第23話 最終戦 その7

 ちとせが額を抑えたとき、真の恐怖が放たれる。


 妄言のように聞こえるが、わりと事実に近い。

 案の定、ちとせが額を抑えてため息をつき、再び顔を上げたとき。

 その目は極限まで細められており、全身から凄まじい量の殺気が放たれていた。

 その目から出る殺意の目線に射抜かれ固まる千春達。


「あのさぁ、金輪際近づくなっていったあとに私なんて言った?」

「自己中は黙ってろ、でしょ?」

「それも言ったね。……じゃあ質問を変えようか。なんで政信が倒れたと思う?」

「あんたのせいでしょ?」


 大嘘である。

 あのときの原因は過労とストレス過多が最たる理由。

 こいつらとやりあったころだから、当然やらなくてはならないことが増えるとともに、ストレスの量が半端じゃなかった。

 つまり原因は100%こいつらである。


 そしてそれを知っているちとせは、ただでさえものすごいキレているというのに、そこにそんな発言を投下したものだから。

 いわゆる火に油を注ぐ事態になってしまった。

 当然ちとせはガチギレ。


「政信が倒れたのは過労とストレス過多が原因だった。特に大きな割合を占めていたのがストレス過多。あんたみたいなクズの相手をしなくちゃいけないばっかりに、政信はたくさんのストレスに晒された。あんたがいなけりゃこんなことにはならなかった!全部あんたのせいよ!あんたがいなければ、死ぬかもしれないなんていう状態にはならなかったの!人の命を奪う寸前だったんだよ!もっと危機感を持てよカス!死ぬギリギリまで痛めつけてやろうか!?」


 いままでのおとなしいキャラはどこへ行ったのか。

 次々と吐き出されていく暴言と、嗚咽混じりの怒鳴り声。

 俺が死にそうになっていた間の苦しみを思い出しているのだろう。

 その顔はどこか悲しそうだった。


 しかしその表情は一瞬で消し飛び。

 俺も初めて見るほどの怒りで染め上げられていた。

 俺ですらビビってしまうほどの怒り。


 さすがの千春たちも、何も言えない様子で固まっていた。


「黙っていないでなんとか言えよ。それとも本当に死に際まで苦しみたいか!?」

「やれるもんならやってみなさいよ。どうせできっこないんだから」

「ならやってやるわ!」


 何を勘違いしたのか、ちとせを煽る千春。

 そしてついに堪忍袋の緒が切れたちとせが一瞬で手を首に伸ばし、締め上げ始める。

 俺は慌ててちとせの手をほどき。


「政信、止めないで。もう我慢できない!」

「気持ちはわかるけど、やりすぎだ。俺はちとせに犯罪者にだけはなってほしくない」


 俺の必死な願いが届いたのか、手を緩めるちとせ。


 一方開放された千春はこれみよがしに荒い息を吐き、露骨なやられたアピール。


 露骨に安心し、目をニヤつかせる千春を見た瞬間、俺の中で何かが爆発する音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る