第34話 予定変更はつきもの(ただし個人旅行に限る) その1

 コンコン。


 再びノックの音が響き、全員の動きが止まる。


「今何時?」

「7時前くらい。さすがにチェックに来るには早すぎる」

「……とりあえず俺と彩希でファブっとくのはもうそろそろ終わるから。もし先生だったら入れちゃって大丈夫。先生じゃなかったら――」

「なんで他人を入れる必要があるんだよ。絶対に入れないからな」

「うん、それでよろしく」


 数言武弥と言葉を交わし、ドアのところまで歩いていってのぞき穴から覗く。

 すると廊下には。


「ありゃ、酒田先生だよ」

「マジか。10秒経ったら開けていいよ」

「おけ。10秒後ね」


 10数えた後、部屋のドアを開ける。


「おう、井野か。ちょっと失礼するぞ」

「どうぞ?」


 なぜか何も説明せずに部屋に入ってくる先生。


「ほう、大塚と川口ももういるのか。ちょうどいいや、少し話がある」

「話、ですか?」

「ああ。今日の見学場所でお前達嵐山の川下り入れてただろう?」

「ああ、そういえば入れてましたね」

「川下りをしない場合のプランはあるか?」

「ええ、ありますよ。伏見稲荷行って早めに神戸に出てしまうので」

「なら良かった。今回は申し訳ないんだが代替案の方にしてくれ」


 突然の保津峡下り禁止に、ちとせが一番に反応する。


「どうしてダメなんです?」

「このあいだ保津峡下りで色々あっただろう?」

「ああ、転覆事故ありましたね」

「そういえばそういうのあったな」


 先生のというセリフに心当たりのある俺と武弥が反応する。


「それだよ。いくら安全が確認されて再開したとはいえ、危険な事故があったのは確かだからな。今回いくつかの班がルートに入れてたんだがそこの部分は全員変えてもらうことになったんだ。すまんな」

「いえいえ、保津峡下りができなくても行きたいところはいっぱいありましたし、もともと雨が降ったりしたら行かないつもりでしたし大丈夫です」

「ええ。それに私達が個人で来ればいいんですから」

「なるほどな。じゃあそれでよろしく頼む。……部屋のチェックは栞通りの時間に来るからそれまでに支度終わらせておけよ?」

「「「「はーい」」」」


 伝達事項を伝え終わったところで部屋を出ていく先生。

 それを見送った後。


「……やっぱり保津峡下りはダメか」

「まあ仕方ないよな、あんなことがあったんだし」

「まあいい、清水寺を急ぎ足で回る必要もなくなったし、参道でのんびりできるし伏見稲荷大社は上がれるしな」

「そうねぇ、神戸も時間が取れたし、保津峡下りがなくなった分お金が浮いたしね」

「よし、せっかくだし洋館巡り行こうか!」

「もとよりそのつもりだよ。じゃなきゃ時間が余っちゃう」


 そもそも大阪を素通りし、京都と神戸だけを回るルートなのにいくつも作れてしまうのだ。

 それを1日で回れってのは無理な話であって、故にいくらでも代案は立てられるのだった。


「ああ、お金浮いたし何なら入館料が必要なところも入れるじゃん」

「ほんとに!?」

「ああ。3館券だったら新幹線ワープしてもいいかもしれん」

「嘘でしょ!?そんなに浮いたの?」

「だって嵐山への往復交通費に川下り分の料金、それから嵐山の方で行く予定だったお寺の拝観料も無くなったからね」

「そっか。でも新幹線ワープしないでしょ?」

「だって数十分しか変わらないのに千円以上かわるんだよ?はっきり言ってお金の無駄だ」

「なるほどねぇ。じゃ、支度しよっか」


 ちとせの言葉に頷き、俺たちは片付けを終わらせにかかるのだった。

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