第37話 予定変更はつきもの(ただし個人旅行に限る) その4

 秋の平日。

 清水坂の下の方は、とても静かな雰囲気が流れていた。


 人の気配が少ないからだろうか、なんとなく神聖な空気を感じる。

 しかしそれも、上に上がるに連れて消滅してゆく。


「人多くない?」

「見りゃわかるでしょ、みんな修学旅行生だよ」


 朝の9時近いのだ、学校で訪れる修学旅行生が続々とバスで到着するのである。

 それでもまだ朝だし、このあとも続々と修学旅行団体が到着するのだから、ますます混雑するのは目に見えている。


「清水坂で買い物するのはあとにしよう」

「そうね、先に参拝しておかないと混んじゃうもんね」

「そんなに混むもんなの?」

「武弥、そちらの彼女さんどうにかしてくれ」

「はいはい。……日曜日の渋谷とか原宿の竹下通り並みに混むけどいいの?」

「う゛……、絶対嫌だ、早く行こ?」


 全員一致で清水寺へと上がっていく。

 清水寺に入ると、勿論人は多いが、参道程ではなかった。


 人生で一度は来たかった、清水の舞台。

 いざ立って下を覗き込むと、その高さに圧倒される。


「すごく高いんだねぇ〜」

「な。落ちても死ぬことはそうないらしいけど、この高さで無事なのか?」

「まあ怪我はするんじゃない?落ちても無傷、とは言ってないんだし」

「それもそうか。そして左を見ると――」

「京都の町並みが一望できる、ってわけね。……2個だけ目立つね」

「ああ、白と赤のが京都タワーで、黒いのが京都駅だな。あの2つ以外は一定以下の高さだし」


 清水の舞台からは京都の町並みが一望できる。

 京都の町並みは、少し遠いここから見ると結構同じ高さの建物が並ぶ。


 しかしその中に、2つ寄り添うようにして立つやたら高い建物がある。

 白いのは明らかに京都タワーであり、その隣に立つ黒い直方体の建物は、見た目も位置も京都駅である。


 舞台を堪能したのちは、少し進んで、舞台の左手側に出る。

 清水寺の写真で一番出てくる構図のところである。


「ほら、武弥と彩希さん、早くそこ立って」

「なんで?」

「いいから早く!」


 武弥たちを急かし、柵ギリギリのところに立たせる。


「はい撮るよ〜」


 武弥たちカップルの思い出の一枚になるであろう写真に、気合が入る。

 清水の舞台を背景にした一枚。

 数枚撮ったのち、出来栄えを確認する。


「武弥、これでどうだ?」

「……ばっちりだ、あとでデータくれ」

「勿論だよ。こんどは俺たち撮ってくれるか?」

「モチのロンさ。NIKONの一眼だろ?」

「そうだよ。使い方はわかるでしょ?」

「当たり前だ。ほれ、早く並べ」


 俺とちとせの写真も撮ってもらう。


「こんなもんか?」


 武弥に見せてもらった写真の出来栄えに納得し、今度は3人を並ばせる。

 撮影者が1人必要だから、というわけで俺が撮影側に回ろうとしたそのとき。


「うちが撮りまひょか、井野さん?」


 聞き覚えのある女子生徒の声が聞こえたのだった。







――――――――――――――――――


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次回の投稿予定……9月18日(月)18:00頃

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