第25話 ちとせと政信 その1
それから十数分後。
夕食のため下へ降りてきた彩希と武弥は、異様な雰囲気に驚きを隠せないでいた。
先に売店を見てくる、と言っていつもどおりお砂糖を大量にばらまきながら降りていったちとせと政信。
それからわずか数十分しか経っていないのにも関わらず、現在その二人の間には謎に冷たい空気が漂っていた。
いつもなら政信と喋っているはずのちとせが黙っているのを見かねた彩希は、恐る恐る
「あの〜、ちとせちゃん?」
「何?」
「喧嘩、したの?」
「いや、そういうんじゃないよ?」
「そうなの?でもいつもと2人の間に流れる空気とかが違うと思うんだけど……」
少し核心に切り込んだ瞬間。
「そ、そんなことないよ!?」
「あ、ああ。別にそんな喧嘩とかはしてないぞ!?」
ものすごく慌てた様子でしらばっくれるちとせと政信。
しかし、長年一緒に学校生活を送ってきた彩希や武弥からすれば、そんなの一瞬で嘘だということは見抜けていた。
だから。
「そう。ならいいんだけど。……でもどこからどう見ても仲違いしているようにしか見えないから気をつけてね。じゃあ先にタケくんと席取ってるから」
とだけ言って、彩希はその話を終わりにした。
そしてそのまま武弥と2人、席に歩いていく。
4人がけの座席を確保して、座ってすぐ。
「あのさ、タケくん」
「政信たちのことか?」
「そう。……絶対なんかあったよね?」
「あったな。政信のあれは……、なんか反省することがあったようだな。だが困惑してる様子もあったな」
「ちとせちゃんのあれは……。多分嫉妬だと思う」
「嫉妬?」
「うん。それこそあれじゃないかな、他の女の子に言い寄られたりみたいなことしたんじゃないかな」
「そうか。……それならば説明がつくな。政信はお付き合いしている人とか友人はとことん大事にするやつだからな。それでちとせさんに嫌な思いをさせたと思っている可能性は高い」
「ちとせちゃんってああ見えて独占欲すごいからね……。たぶんヤンデレの才能あると思う」
「そんなにあるのか?」
「あるよ。こないだも『ほんとうはクラスメイトの女子と喋っている姿を見るのも嫌だけどなんとか我慢する』とか言ってたし」
「ははは……。間違っても嫉妬心を煽ったりしたら死ぬな、これ」
「そのとおり、だね。……一応夜は気をつけておこ?避難できるように」
「避難?」
「うん。ちとせちゃんのことだから……。嫉妬心を抑えきれなくって狼さんになる可能性が高いよ」
顔が引きつる武弥と彩希。
彩希は知っていた。
ちとせはこの修学旅行で、襲うつもりであることを。
二人部屋になるときに、全力を持って襲うつもりであることを準備段階のガールズトークで知っていた。
そんな彼女は嫉妬心を抑えきれなかった場合、どうなるか。
それを想像するのはいとも容易い。
もし本当にそれが起こってしまったら。
どうにかして2人と離れなくてはならないだろう。
そして、そんな手段はただの1つもない。
武弥と彩希は、どうにかして2人が大人の階段を登るのを阻止する方法を考えるのだった。
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