第7話 超高難易度の心理戦 その2
俺か捨て終わると、今度はちとせのターンである。
現状、ジョーカーはちとせの手中にある。
ということは、ちとせが勝つためにはジョーカーを何が何でも渡せばいいと思う人が多いと思う。
しかし、それだけではまた自分に帰ってくる可能性を捨てきれない。
そこで、俺がちとせから1枚抜き取るときにジョーカー1枚だけになるようにすれば良い。
そうすれば、ジョーカーが俺の手元に来ると同時にちとせは所持が0になり、彼女の勝ちが確定するからである。
とはいえ、相手が俺しかいない以上、どれをとってもペアが作れるわけであり。
ささっ、と1枚抜き取ると、すぐにペアを作って捨てる。
そして再来した俺のターン。
俺はジョーカーを取らないように、ちとせはジョーカーを取らせるように、また心理戦が開始されるのだった。
それを1番近くで見ているのが彩希さんと武弥だった。
同じ車内にいるクラスメイト全員が固唾をのんで見守らざるを得ないほどの殺気が渦巻くそのそばにいる彼らは、当然気が気じゃない。
自分たちの意識を保っているので精一杯であり、そんな他の人たちが何故か黙っているとか、そういうことに気づく余裕など一切なく。
ただただ、ババ抜きでこの2人より先に勝ってしまったことを後悔していた。
とはいえ、そもそもババ抜きをしない、政信とちとせの2人を最後まで残さないという選択をするな、という方が無理である。
誰がこんな可能性に気づくだろうか、たかがババ抜き如きで本気の心理戦を展開するやつが出でくるかもしれない、と。
武弥の頭の中は、後悔でいっぱいだった。
昔、政信が武弥に向かって大真面目に言ったことを思い出していたからである。
あのとき彼は、ババ抜きの真なる姿は超高難度の心理戦であると言っていたのだ。
当時はそんなわけあるか、と笑い飛ばしていたものの、そう思っているやつが2人揃ってしまえば、この状況を回避する方法は殆ど無い。
彩希はといえば、後悔はしつつもワクワクしていた。
確かにこの静かな、しかし熱き闘いを見るのはとても大変ではあるが。
それでも普段はなかなか見せてくれないような表情を見ることができる。
それに、今のちとせの表情や雰囲気はとっても怒っているように見えるが、その実、何気に楽しんでいることがにじみ出ていた。
特に、この間本気モードでブチ切れているちとせを知っているだけに、このような些細な違いにも容易に気付けるのだった。
それでもって今は、結構純粋にこの状況を楽しんでいた。
こうして、ごく一部の人間を除き、多くの人がビビる中、政信とちとせのババ抜きは決着がつこうとしていた。
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