第10話 出産前の最終決戦 Side政信&ちとせ Part3

 翌日。

 教室に到着するなり、武弥と彩希が近寄ってくる。

 そして。


「おい、昨日の配信見たぞ。お前大丈夫なの?」

「ああ、あれ?今回は一筋縄じゃいかなそうだけど、でも今回が最後になるから大丈夫」

「今回が最後になる?」

「だって警察に突き出せば終わりだもの。今回やってきたのは名誉毀損だし、侮辱行為でもある。それに前回と違って、視聴者数の最低ラインの桁が違うんだよね」

「というと?」

「例のあの配信があったでしょ?で注目を浴びたら、そのまま動画の方も注目されてね。最近じゃカップルチャンネルがやるようなこともやるようになってるくらいだから」

「どのくらい増えたの?」

「ゼロが2つ分かな?」

「え、それってすごくない?」

「らしいね。あんま実感ないけどね」

「そっか……、それにあのちとせちゃんと政信くんだもんね、多分大丈夫だよ」

「そうだな。まだちとせの最終形態を開放するまでに至ってないし、多分大丈夫だと思う」

「ちょっと、まだ私第2形態すら見せてないけど?」

「一体何段階あるの?」

「今の所5段階のうちの1段階しか見せてないよ?あ、でもこの間脅したときはちょっと第2段階になりかけてたけど」


 あれでまだ第2形態、という発言に顔が引きつる俺たち3人。

 最終形態が第5形態に値するというのなら、一体どんだけ怖いのだろうか。

 第2形態ですらすでに相当怖いというのに、これではとんでもないことになる予感しかしない。

 しかし、ちとせはなぜ顔がひきつったのかわからないようで。


「あれ?何か私変なこと言っちゃった?」

「……配信のときも言ったけどさ、もう少しその怖さに気づいたほうがいいと思うよ、俺は。俺ですら怖いって感じるくらいだもん」

「そんなに怖い?」

「ちとせ、自分の母親は怖いか?」

「怒るとすっごい怖いよ?」

「そうか。そのお義母さんがだよ、ちとせは私より何倍も怖い、私なんか全然だ、と言っていたんだぞ?それで自分の怖さが分かるだろう?」

「……お母さんがそう言ってたの?」

「そうだよ?」

「私ってそんなに怖かったんだ……。気をつけるね?」

「ああ、普段はな。……あいつらに関しては別だけど」

「別?」

「多少は気をつけなくてもいい。埒が明かないなら全力でいってもいいけど、配信することだけは忘れないで。少しでも多くの人に事実を知らせるべきだからね」


 そのやりとりに、顔を少し青ざめる武弥と彩希。


「おい、政信」

「なんだ?」

「おまえも充分怖いからな?気をつけろよ?」

「言われなくても。……あいつらが敵だと、なぜかこうやっていくらでも思いつくんだよな」

「それでも気をつけろよ?時々グレーゾーンに入っているからな?」

「え?誰が?何の?」

「お前が!犯罪の!スレスレのことやってる時があるって言ってるんだ!」

「まあまあ落ち着いて。そんなに大きく言わなくても聞こえるから」

「お前がすっとぼけるからだ!」

「どうどう、タケくん。……いくら言ってもこの2人にあの事関連じゃ話通じないから」

「そうか。……やはりじっとしてるしかないのか?」

「それしかなさそうだね……。あ、ちとせちゃんも政信くんも。あんなに立て続けに色々書かれていたけど、ほとんどの人が信じてないね」

「そうなのか?」

「うん。何人か「やはりこいつらはクソだった!」みたいなことで動画作って上げていたけど、みんな大炎上してるもん。嘘を信じるな、虚偽で人を貶めようとするな、そんなやつが動画なんか作るなって」

「マジか……。そんなに俺たち人気か?」

「普段のいちゃいちゃっぷり、喧嘩だって全然怖くないただのじゃれ合い、だけど何回かあった元カノ元カレ大復讐回だけでみせたあの凄まじい怖さ、そのギャップもあってか、超人気だよ?なんならこの学校の大半、いや世間の高校生の大半が見てるからね?」

「だから登録者数が100万人超えているのか」

「そういうこと」

「……でもさ、ちとせ」

「何?」

「俺たちその割にはバレてなくね?」

「そうね……、この学校だとさすがにアレだけのことをやったせいかバレてるみたいだけど、他ではバレているという感じは今のところ無いね」


 チャンネル登録者数が多ければ、それだけの人に事実をばらまくことができるということだ。

 逆に言えば、それだけ多くの人に存在を知られているということでもある。

 と、全然身バレしていないという奇跡的な状況に驚いていたところで。


「ていうか、そんな話していて大丈夫なの?決戦までそんなに時間がないんじゃないの?」


 彩希さんによって現実世界に引き戻されてしまった。

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