第6話 超高難易度の心理戦 その1

 ババ抜き第2回戦。

 プレイヤー4名のうち2名が手札を0にして勝ち上がり、残る2名による後半戦。

 泣いても笑ってもこれが最後の勝つチャンスとなれば、気が引き締まるも同然。

 現状残っているのは俺とちとせ。

 そして俺の手元にジョーカーはなく、これはすなわちちとせの手の中にあることを意味する。

 ちょっとでも相手の表情を読み間違えれば、すなわちそれはジョーカーを引き、ビリになる確率を上げることになる。


 そしてちとせもそれが分かっているからこそ心理戦に持ち込んでくるわけである。

 どこまで相手の内心を見抜けるか、ババ抜きというゲームの根本にあるのはまさにそれであり、何気に超高度な技術を必要とするのだ。

 俺もちとせも何重にも内申を隠し、罠をこさえることが大変得意である。

 ということは、お互いにいくつもの罠を仕掛け合うのは自明の理。

 だからこそ、気を一層引き締めなくてはならないのである。


「俺のターンだな」

「そうだよ。さあいつでもおいで」

「……今日このときだけは一切容赦しない。それでいいな?」

「もちろんいいよ。……勝てるもんなら勝ってみろ」

「ほーん。……やるか?」

「いつでもかかってきなさいよ」


 決闘でもするような雰囲気が漂っているが、これはただのババ抜きである。

大事なことだからもう一度言おう。


 これは、修学旅行の新幹線の中で行われる、ただのババ抜きである。


 しかし。

 ちとせと正信を中心に物凄い闘志が巻き起こっており、さらに殺気も放たれていた。

 同じ号車の生徒全員が固唾をのんで見守る中。


 静かに、その闘いの火蓋が切って落とされた。


 まずは政信のターン。

 ちとせの出すカードに、一枚一枚触れていく。

 当然、ちとせがその表情筋をピクリとも動かすことがない。

 ひと通り触れた後、俺は怪しいやつをピックアップし、それらを何回か触れる。


 すると、一枚だけほんの僅かに目尻が下がったのを確認。

 表情を一切変えてないように見せかけつつ、内心ニヤニヤしているときにちとせはいつも目尻がほんの僅かに下がる。

 たぶん数ミリあるかないかの差ではあるが、そういうことも全部見えていないのなら、心理戦で勝ち抜くことはできない。

 そもそも相手を知らずして戦いに勝てるわけがなく、そういうものも総動員してババを判定。

 それ以外のものから適当に一枚抜き去った。


 10のハート。

 無事ババ以外を引き抜いた。

 手持ちの札とペアにして捨てる。

 そこまで行ったところで。


「ちっ。駄目でしたか」

「ふん。さっきの威勢はどこへ行った?これじゃあ俺の勝ちで終わるかな?」

「それもいつまで言っていられるだろうね?」


 よく事情を知らない人からしたら、殺意を振りまき合ってる、ものすごく仲の悪いふたりに見えるくらいに殺意を放出しながら、ゲームを進めていく政信とちとせであった。




―・―・―・―・―・―・―・―


補足


もしや政信とちとせの危機はこれか?と思う方がいるといけないので補足。


真剣勝負のときはお互いに全力をぶつけ合うのが一番良いと考えるふたりなので、二人共超本気でやってるだけです。

 むしろ、殺意をぶつけられることを喜んでいる節があります。

 全力をぶつけてくれていると思えるからだそうな。


 くれぐれも彼氏や彼女、夫や妻にこのような態度で接しないでくださいね?

 こんな喧嘩腰が許されるのはこのふたりだからであって、普通こんなになったらそれは交際の破局、あるいは離婚を意味しますからね?


 もしそうなっても私は一切責任を負いませんのでご協力をお願いします。

 どうしてもやりたいなら自己責任でやるようにしてください(いないと思いますが、一応念のために書いておきました)。

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