら、あなた達3人で家族として生活していくことを許可するわよ?もちろん、対外的な奥さんにはちとせがなるという条件付きだけど」

「そう、ですか。……千春」

「まさのぶ?」

「俺はお前を信じてやろう。その代わり、ちょっとでも怪しいことを知ったら即縁を切るから。これだけはしっかり覚えておけよ?」


 感極まって泣き出す千春。

 十中八九本当のことだろうし、実際反省している様子が伝わってきたのもあった。

 正直言ってちとせも政信も許すつもりは最初はなかったが、許すくらいはいいだろうと判断した。

 それにちとせは、同じ想い人を持つ人と同時に愛してもらうことに強い願望を抱いており。

 ちとせからすればウィン・ウィンなのである。


 いずれにせよ、まだ完全には信じきれてないこと、トラウマが消え去ったわけではないこと、それに千春のお腹の中の赤ちゃんの問題もあることからよりを戻すというのはなしになったが。


 将来的に政信は姉妹丼を堪能することになりそうになっていくのであった。


 そして同時に、本当に碌でもない邦彦への怒りを募らせていく政信とちとせであった。





―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 いくつか想像などをいただいたので解説。


 千春ですが、よりを戻すことは叶っていません。どんな事情であれ、許されない行為をしたというのは事実だからです。ただ、ちとせは千春とふたり揃って政信に愛されるというのを想像し、結構熱望しています。確かに政信と先に交際されたことに怒りもありましたが、千春本人は防ぎようがなかったこともきちんと理解しているせいか、すっかり怒りを忘れています。


 将来的にどのような形で千春と関わっていくのかまで伝えることはできませんが、概ねいい方向に(?)向かう方針です。


 それから子供の問題ですが、ここはもう少し後で、今後の関係含め話し合いを行う予定です。

 それから邦彦をフルボッコにする時が来る可能性が高いです(邦彦が千春みたいに実はいい子だったとかはありえないです。どちらかというと、どうしようもないクズだったという方が可能性としては高いです)。



 予告からだいぶ時間が経ちましたが、明日からは政信・ちとせが修学旅行に行きます。

 新たな敵とは?

 政信・ちとせは果たしてどうなるのか?


 乞うご期待!


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<補足>


『催眠で操られてた千春を許すとか罪があるとか主人公とちとせが酷すぎだ』

『自分の意思がない寝てる様な状態でレイプされ妊娠した自分の彼女や姉を上から目線で許してやるや罪があるなど言い放つのは人間性を疑う』


といったご意見を頂いたので補足します。


確かに、人間性を疑うような言動になっていると解釈できてしまいますが、

これは、まだ詳しく書いていない事情があります。


あまり細かく書くとネタバラシになってしまいますので簡素にお伝えしますと、


現状政信およびちとせが知っている情報は以下の通りになります。


・千春は催眠をかけられていた。

・その内容は、千春が政信を好きではあるが、邦彦のほうがもっと好きであるということ


これだけです。


政信たちが現状知っているこれらの情報から推測すると、千春は「政信を振って邦彦にアプローチする」か「浮気する」という選択があったという話になります。

実際にはそのような選択ができないほどに操られていたわけですが、まだそこまでは知らされていません。


なので、「自分の意思がない寝てる様な状態でレイプされ妊娠した自分の彼女や姉を上から目線で許してやるや罪があるなど言い放」っているのではなく、「自分の意志でもって浮気という選択をし、挙げ句妊娠してきた上に托卵を企んだ元カノ(または姉)に対し、(上から目線で)許してやるや罪があるなど言い放」ったわけであります。


「自分の意思がない寝てる様な状態でレイプされ妊娠した」のならばこの行為は上から目線で人間性を疑うような言動になっていますが、彼らが現状知っているのは「自分の意志でもって浮気という選択をし、挙げ句妊娠した上に托卵を企んだ」という状態であり、故にこのような言動になってしまったのです(さすがに後者の状態であれば上から目線になってしまうのも致し方ないのではないのでしょうか)。


誤解を招くストーリーになってしまい申し訳ありません。

修学旅行編終了後に詳しく取り上げる(催眠の詳しい状態を知るなど)予定ですので、お待ちいただければと思います。

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