第35話 ちとせの復讐 その3
ちとせがここまで暴走するのには理由があった。
今思えばの話だが、付き合っていたころ、そこまで一緒にいる時間はなかった。
そりゃそうだ、もう最初から浮気していたのだから。
うすうす感づいてはいたが、自分の誇大妄想だろうと思うようにしていた。
だから、事実を知らされたときは本当にショックだった。
信じていた人に裏切られていたことへの恨み。
そして何より感じたのは、姉に初恋相手を譲ったことの悔しさだった。
もしそうそうに見抜けていたなら、自分は恋心を隠す必要もなかったし、抑え込む必要もなく、最初から一緒にいられたのだ。
そう思うと、ちとせの悔しさは次第に膨れ上がっていき、ついには邦彦への恨みに上乗せする形で、それは千春と邦彦への恨みに変わっていったのだった。
ながらくそれを千春にしかぶつけることができなかった上、その千春は身重の状態。
むやみに攻撃して、力加減に失敗しては元も子もないということで、それを全てぶつけることはできなかった。
しかし今回は邦彦がいる。
これまで溜め込んできた邦彦への恨みという恨みをぶつけていいまたとない機会。
それを理解したせいで、次々と邦彦への怒りが湧いてきてしまっていたのだった。
さらにそこに苛立たせる言動を取り続ける邦彦たち。
もはや火に油どころかガソリンを注ぐようなその行為に、ついにタガが外れてしまったのだった。
「で、私達に同じ目に合わせたいってどういうこと?」
「確かに悪いことをしたかもしれないけれど、だからといってあそこまでやられる筋合いは無いと思ったからです」
「意味わかんない。あんた達のせいでこっちは精神面で深い傷を追ってるの。とくに政信は顕著だった。それがこの間の入院騒動に繋がった。人の心傷つけた挙げ句に病院送りにしておきながらそこまで悪いことはしてないって何?いい加減自覚しなさいよ。あんたは人殺しをしかけたんだよ!」
苛立ちは声に殺意を乗せる。
殺意がたっぷりと乗ったその声は、邦彦を震え上がらせ、極悪人であることを自覚させるのに十分だった。
しかし、邦彦の思惑はそこまでではなかった。
「それともう一つは、よりを戻したかったから――」
「何いってんの、あんた。浮気してそのまま浮気相手とくっついたくせに」
「実は千春とそこまでうまく行ってなくて、それでやっぱりお互いに元の方が良いってなったから――」
「わたし達はあんた達の道具じゃないんだよ!それであれか、これで勝って相手に言うこと聞かせるってしてそれで何が何でもよりを戻そうとしたのか?」
「そういうことです」
「あんた人の事舐めるのいい加減にしろよ!わたしはもうあんたと付き合うつもりは毛頭ないし、一度でも浮気したようなやつを信じるつもりもない。次同じような事考えたり言ったりしてみろ、ホントにこの世から存在消すからな?」
あまりの自己中心的な考えに、一向に感情を抑えることのできないちとせであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます